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本日紹介いたしますのはこちら、「しょんぼり温泉」第1巻です。
集英社さんのジャンプ・コミックスより刊行、ジャンプスクエアにて連載されています。

作者は小田扉先生。
小田先生の作品は「小田扉」のテーマにて紹介記事をまとめています。
よろしければそちらもご覧くださいませ。

さて、本作は小田先生の得意とする日常漫画です。
団地が舞台なら「団地ともお」、警察が主役なら「マル被警察24時」、文化祭前後の物語なら「前夜祭」……と言うように、割とわかりやすいタイトルをつける小田先生。
ですから当然本作もしょんぼりしている温泉が舞台の作品になっています。

寂れた温泉街、諸掘温泉。
その町にある、潰れた観光ホテルの前に2人の子供が佇んでいました。
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このホテルはオーナーが夜逃げした、あと3年もしたら廃墟マニアが押し寄せるだろう……とどこか冷静な突込みをしている中学生の女子の名はまき。
そしたら皆喜ぶ?とと尋ねる小学5年生の少年はたかひろ。
まきはお食事処兼素泊まり宿「しまもり」の娘で、たかひろはスナック「山」の息子でして、両方ともこの温泉街で商売をしている家の子供です。
寂れていく一方の町を憂いつつ自宅に帰ると、まきの家の隣にある民宿の電気がついていませんでした。
まきは民宿のおじさん達がどこかに出かけてるのかなと思い、父親に尋ねてみれば帰ってきたのは「宿を辞めて息子夫婦の家に同居することにしたらしい」というものでした。
お別れの挨拶も何もなく消えてしまったお隣さん。
父親はそういうもんだと落ち着いたものですが、まきにはどうも納得がいきません。
そうやって人の心はすさんでいくんだ、と呟きながら床に着くのでした。

翌日、たかひろと一緒に海で釣り糸をたらすまき。
彼女は今のこの町は一家心中に向かっているともらします。
やる気の無い大人が頑張っている人まで道連れにして、町ごと無くなってしまう「町心中」に向かっている、と。
今年に入ってから潰れた宿も相当な数らしく、その日は着々と近づいてきていると言うことをを実感したまきは奮い立ちます。
この温泉街を何とかしよう!と!!
……自分の生活のために!

まきは子分格の子供たちを集め、とりあえずこれから何かをする前にねぎらいの意味をこめて安いアイスをおごりました。
その際、アイスの入ったボックスの上に諸掘ガイドマップなるものを発見。
とりあえずこの町の観光名所を確認する意味をこめて中を見てみるのですが、
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14~5年前に壊れた橋がそのまま載っていたり、今は台座しか残っていない弁天像が載っていたりとだいぶデータが古いようです。
そこでこのガイドマップの発行元の歴史資料館に行って見ると、なんとそこはラーメン屋でした。
潰れてしまっているのかと思ってラーメン屋の店主に尋ねて見れば、なんでもまだここは現役で歴史資料館なんだそうで。
促された先を見てみれば、待ち時間に読んだりするための漫画と一緒に郷土資料が並べられてるじゃありませんか!
なんでもラーメン屋の店主の父親が観光協会長をしていたそうなのですが、後任が決まらずうやむやのまま死去。
そのためなんとなくそのまま息子の店主が協会長をしているようなしていないようなあいまいな状況になっているのだそうです。
そこでまきは、ラーメンを食べてくから協会長の座を譲ってくれないかと頼んでみました。
するとどうでもよかったのであろう店主はそれを快諾。
さらに、昔のあまっている協会費も譲ってくれると言うではないですか!
まきはそのお金で新たな観光ガイドマップを作ることを決意!
子分たちにガイドマップに書かれていることが現状とどう食い違っているのか調査するよう命令し、自宅に帰るのでした。

調査の結果が出てみれば、なんかろくなスポットが残っていません。
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現存しているのは9割ラーメン屋の歴史資料館と、お土産センター、そしてちょっと対処に困る秘宝館のみ。
そこでたかひろが提案してきた、「新たな観光スポットを作ろう」と言う意見に乗ってみることにしました。
ですが子供に出来ることなどたかが知れています。
弁天像のあったところに泥で犬の像を作ったり、公園に手作りの射的場を作ってみたり……
正直まきですら行きたい気は起きないラインナップですが、とりあえずこれで客の反応を見てみようということになりました。
運よくその日、まきのうちにとまりのお客さんが来店。
そこでまきは週末の明日、この町を案内させてくれないかと頼んでみました。
お客さんはそれを快く承諾。
まきはこれが町活性化への第一歩だと胸を躍らせ、テルテル坊主をつるすのでした。

翌日、たかひろと一緒にお客さんの案内をするまき。
いろいろと案内してみますが、
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あさっぱらから秘宝館にはそうそう入りませんし、オススメの外湯は管理人が気まぐれなため休業、かつて使われていた足湯も今や単なる水溜り、泥の像も密かに日が明ける前に降っていた雨で崩落、頼みのお土産センターもシャッター街同然……とボロボロの結果に終わってしまいました。
それどころかそのお客さんたちは20年ほど前にここに着たことがあるそうで、泥の像を作った場所にかつて弁天像があったことや、今や何の変哲も無い橋が昔めがね橋と呼ばれていたスポットだったことなどを知っていて、逆にまきたちを案内してくれているような状態になってしまうのです。
かつての思い出に浸るためにここに着たお客さん。
いろいろ変わってしまっていたが、君たちのおかげで楽しかったよと言って帰りのバスへと乗って行きます。
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別れ際に「きっとまた来るから……その時また案内してくれる?」と言い残して。

そんな思い出を噛み締めて帰っていったお客さんを見送ったまきとたかひろ。
たかひろにはまだこのなにもない町を楽しいといってくれたことが理解できないのですが、まきの心には何か響くものがあったようです。
この町にお金を落とさせるためだけに作った観光マップを破り捨てるまき。
人のつながりの大切さを思い出したのか、
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勝手にマップを破り捨てたことにブーイングをするたかひろを招き、一緒に夕食を食べるのでした……

というわけで、鄙び放題の温泉街を舞台にした日常を描く本作。
このまきを主人公にして、温泉街の復興を目指す……というお話もあるのですが、基本的にはこの温泉街に縁のある人たちの様々な出来事を描く群像劇となっています。
小田先生の作品といえば、どこかずれた登場人物たちがとぼけた日常を送りつつ、たまにいい話を差し込んでくるというものが基本パターン。
ですが本作では他の作品ほど強烈な個性を持つキャラは登場せず、ギャグも控えめでいい話の比重が大きくなっています。
オカルトチックなお話や、独特のとぼけたギャグももちろん入ってはいるのですが、それでもシリアスな印象が強く、悪く言ってしまうと地味。
ジャンプスクエアという少年誌で連載しているのに、バリバリの青年誌であるスピリッツ連載の「ともお」よりもしっとり進んでいきます。
ですがそのおかげで小田先生作品の中でも屈指の心にしみるお話になっているのも確か。
大泣きするような大感動ではないのですが、しんみり&ほっこりさせてくれる実に読後感の良い作品に仕上がっているのです!

小田先生初となる少年誌連載作品「しょんぼり温泉」第1巻は全国書店にて発売中です!
派手さは一切ありませんが、じっくりと読ませるお話揃いの本作。
日常漫画が好きな方には是非とも読んでいただきたい、内容の濃い作品となっております!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!



しょんぼり温泉 1 (ジャンプコミックス)
集英社
2010-12-29
小田 扉

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