本日紹介いたしますのはこちら、「わたしは真悟」です。
小学館さんの小学館文庫より全7巻が刊行されています。

作者は楳図かずお先生。
楳図先生の紹介と個人的最高傑作の「神の左手悪魔の右手」の紹介は11月17日の記事にありますので興味等ございましたらごらんくださいませ。

さて、こちらの「私は真悟」ですが、楳図先生作品としてだけでなく、あらゆる漫画作品の中でも異質極まりない作品となっています。
なにせジャンルわけのしようがないんですから。
どういった話かといいますと、これがまた一言では説明できない摩訶不思議なお話なのです。
とある町工場に2台のロボットが入荷されます。
その工場の従業員の息子がサトルです。
サトルはそのロボットに興味津々で、見に行きたくてしょうがない気持ちを抑えて毎日を過ごしていました。
そんなある日、学校の社会見学の一環としてその工場へロボットを見に行くことが決まりました。
しかしロボットといっても工業用のアームで何か物を作るだけの代物でサトルは拍子抜けしてしまいます。
ですがその工場に別の学校も見学に来ており、そこで一人の少女に出会います。
彼女はマリン。
一目見たときからサトルとマリンは惹かれあい、その後頻繁に逢引をするようになりました。
その場所はもっぱらあの工場でした。
工場でロボットに様々な命令を組み込んで遊んでいたのです。
そんな幸せな毎日を送っていた二人ですが、マリンがイギリスに引っ越すことが決まってしまいました。
反発した二人は家を飛び出し、「結婚して子供を作る」と決めました!!
ンマーおませさん!……といいたいところですが、二人は子供の作り方なんて知りませんでした。
そこで様々な命令を組み込んだロボットに子供の作り方を聞いてみることにしたのです。
出てきた答えは「333ノ テッペンカラ トビウツレ」でした。
彼らはそれを「東京タワーの上から飛び降りる」ことだと理解し、夜の闇にまぎれて東京タワーの頂上目指して登ってしまうのです!!
とにかく言いようのない鬼気迫る迫力を持ったそのシーンは手に汗を握ってしまいます。
やってること自体は意味不明なんですが、それでもひとつ間違えれば死という緊迫感をひしひしと感じさせ、楳図先生の本気がギュンギュンと感じられるのです!
その謎のクライマックスは謎のまま収束する……と思われたのですが、この行動がひとつの変化をもたらします。
東京タワーから飛び降りたことをきっかけに例のロボットになんらかの衝撃を与え、なんと自我を目覚めさせたのです!!
ですが目覚めたばかりのロボットはその時は特に何をするわけでもありませんでした。
ロボットが動き出すきっかけは、完全に離れ離れになることになったマリンにサトルが届くあてのないメッセージを打ち込んだことでした。
「マリン ボクハイマモ キミヲアイシテイマス」と。
それによってロボットは目覚めました。
その時工場は景気が悪くなり、ロボットを処分してしまおうとしていました。
そして自我の芽生えたロボットを前にして口をついた経営者の「壊す」という言葉。
「壊す」とはどういうことなのか。
このサトルのメッセージも壊されてしまうのか。
そう思った瞬間、ロボットは完全にひとつの意識を持った物体になりました。
アームを使って自ら移動し、電話線に介入してメッセージを送り……
サトルのメッセージをマリンに届けようと考えたのです!
そして全7巻中に第3巻終盤にしてついに彼はこう語ったのです。
「ワタシハシンゴ」
真鈴(マリン)と悟(サトル)の間に生まれた「真悟」だと。
「わたしは真悟」だと!!

物語の折り返しも間近という時点でついに明かされるタイトルの真実!
前後の異様な盛り上がりもあり、とうとうきたか!!と熱くなってしまう演出ですよ!!
その後主人公、真悟の長い旅が始まります。
イギリスにて幼女性愛の変態英国外道男に拉致監禁されてしまうマリンのもとへ向かい、真悟はその自我をどんどん拡大していき、ついには神の領域にまで達します!
ですが凄まじい事件に巻き込まれてしまうマリンを救うため、そして人類の過ちを正す為にエネルギーを使い果たし、どんどんと真悟としての力を失っていきます。
ですがマリンに託された新たなメッセージ、「サトル、ワタシハ イマモ アナタガ スキデス。 マリン」を悟るに伝える為、全身の力を振り絞ってサトルのもとに向かうのでした……

最後の最後、物語は唐突ともいえる終焉を迎えます。
マリンのメッセージは伝わることはないのです。
ですが真悟の行動は無駄ではなく、あるひとつの言葉をサトルに残すことに成功します。
サトルがその言葉に気付き、驚きの声を漏らす。
そのシーンでサトルとマリンと真悟の物語は終わってしまうのです。
サトルとマリンはこの後どうなるのか、まったく語られることはありません。
しかし彼らは最後の言葉を胸に強く生き続ける……そんな余韻だけは確かに感じられるのでした。

というわけで、ジャンルわけ不能な物語は不能なままおわります。
主役は中盤まで動き出さず、恋愛を描いた物語にしてはかかわる脇役達が続々と不幸に陥ったり死んだりしていって血生臭く、ホラーというほどに恐ろしさはなく……
とにかく不可解な作品です。
ですが、楳図先生の傾けた猛烈な情熱は物語全編からものすごい勢いで感じられ、それに引っ張られるかのように物語は電波を発しつつも傑作といえる面白さに仕上がっています。
楳図先生といえばホラーor下品ギャグと考える方も多いでしょうが、そうでない「愛」をモチーフにした傑作までも作り出す文字通り鬼才なのです!

「わたしは真悟」は全7巻が文庫にて発売中です。
楳図先生の気持ちがゆんゆんと感じられる傑作、あなたにも是非読んでいただきたいものです。
さぁ、本屋さんにダッシュだ!!

わたしは真悟 (Volume1) (小学館文庫)
小学館
楳図 かずお

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