本日紹介いたしますのはこちら、「藤子・F・不二雄大全集 T・P(タイム・パトロール)ぼん」第1巻です。
小学館さんより刊行されました。
待望の第3期刊行が始まった本大全集の紹介は「藤子・F・不二雄」のテーマでまとめております。
よろしければそちらもあわせてご参照くださいませ。
さて、本作はF先生作品にはたびたび見られる「タイムトラベル」をメインに据えた事件解決モノです。
基本としては便利な道具を使っていろいろと困難を乗り越えつつ人を助けていくわけですが、活躍の場は過去。
下手なことをすれば歴史を変えてしまうことになるため、様々な縛りを科せられながら事件に挑むのです!
丘の上に700年聳え立っていた杉の木。
度重なる公害の影響なのか、ついに枯れてしまい、切り倒されてしまいました。
子供ながら時代の移り変わりに寂しさなんかを感じながら、友達とわかれて自宅に帰る中学生のぼん。
誰もいない自宅の鍵を開け、おいてあった書置きに書かれたとおりおやつを食べ始めます。
そしてやはり書置きに書いてあったとおり「5時まで勉強」をしようと机に向かうのですが……そこは遊びたい盛りの中学生。
まだ3時だというのにもうやる気がゼロになり、時計を睨んで速く動けと願いだす始末なのでした。
するとどうでしょう。
いきなり時計が超高速でぐるぐる回りだし、外の風景も昼になったり夜になったりめまぐるしく変わるではないですか!
なんだこりゃと戸惑っていると、今度はズシンと地面が揺れたのです!!
天変地異か!?と思いきや、外を見てみれば普通に明るくなっていて……要するに普通の風景に戻っています。
これはノイローゼに違いない、やはり無理に勉強しすぎちゃ駄目なんだよな!と、この不思議体験を自分に都合いいように捉えたぼんは家を飛び出して遊びに行くのでした。
その道中、妙な格好をした女の子に出会うぼん。
彼女は何かをぼんに聞こうとするのですが、すぐそれを取りやめてどこかへ走り去ってしまいました。
変なやつだなぁと思いつつも友達のお家に向かうぼん。
するとこんどはなんかスライム的なへんなのが現われ、何かをぼんに聞こうとしてはやめてどこかへ飛び去っていくではないですか!
こりゃいよいよ頭が変になってきたと顔を白黒させながら足を進めるのでした。
訪ねた友人は快くぼんを迎えてくれます。
それもそもはず、その友達も親御さんに勉強しろと圧力をかけられており、友達が来ている間だけはとりあえずその圧力から逃れられるんだそうです。
ですがそんなことを聞いてしまえば、ぼんも長々とくつろぐことなんかできやしません。
親御さんに悪いから帰るよと立ち上がろうとするぼん、そしてそんなこと言わずにゆっくりしていってね!ととびっかって来る友人。
帰る帰らない、なんだかんだともみあっていると、バランスを崩した友人はケンケンするような感じでベランダの方へ。
そしてそのままベランダから地面へまっさかさまに落ちてしまったのです!!
運の悪いことにこの友人宅は4階にあったものですからたまりません。
友人はどくどくと血を流し、ピクリとも動かず……
ショックを受けたぼんは自分が殺したんだと真っ青になり、友人の母親にそれを告げなければと泣き喚くのです。
あわてふためいていたぼんは、そのとき先ほどであった謎の少女とスライムがその場に現われていたことに気が付きません。
彼女は「やっぱり間に合わなかった」「巻き戻すしかない」といっていたのですが……
友人の母親がベランダから下を覗き込もうとしたそのとき。
ぐにゃりと景色が歪み……
まるで巻き戻したかのように友人と揉みあいになる前の状態に戻ってしまったのです!
そんな不思議すぎる出来事、友人本人もまるで覚えていない様子。
本当に頭が変になったんじゃなかろうか。
そんなことを思いながら、杉の木の切り株の上で物思いに耽るぼん。
すると今度は視界の隅になんか見たことのない乗り物が入ってきました。
ちょっとかっこいいじゃない、とまたがってみると、いきなりそれが動き始めます。
そして先ほどのように景色が歪みだし……
気が付くとぼんはなんだか良くわからない場所に移動していたのです!
……いえ、どうやらいた場所は変わっていない様子。
先ほどの杉があった丘ではあるようなのですが、切り株がなくなっている……どころか、眼下に広がっていた町がきれいさっぱりなくなり、山や草原ばかりが広がっているのです!
事態が飲み込めないぼんですが、あの変な乗り物で来ちゃったんだから、アレで帰れるはずだと考えました。
ですが、あの乗り物があるはずの場所には何もありません。
今まで散々変なことに見舞われてきたぼん。
もう驚かないぞ!と言いながらも、やっぱり耐え切れなくなってもう嫌だ、誰か助けてと叫びながら走り回りました。
しかしどれだけ走り、叫びまわっても誰もいません。
やがてあたりが暗くなってくると、どこからともなく大人数の足音が聞こえてきました。
もうこうなったら矢でも鉄砲でももってこいと足音のほうへ近づくと
矢とか鉄砲とか持っててもおかしくない感じの鎧武者の集団がいるではないですか!
ビビッていると、そこへ誰かが声をかけてきます。
先ほどの少女とスライムでした。
どうもあの乗り物の持ち主のようで、スペアを使ってぼんを探し、ここまでたどり着いたようなのです。
あの乗り物は「タイムボート」と言うらしく、タイムマシンのようなものだそうで……ここは700年ほど昔のあの丘なんだそうで。
ぼんは助かったとばかりにその少女に連れられて現代に無事帰り着きました。
今日起こった様々な不思議なことは、全部彼女(と、調子の悪かったタイムボートの暴走)が巻き起こしていたんだそうで。
謎も解け、無事帰ってこられたと喜び跳ね回るぼん。
ですがこのとき、ぼんには残酷な処分が下されることが決まっていたのです。
彼女達は、絶対の秘密裏に歴史が変わらない程度の重要ではない人物を助けるタイムパトロール。
本来忘れさせる機械を使ってその対象なんかに接触するのですが、ぼんは機材の故障によりその存在を知ったままになってしまいました。
タイムワープができることを知り、その情報が漏れたりすれば、悪人が利用して世界をめちゃくちゃにしてしまう可能性もあるわけで。
ぼんは様々な事情や未来の法律と照らし合わせ、生まれなかったように歴史を変える……その存在そのものを消されることになってしまうのです!!
そんなことをはっきり告げられてしまうぼん。
彼は血相変えてそれを阻止しようとするのですが……
すんでのところでその決定は覆されます。
ぼんが歴史において重要な役割を持っているとの事なのです!
ですがこのまま泳がすことなどできないわけで。
タイムパトロール以外にタイムパトロールの秘密を知られてはいけない、ならばぼんもタイムパトロールにするしかない。
そんなわけで、とんとん拍子にぼんはタイムパトロールの一員に。
なんだか成り行き続きですが、こうして彼は世界の歴史の裏でひそかに人助けを続けることになったのでした!!
というわけで、ひょんなことからタイムパトロールの一員となるぼんの奮闘を描く本作。
ドラえもんなどでも大変お世話になる、タイムパトロールを主役にした作品と言うことで、決して少なくないF先生の事件解決物の中でもめずらしめの読み味となっています。
歴史上で大きな影響を与えない人物を助けるという大前提はあるものの、それだけではやはり地味になってしまうと考えたのでしょう。
ガンガン結構歴史的に有名な人を、いかにして歴史を変えないよう助けるか、と言うお話も多いのです!
あの有名な「玉藻の前」を助けることになったり、西遊記のあの人のモデル「玄奘」のすぐそばのおつきの者を助けたり、ギリシャ神話、クレタのミノタウロスの生贄とされた人を助けたり……
そのときいろいろとへましてしまったりして、ちょこちょこと影響を与えたことが今の現実世界の歴史になっているなど、いろいろと楽しい工夫がなされているのもまた流石。
単なる事件解決物に終わらない、様々な方向で楽しめる作品になっているのです!
ちなみに、ぼんが歴史的にどんな重大なことをするのか?と言う謎もきっちり解決。
F先生らしい「歴史的に重大なこと」には思わずクスリとすること間違いなしです!!
様々な舞台で繰り広げられる、「藤子・F・不二雄大全集 T・Pぼん」第1巻は好評発売中です!!
「少年ワールド」誌連載分の第1部といえる物語が収録された今巻。
続巻できっと収録されるであろう、幻の単行本未収録作品に期待せざるを得ませんね!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!