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本日紹介いたしますのはこちら、「藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編」第2巻です。
小学館さんより刊行されています。

大好評刊行中の本大全集の紹介は、「藤子・F・不二雄」のテーマにてまとめております。
ご興味等ありましたら併せてご覧くださいませ。

さて、今巻ではビッグコミックおよびその増刊で、75年から95年にかけて発表された短編をまとめたものとなっています。
F先生らしい作品がずらりと立ち並ぶ中、今回は人気の高い連作、カメラシリーズの一編を紹介したいと思います!

骨董品店でなにやら怒られている声がもれ聞こえてきます。
なにやらご主人にはあまり商才がない様で、今日もゲテモノに大枚はたいたと奥方に怒られてしまっているようです。
その怒号が障子を通して響き渡っている廊下をそっと通り抜けようとしている女性がいました。
ですがその気配を察し、その女性……竹子を奥方が怒鳴り止めました。
男か女かわからない格好をして働きもせず、バードウォッシングとやらに行くのかと不満顔。
ウォッシングじゃなくてウォッチングだ、これはちゃんとした仕事で、出版社と野鳥の写真集を出そうなんて話も持ち上がってるんだと竹子は反論します。
ところがそれこそ奥方様の気に入らないところ。
女の子くせにカメラマンになるのか!?と怒り出すのです!
女がなっちゃ悪いのかと反論する竹子。
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これは長引きそうだ……と思いきや、そこで今まで散々言われていたご主人が嫁に行くまで好きにさせてやれといったため、奥方様の矛先はご主人のほうへと向いたのでした。

そんな時、お店のほうに誰か尋ねて来ました。
いかにもお金持ちといった物腰の、倉金さんです。
どうもこの倉金さん、お店の常連と言うだけでなく、竹子に交際を申し込んでいるようで。
ドライブに誘おうと思っているのですが……と、接客していたご主人たちに話しかけている隙に、竹子はささっと家から逃げ出してしまうのでした。

望遠レンズをつけたカメラで、野鳥を撮影する竹子。
その傍らには、ひげ面でぽっちゃりしたさえない感じの男が同じく撮影をしております。
彼は宇達。
竹子とは結婚を話題に出すほどしっかりお付き合いしている関係なのですが、彼の収入で2人暮らしていけるか?と考えるとどうしても今すぐ結婚とはいきません。
ですがそれでも2人の仲は確かなもののようで、子供のようにじゃれあう姿は、紛れも無い2人の親しさを現しているのです。

家に帰ると、お店からセールスマンらしき男がとぼとぼと出てくるところでした。
彼の名はヨドバ。
人類の科学では想像もできないカメラを売り歩いているのですが、想像もできないものをホイホイ買う人もおらず、彼の商売はいつも苦戦を強いられているのです。
両親には断られたようですが、竹子はその商品に興味があるようで、そっとヨドバ氏を部屋に招き入れました。
彼が今回持ち込んだのは「値ぶみカメラ」。
写真を撮るとすぐさま被写体が写された写真が出てくるのですが、その写真の四隅にあるドットを触ると値段が表示されるのです。
左上のドットを押すとその被写体を作り出している原材料のみで考えた価格が、右上を押すとお店で売られている希望小売価格のような値段、そして左下を押すとその被写体が将来生み出す利益を表示するのです。
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そして右下は……と言うところで母がやってきてしまい、話もそこそこにヨドバ氏は逃げ出してしまいました。
……カメラを置いて……

その時母がやってきたのは、ヨドバ氏とのやり取りを聞きつけて、と言うわけではありませんでした。
どうも先ほどの倉金が、竹子をデートに誘ってきたから行きんしゃいと言いに来た様子。
女の一生は結婚で決まる、カス掴んじゃうと自分のように苦労するよ、人間霞を食って生きてはいけないんだ……と、夢も希望も無いだけにリアリティのある言葉を残してさる母親。
逆に父は、母がどういおうと結婚するのは自分なんだから、ホントに好きな人と結婚しろ、自分はしょっちゅう目利き違いをしているが、最大の目利き違いはごにょごにょ……と、こちらはロマンティックな意見を残しました。
確かに倉金はイケメンで誠実、竹子のことをちゃんと愛しているようです。
気は進まないながら、流れ上やむない感じで倉金と竹子はデートに向かうことになりました。
ですがいつまでたってもいい返事が聞けない倉金はとうとう焦れたようで、その日はどうしても結婚の返事を聞きたいと強引に迫ります。
夜の公園で2人きりになり、イエスかノーか言ってくれるまで返さないよと仁王立ち。
絶対後悔させない自身があるから強引に選択を迫っているそうなのですが……

悩んだ竹子は値ぶみカメラで倉金を取ってみることに。
原材料価格は、所詮人間なんて志望や炭素の塊だということで1000円弱。
希望小売価格は、身につけているものが高級品ばかりなために130万円!
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そして、これから生み出す利益はなんと、三十二億六千万!!
単なる金持ちのボンボンでなく、中身まで一流だとわかる倉金ですが……
そこに宇達が現われ、お前になんか竹子はやらん!とドラマさながらな台詞を決めてくれました!
対する倉金は、それを決めるのは竹子さんだ、とイケメンな台詞でしっかり受けて立つのです!
竹子はそそくさと宇達を値ぶみ。
原材料価格は832円、利益は
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……比べるまでも無い低さ……
頭を悩ませる竹子ですが、そこにヨドバ氏があらわれ、やっと見つけた、カメラの代金百万円払ってくれ!と駆け寄ってきます。
ですがはっきり宇達のだめっぷりを見せ付けられてしまったイライラから、竹子はこんなもの要らないとヨドバ氏にカメラを投げ返すのです!
これを売らねば食うにも困るヨドバ氏、値段を一万円にまで下げるのですが、もはや竹子はそれどころじゃありません。
ヨドバ氏は必死にそういえば右下のドットを説明してなかったですよね、と落ちていた宇達の写真を手にとって説明を開始します。
右下のドットは、撮影者にとっての被写体の主観的価格だそうで。
つまり、竹子が宇達にどれくらいの価値を感じているのかを表示しているとのこと。
右下のドットを押すと同時に、竹子は倉金と宇達のどちらかを選ぶ決断の一歩を踏み出します。
彼女が向かったのは……宇達の胸でした!
絶対的自信を持っていた倉金は、信じられないと繰り返すばかり。
それは竹子も同じこと。
信じられないが、これしかないんだ。
玉の輿を捨て、真実の恋に生きるなんて、絵に描いたような結末ね……と、夜の公園で愛を確かめ合う竹子と宇達。
そして、ヨドバ氏が表示した宇達の写真の主観的価格は……なんと、桁数が大きくて表示しきれない状態になっていたのです!
二人の世界に入ってしまった竹子達を振り返らず、ヨドバ氏はカメラ片手にその場をそっと去っていくのでしたとさ……
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というわけで、物の値段がわかるカメラを使い、コミカルでロマンチックな物語を描く本作。
この他、撮影した写真からさかのぼって10分間の音声が聞けるカメラ、夢の映像を撮影するカメラ、過去のその場所の光景を写すことの出来るカメラ……と、様々なカメラが登場します!
また、このカメラとカメラが巻き起こすアレコレだけでなく、カメラを売るヨドバ氏の奮闘も注目したいところ!
現代地球人の野蛮さに失望したり、旧時代的な(?)生活に感動してみたり……
挙句の果てにはそりゃあもう悲惨な目にあわされてしまったりと、思わず応援したくなってしまうこと請け合いなのです!
もちろんカメラシリーズ以外にも多くの見所が用意されています。
誰もが考えたことがあるんじゃなかろうかと言う妄想を描ききった「どことなくなんとなく」、失敗した過去をなんとか塗り替えられないかと過去の自分を説得しようとする「あのバカは荒野をめざす」、収録作の中で飛びぬけて新しい95年に発表された「異人アンドロ氏」等々……
ブラックな物から読後感のいいものまで、F先生テイスト満載の作品集となっているのです!!

F先生の真骨頂、すこしふしぎが堪能できる、「藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編」第2巻は好評発売中です!
人気の高いカメラシリーズの収録されている今巻。
カメラ縛りであっても、ネタのかぶりを感じさせないF先生の手腕を堪能できますよ!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!


藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編 2 (藤子・F・不二雄大全集 第3期)
小学館
2011-12-22
藤子・F・ 不二雄

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