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本日紹介いたしますのはこちら、「BALANCE POLICY(バランスポリシー)」第1巻です。
作者は吉富昭仁先生。
少年画報社さんのTSコミックスより刊行されました。

さて、本作はいわゆるTS(トランスセクシャル)モノです。
吉富先生と言えば、アニメにもなった「BLUE DROP(ブルードロップ)」等、TS作品を積極的に描かれているわけで。
エロス要素の多い作品を描くこともままある吉冨先生ですが、本作はどちらかと言うと「地球の放課後」に近い、特殊な背景を持ちながらも淡々とした日常が描かれるタイプの作品となっているのです!

ある夏の日のこと。
自転車を押しながら真臣が友人の家を尋ねると、そこには1人の美少女が待ち構えていました。
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真臣に久しぶりだなと声をかけてくる少女。
真臣はすこし間を置いた後、一年ぶりだなと返します。
そして少女に導かれるまま、真臣は彼女の家へとあげてもらうのでした。

少女は胡坐をかいて座りながら、箱に入ったゲームソフトをあさりはじめます。
ゲームしよっか、いつものやつ。
いつものって、一年前のいつもの?
データとかまだあるの?と尋ねる真臣に、ちゃんととってある、1年後にまた続きやろうって約束したじゃん、と言いながらセッティングを続けるのです。
その無防備な姿に、頬を染めながらついつい視線をやってしまう真臣。
ですが少女は突然セッティングを真臣に任せ、麦茶をとってくると言い残して部屋を去っていってしまいました・
彼女を見送った真臣は、無言でテレビのリモコンを操作してニュース番組を映し出しました。
そこでは政治家らしき人物が、「男女均衡対策問題」なる物に関して話しています。
少子化問題は世界中に広まっています。
原因は未だ不明ですが、女児の出生率の低下が顕著です。
そこで先進国では、試験的に男性でも出産できるよう、適合者には女性化の処置を求め……
そんな発言を聞きながら、部屋に飾ってある2ショット写真に目をやる真臣。
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その写真には、真臣ともう1人の男子が方を組んでピースをしている姿が写っているのですが……そのもう1人の男子の顔は、真っ黒に塗りつぶされてしまっているのです。
「真臣の子供、俺が産んでやろーか?」。
そんな声が突然かけられました。
ビックリした真臣、咄嗟にリモコンでテレビをゲーム画面に戻します。
なーんつって、ねーよバカ、と憎まれ口を叩きながら横に座り込む少女。
そんな彼女に、真臣は言うのです。
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「健二、おまえさ… すげーカワイイな」と。

健二と真臣はゲームを始めますが、間もなく投げ出してしまいます。
どうも1年前とは感覚が違うようで、うまいことゲームを進められないのです。
女の肌は男と違って敏感で、まだこの感覚に慣れていない。
この体に慣れるには、指先だけ動かしててもダメだよな。
そういいながら、今度は二人でキャッチボールをすることになりました。
筋力も落ちているのでしょう、大分近い距離でのキャッチボールをする二人。
そんな最中、健二は言い出します。
知ってるか?俺の体、戦闘機一機分の金がかかってるんだって。
維持費も戦闘機と同じくらいかかるんだと。
男を無理矢理女に改造してまで、人間って生き残らなきゃならないもんなのかね……
ボールを見つめながらどこか寂しげに紡がれたその言葉を、複雑な面持ちで聞く真臣。
その言葉に、ふさわしい返答が見つからないのでしょう。
それは当の健二自身も同じ。
そんなムードを壊すかのように、突然健二は大きく足をあげ、大仰な名前の魔球を真臣に投げようとするのですが……
バランスをくずしてハデにスッ転んでしまいました。
骨や神経なんかも女性のものに改造されたせいで、健二の思い描く動きが出来なくなってしまっているようで。
そんな自分の体に悪態をつくしかないのでした。

「姉ちゃん」。
真臣はそう言って、座り込む健二の背後に視線をやりました。
そこに断っている女性は、真臣の姉。
彼女も今の健二を見るのは初めてですが、すこし迷った後健二君だよね。と声をかけてきました。
すると健二はそれには答えず、ささっと真臣の後ろに隠れてしまいます。
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さらに1年ぶりだねと会話を続けようとする真臣の姉から、文字通り逃げるように部屋の中へ走っていってしまうのでした。
追いかけようとする真臣の姉ですが、空気呼んでよ、恥ずかしがってるじゃんとそれを止める真臣。
そんなやり取りの間、ずっと健二は真臣の姉の資格になる障子の裏で座り込んでいるのでした。

やがて真臣の姉は、お土産のスイカだけをおいて帰ったようです。
そのことを告げると、健二はぼやきます。
「ちー姉ちゃんはやさしいなあ、カワイイなあ、美人だなあ、素敵だなあ、スゴイなあ…」。
ひとしきり真臣の姉を褒めた後、健二はさらにぼやきはじめます。
何で人が生まれなくなったんだろう。
男を女に改造して子供を生ませる。
何で俺はそれの適合者だったんだろう。
真臣は健二に語りかけます。
「健二、姉ちゃんのことまだ好きだったんだな」。
焦がれていた憧れの女性に、1年ぶりに再開したときには自分が女性になっていた。
その気持ちは本人以外はっきりとはわかわないでしょう。
大きな喪失感と悲しみを感じていることだけはわかると言えるのではないでしょうか……?
当たり前だ、体は女になっても、脳ミソは男のままなんだから。
うっすらと涙を浮かべていた健二ですが、やがて声をあげて泣きはじめてしまいました。
真臣、俺が泣いてたこと、誰にも言うなよ。
すすり泣きながらそういう健二に真臣は、「言わないよ」としっかり答えるのでした。

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と言うわけで、緩やかに滅亡に向かっていく中での日常を描く本作。
魔法的なパワーにたよることの多いTSモノですが、本作はSF風味。
本作の主役と言える健二もまた、手術によってその体を変えているのです。
男性の心を残しながら女性に代わってしまった健二。
そしてその親友であった真臣。
友情のままか、それが愛情へと変わっていくのか。
二人がこれからどう接していくのか、それが本作のメイン要素といえましょう!!
この後二人にかかわりの不快新キャラがでてきますし、何より健二にとっての初恋の人も身近にいるわけで、順調に距離を縮めて行って……と言うお話にはならなそうです!!

さらに忘れてはいけないのが、この二人以外の様々な要素。
終末に向かい始めている世界の模様は?
何か奇妙な存在に見えてしまう、健二の父親の真意は?
緩やかな日常の中にも、その平穏をくずしそうな要素が見え隠れするのです!!

ちなみにエロス要素もしっかりありますのでご安心(?)くださいっ!!

親友との不思議な関係、「BALANCE POLICY(バランスポリシー)」第1巻は全国書店にて発売中です!
物凄く丁寧に時間を重ねて行っている本作。
吉冨先生のあとがきからもわかるのですが、本作まるまる一冊を使って、健二と真臣が出会ってから丸1日ほどしか時間が経過していないのです!
この調子で物語が進んでいくのか?それともこのあと何かすごい動きがあるのか?
そのあたりにも注目していきたいところですね!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!