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本日紹介いたしますのはこちら、「大好きが虫はタダシくんの 阿部共実作品集」です。
作者は阿部共実先生。
秋田書店さんの、少年チャンピオンコミックスより刊行されました。

さて、本作はいわゆる短編集です。
阿部先生のデビュー作である「破壊症候群」をはじめとして、チャンピオンの姉妹(?)web雑誌で連載された「ドラゴンスワロウ」、ネット上で話題となった表題作「大好きが虫はタダシくんの」等、7作品が収録されています。
そんな中で今回は、現在ではなかなか新作の発表が難しそうな阿部先生の30Pを超える長編、「破壊症候群」を紹介したいと思います!

体育の授業中のこと。
バレーボールに興じていた女生徒達が、にわかに騒ぎ立て始めました。
蜂です。
蜂がやってきたのです!
その大きな蜂が女子生徒の真っ只中に飛んできたからもう大変!
大騒ぎになる女生徒の中で、一人だけその蜂に立ち向かっていく女生徒がいたのです!
その少女は蜂へまっすぐ拳を伸ばし
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蜂ごと後ろに建っていた建物……体育館を破壊してしまったではないですか!!
またやっちゃった、とあせる彼女。
その名は結城凜、15歳です!

彼女の言葉通り、こういった破壊行為をしてしまうのは初めてではありません。
1学期の体力測定の時には、測定器具を次々に破壊してしまった前科もありまして。
何の役にも立てないくせに迷惑だけはかけやがって、体力自慢してんじゃねえよ化け物が!と先生にまで頭ごなしに罵倒されてしまうのです。
そんな凜を、蜂からみんなを守ろうとしたんじゃないかとフォローしてくれるものもいます。
彼女の幼馴染、安田寅です。
ですがだからと言って生徒達の勢いはおさまりません。
蜂より凜のほうが殺傷力が強いよ!と怒ります。
洒落にならん怪力だし、チビだしブスだし箸のもち方が変だし、英語の発音がネイティブすぎて逆にうざいし……と、なんだかついでに関係無い部分まで罵り始めました。
凜は怒ることもせず、その場等をすべてその通りだと受け入れてしまうのでした。

その怪力を活かし、先生に命ぜられた片づけを手早く済ませていく凜。
寅もそれに付き合うのですが、寅は先ほどの罵倒にご立腹。
お前がてを出して来ないって知ってるから調子に乗るんだぞと凜に注意するのですが、凜はこともなげに返すのです。
「え?殺しちゃうよ?」と。
サラリとそういう凜にビックリする寅ですが、彼女は100VS100の喧嘩に強制参加させられ、小鳥と戯れるように加減したのに199人(つまり味方も含めての自分以外全員)を「幸い死人がでなかった」と言うレベルまでやってしまったそうで。
人間はスカスカで質量なくてだめだ、でも力士100人ならちょっと楽しそう、などとニヤニヤしだす凜を見て、流石の寅もちょっぴり引くしかないのでありました。

その頃、なんか騒いでる変なのがいました。
「虫人間」の一軍です。
先ほど凜がつぶした蜂は、偶然にも彼らが放った偵察用蜂型マシン!
小さくても戦車並に硬いはずのあのマシンがなぜ破壊されてしまったのか?人間には無理なはず……そう呟く虫人間の王は、あの蜂型マシンを作った博士を早く捕まえろと指示を出したのです。
その博士は、虫人間に拘束されて色々作らされていたようなのですが、今は絶賛脱走中。
密かに作った強化スーツを着込み、追っ手をなぎ倒しながら逃げ回っていたのです。
とは言え、もともと非力な博士がこのパワー増加服を着ても、戦局をひっくり返すほどの超パワーは手に入れられません。
もっとパワーのある人間を探さないと……
博士は当てもなく街を走り回るのですが……

その頃、下校中の凜は寅に夢を語っていました。
子供のころから映画でも現実でも建物爆破や崩壊が好きでときめいていて、思っていたんだ。
私も破壊したいって。
突然のカミングアウトに驚きを隠せない寅。
しかも凜の驚愕のカミングアウトはまだまだ続くのです。
破壊をストレス解消なんて低俗な行為と一緒にしないで、破壊は芸術なんだ。
私の破壊力が高いのは、怪力だからじゃない、本当はベンチプレス400キロ程度の非力なんだ。(非力……?)
大事なのは物質の急所をつくこと。
最も力を要せずに破壊できるスウィートスポット、それを生まれつきみることができるんだ。
そして彼女は、夢を語ります。
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あの、町一番高いタワーを肉体1つで破壊したい!!
流石にそれは物理的に無理だろうと突っ込みたい寅ですが、凜は道徳的によくないよねと舌を出します。
そしてその後、物憂げな瞳であらぬほうを見つめ、私のやりたいことは人に迷惑をかけることだからダメだよね、とため息をつくのでした……

翌日。
彼女を元気付けるためか、それを口実に誘いたかっただけなのか。
ともかく寅は凜を誘い、買い物に出かけていました。
一通り買い物を終えた後、ゲーセンでも行くかと話していたところ、この間の凜を罵倒した女子グループと偶然鉢合わせしてしまったのです!!
おまえら付き合ってたんだ!凜は本気のおめかししてる、などと茶化す彼女達ですが、なぜか突然りんが左手を振りかぶったではないですか!!
とうとう切れたのか?
身の危険を感じて怯える少女達。
ですが凜が殴ったのは、
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突如その場に飛来した虫人間だったのです!!

博士をいぶりだすために、虫人間たちは本格的な人類侵略を始めたのです!!
その姿を偶然見かけていた博士。
もうこの強化スーツをたくせるのは凜しかいない、と博士は決断!!
凜に一連の事情を説明した後、この町を救えるのは迷惑すぎたその破壊症候群だけなんだ!と迫ったのです!!
お前のやりたかったことが堂々とかなえられるチャンスだと発破をかける寅。
いわれるまでもありません。
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凜は武者震いとともに、私……破壊したい……!と心からの声を搾り出しました!!
博士は早速防御面でも優れると言う強化スーツを渡そうとするのですが、凜はそれをいらないとシャットアウト。
破壊する者が、武器を使ったり自分の身を守ろうとするなんて邪道だよと言うのです!!
心強いんだか無謀なんだか。
とにかくこれで彼女の溜め込んだ思いを放出する場は整いました。
後はおもいっきり発散するだけ!!
虫人間は?
寅との関係は?
周囲から疎まれてきた彼女の破壊症候群は?
そんなことはいいんです!!
いま、彼女はすべてをぶちまけらることができるのですから!!

と言うわけで、阿部先生らしさと、少年漫画っぽさを兼ね備えたデビュー作を収録した本作。
現在の作風からとはすこし違う印象尾を受ける本作ですが、そこかしこにしっかりと阿部先生ならではの味付けも施されており、前半の迫害される展開から解放される、カタルシスを感じさせてくれる作品となっているのです!!
「ドラゴンスワロウ」ではメインキャラ二人の感覚のすれ違いの滑稽さと、それを乗り越える情を描いた作風で、やはり先生ならではの味付けを感じさせながらも、のんびり日常コメディを作り上げています。

一方、得体の知れない恐ろしさや、不安を掻き立てる何かを描く現在の阿部先生のイメージを色濃く出している作品も収録されているのです。
「あつい冬」では、目の前に起きた信じることの出来ない恐ろしい現実に向き合ったとき、人はどうするのかを描いております。
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そして描き下ろしの「デタジル人間カラメ」では、奇妙な世界観で物語を紡いでいるのです。
いや、それは物語と言っていいのかどうか……
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読めば読むほど、心の中にわきあがる「なにか」。
とにかくこればかりは読んで頂く他ない、他では味わえない「なにか」を描いているのです!!

ほっこり日常から、心の抉り取る衝撃作まで収録した、「大好きが虫はタダシくんの 阿部共実作品集」は全国書店にて好評発売中です!!
後半になればなるほど(?)重苦しい話が多くなっていく本作。
とにかくこの感覚は読まずにはわかりません!!
かといって読めば「面白かった」では終われない、謎の感情に襲われることは間違いないでしょうけど!!
そんな重い気持ちをすこしでも解消してくれる、カバー下の描き下ろし漫画やフルカラー漫画2編系8Pも収録していますよ!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!