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本日紹介いたしますのはこちら、「ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~」です。
秋田書店さんの少年チャンピオンコミックスエクストラより刊行されました。

作者はた吉本浩二先生との宮崎克先生。
漫画担当の吉本先生は、2000年ごろから活躍されている漫画家です。
代表作は「昭和の中坊」シリーズなどで、独自の泥臭くノスタルジックな思いを起こさせる絵柄が最大の特徴でしょうか。
基本的に原作つきの漫画を専門にしているようで、本作もご多聞にもれず宮崎先生の原作が付いております。
原作を担当しているその宮崎先生は、実に様々な名義で様々な作品の原作を手がけている漫画原作者。
有名なところでは宮崎まさる名義の「ザ・ドラえもんズスペシャル」、写楽麿名義の「あやつり左近」、宮崎博文名義の「暗闇をぶっとばせ!」あたりでしょうか。
今回もその経験を遺憾なく発揮しておられます!!

さて、本作はかつての手塚プロのアシスタントさんたちにも協力を仰ぎ、当時の手塚先生の鬼気迫る仕事ぶりを漫画化したものです。
「漫画の神様」の異名を持つ手塚先生に対し、その異名どおりの神様のような優しい人が呂のイメージを持つ方も多いはず。
ですが実は意外といろいろアレなエピソードも多く、本作では真摯な態度で漫画に打ち込む姿に加え、そういう意外な一面のほうもふんだんに描かれているのです!!

7話、6エピソードが収録されている今巻。
どれをとっても「手塚先生正気かよ!」ともらしてしまいそうになるとんでもないエピソードぞろい。
そんな中今回紹介したいのは、手塚先生のアレッぷりと漫画狂いっぷりが惜しげもなく発揮されている「アニメ地獄」です!

73年。
手塚プロダクションのマネージャーに漫画サンデー編集部の松谷さんが就任しました。
当時「虫プロダクション」「虫プロ商事」が相次いで倒産し、手塚先生周りはかなり困窮していました。
ですが手塚先生は、アニメさえやらなければ経営は問題ない、アニメはもうやらないから大丈夫、と宣言して松谷さんの手をとったのです。
その後手塚先生は一時期落ち込んでいた人気を取り戻してヒット作を連発。
確かにアニメをやらないことで経営を立て直したのです。
……が、その5年後。
手塚先生はあっさり自分の発言を翻し、「アニメをやります!」と満面の笑みで宣言したのです!
その時手塚先生は連載8本を抱えたマジ多忙!
しかもそのアニメやる、と言うのは手塚先生自身が絵コンテを切ったり原画を描いたりするという意味でもありまして……
無理にも程があるってもんなのです!
しかし手塚先生は、今度のアニメは世界初の2時間アニメなんだ!やるっきゃない!とやる気満々!
もうどうにも止められず、とうとうプロダクションにとっては鬼門であるアニメ政策をすることになってしまったのでした!

そんなあわただしい手塚プロにアルバイトとして入った清水さん。
担当は制作進行で、まあ要するに上がってきた絵コンテとかを下請けに持っていって指示したり回収したりする仕事です。
最初の2ヶ月は何もやることがなく、すごく楽ちんだったそうで。
ところがそのうち、外注先で絵コンテが上がってこないし、仕上げた原画のチェックの返事も来ない、と怒られるようになってきました。
更に手塚プロのアニメ制作の中枢にいたチーフの坂口さんも、放映まで二ヶ月なのに絵がぜんぜん入ってこない!と怒りのあまり電話を窓から投げ捨てちゃうほどイライラしだします!
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いよいよやばくなってきた……と言うところで、自体は更に悪化。
なんと放送2ヶ月前に、制作担当デスクが突然失踪してしまったのです!!
現場を知っているデスクが突然逃げ出すということは、相当ヤバイ自体だ……
アルバイトの身である清水さんもひしひしと感じる大ピンチ。
デスクが失踪し、どこのスタジオに何が行っているかもわからなくなってしまったうえ、残り時間は2ヶ月。
もう無理だ!そんな悲痛な声であふれる手塚プロですが、そんな中で手塚先生は「2番目に現場を把握しているのは誰ですか?」とたずねてきます。
きょろきょろと行きかう視線の中、視線が集中したのはアルバイトとはいえ制作進行をやっていた清水さん!
なんと清水さんは手塚先生直々に「明日の夜までに何がどこまで進んでいるのか把握しておいて下さい!」と頼まれてしまったのです!!

暗く思い空気に包まれていたプロダクションですが、手塚先生は明日問題を洗い出す会議をしよう、絵コンテは大方上がっているから大丈夫だ!とそのムードを振り払います。
翌日の会議で、清水さん懸命の奮闘で把握できた現状をリストアップし、問題の洗い出しが始まりました。
このほとんど白紙状態の原画は誰がやる?背景だけできている原画は?とあげていくと、なんと手塚先生、そのほとんどを自分がやると言い出したのです!
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何も知らない清水さんは、さすが手塚先生!これでなんとかなる!と表情を明るくしたのですが、ほかのプロダクションの皆さんは暗い顔。
……そう、地獄はこれからだったのです……!!

数日たっても一向に上がってこない原画。
手塚先生はと言うと、毎日の漫画の原稿を上げるので精一杯のようで、よそからの催促ではない「自社の作品」であるアニメの原画はどうしても後回しになってしまうのです!
プロダクションの皆さんは、手塚先生の……悪く言えば安請け合いにイライラを募らせまくり。
ですがなんとかかんとか原画も上がり始め、ようやく一部を試写してチェックするところまでこぎつけたのです!
ここまで来れば後はなんとか……ならないのが手塚先生の恐ろしいところ!
スケジュールがぎりぎりにもかかわらず、
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映し出された全部の部分に「リテイク」、描き直しを命じたのです!!
とりわけブラックジャックの歩くシーンはリテイクの嵐だったそうで、とうとうブチギレた清水さんは「この絵のどこがいけないって言うんですか!」とバイトなのに叫んでしまいました。
しかし手塚先生はそれに怒るどころか、
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目を輝かせて「ブラック・ジャックはこんな風に歩かないんですよ!!」と返し、坂口に後は任せるといって仕事場に戻っていってしまうのです。
その場はおさめろと説得された清水ですが、トイレで顔を洗ってきても怒りは収まりません。
もうこうなったら俺がガツンと言うしかねぇ!と意気込んで仕事場に向かうのですが、そこにはなんと
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床にダンボールを敷いて、15分だけ仮眠を取っている手塚先生の姿が!!
最初から無理なスケジュールなのに仕事を引き受け、スタッフに逃げられてもあきらめず、一人で全部やろうと更に状況を悪くし……
それでも妥協せずリテイクを連発し、へとへとになって床で眠る。
そんな手塚治虫の「神様」であり「人間」である姿を見て、清水は今まで以上の感銘を受けてしまいます。
それから清水さんも熱に浮かされたように必死で仕事に向かい、最後の3日間は完徹というすさまじいスケジュールを乗り越えてついにアニメは完成!
視聴率も言うことなしの高値を記録し、手塚先生の執念は結実したといえる結果を収めたのです!

そしてその完成品を見た手塚先生はこういったのです。
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「全部リテイクです!!」
ビデオ化や再放送の予定もないのに、この鬼のこだわり……
やはり手塚先生は神様と言うほかないでしょう……
祟り神かもしれませんけど!!!

というわけで、手塚先生の猛烈な仕事狂いぶりが描かれている本作。
このほか、25Pの読み切りをネームも割らないままの状態でアメリカに行ってしまい、帰国日が〆切日と言う相変わらずアレな状態に陥ってしまうお話、アシスタントの一人に「今週のブラック・ジャックのできはいまいち」と言われるや否や仕事場に舞い戻って8時間で一から描きなおそうとする話などの、手塚先生〆切ブッチギリなお話が収録!
それだけでなく、遠方の実家が火事になってしまったアシスタントのために一肌脱ぐお話といった言いお話も収録されています。
そんな手塚先生の生きた情報を得られると言う点が最大の注目点であることは間違いない本作。
その手塚先生の鬼気迫る仕事ぶりを描く、吉本先生の汗だくになる熱気が伝わってくる絵柄がまた最高にマッチしているのです!
あぁ、そんなべったり張り付いて描いたら原稿が汗で濡れちゃうよ!と余計な心配をしてしまうほどこちらに訴えかけてくる絵柄は、キレイさなどからはいい意味で程遠いもの。
ストーリーと絵があいまってそういった必死さ、修羅場振りを体験できる作品になっているのです!

手塚レジェンドを垣間見られる、「ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~」は全国書店にて好評発売中です!
永井豪先生などの大物ゲストも登場する本作。
表題どおりブラック・ジャックの創作秘話も勿論ありますが、それ以外の見所も満載ですよ!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!