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本日紹介いたしますのはこちら、「恐之本 弐 高港基資ホラー傑作選集」です。
作者は高港基資(たかみなともとすけ)先生。
少年画報社さんのSGコミックスより刊行されました。

さて、本作はホラーのオムニバス作品です。
12年に発刊された本作の第1巻に当たる「恐之本」ですが、まだまだ高港先生の描いてきた恐怖短編はたっぷりと残されています。
今巻も250P超、10編と言う大ボリュームを用意!
読者をめくるめく恐怖の際へと落とし込んでくれるこの作品の中から、今回は「ウシロノショウメン」と言う正統派ながらどんでん返しも用意されているエピソードを紹介したいと思います!

自分の部屋で胡坐をかいている男がいました。
彼の視界の端……視界と言うのは、およそ200度くらいと広範囲をみることができるのですが、そのギリギリ見える自分のやや後ろと言うのはぼんやりとしか把握できません。
そのぼんやりとした部分に、
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時々女が見えることがあるのです。
かろうじて女であることがわかるそれは、最初こそ姿を見せるだけでした。
ですがそれは徐々に姿を現す時間を延ばして行き……やがて何か呟きかけてくるようになって行くのです。
私は綺麗だった。
みんながうらやむ彼氏も、人が憧れる仕事も持っていた。
何で死ななきゃならないの、何で私を殺したの……
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はっきりと聞き取れる恨み言。
さっと振り向き、まともに見ようとするとその女はたちどころに消えてなくなります。
この女は一体なんなのでしょう。
その疑念は、男の脳裏にこびりついて離れません。
何故なら男は、彼女の言う「自分を殺した」と言うことについて何の心当たりもないのですから。
誰も殺したりしていないし、自分の周囲で女性が殺されたと言うことだってありません。
思い当たる節など何もないのに、呪詛の言葉を投げかけられる。
考えられるのは「人違い」しかありませんが……男には、幽霊の女性に人違いだよと伝えるすべなどなく……
日々怯えて暮らすしかないのです。

同時に見るようになったのが、顔のよく見えない男性が、女性に馬乗りになって滅多ざしにして殺す夢。
女が動かなくなると、男が何かを呟いて……と言うところで夢は覚めるのです。
それはきっと、あの幽霊の女が殺された時の状況なのでしょう。
ですがだからと言って何もすることはできず、その日も仕事に向かうのでした。

ガソリンスタンドでの業務中、スッと一台の車が男の前で停車しました。
中に乗っていたのはお坊さん。
そしてそのお坊さんは、奇妙なことにガソリンは入れたばかりだから給油じゃないと言うのです。
ではなぜわざわざ停車したのか?
お坊さんは言うのです。
信号待ちのときに君が目にはいった、お困りなことがあるように見えたんだ。
なるべく早いうちに内の寺に来なさい。
わかるね。
一緒に仕事場に立っていた同僚は不思議そうな顔をしていましたが……男にはわかります。
わかりすぎるほどに……

バイトを終えた後、いちもにもなく男はその寺に向かいました。
お坊さんも来ることを予想していたようで、待っていたよと笑顔で出迎えてくれました。
そしてお坊さんは車に乗り、男をどこかへ連れて行くのです。
どこに行くと言うのでしょうか。
その当然の質問に、お坊さんは答えます。
きみの場合はあまりにもキツすぎて、何もかも丸見えなんだ。
おかげで最も効果的な場所で除霊ができる。
何を言っているのかわからない男。
ですが、程なく彼のすぐ隣にあの幽霊の女が現われ、またも恨み言を吐き始めたのですからもうそれどころではありません。
幸いお坊さんがお経を唱えてくれたところで姿は消えて一安心。
この恐ろしい体験も、今日で終止符が打たれるはずだ。
男は怯えながらも、安堵のため息をつくのでした。

着いた場所はどこか見覚えがある場所でした。
よくよく見れば、ここはあの夢で男性が女を刺し殺していたあの場所です!
お坊さんも、夢の県など知らないはずなのにここが女の殺された場所だと言い切ったということは、おそらく間違いなく……
この場所に来るなり、またもあの幽霊が姿をあらわし始めました。
男は慌てて、早くこの例に間違いを、人違いのことを説明してやってくれと懇願します!
ところがどうしたことでしょう。
お坊さんは
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間違ってはいない、と言い出すじゃありませんか!!
彼女はずっと自分を殺めた相手に恨み言を言っているのだ、と……!!
繰り返しますが、男に思い当たることは何もありません。
二重人格だった、などと言う物語めいたこともありません。
しかしお坊さんの次の言葉を聞いて、男にはすべてが理解できたのです。
無理心中だったんだ、彼女を殺した男は最後に自らの命を絶った。
その言葉とともに、男の脳裏にフラッシュバックする夢の光景。
あの男性が最後に呟いていた言葉は、「ずっと一緒だ」。
……ストーカーの無理心中だったのです!
そしてそのストーカーは、死してなお女のあとをつけることをやめず……
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いまも男の背後にへばりついて、女の霊を追っていた……!!
そう、女の霊が恨み言を言っていたのは男にではなく、その背後にいたストーカーの霊へ吐きつけていたのです!!
呪いや祟りは地雷と同じ、どんな人物であろうと関係なく、踏めばやられてしまう。
そして傷ついた人を治療する医者がいるように、君を救うものもいる。
そう言ってお坊さんは念仏を唱え始め、男の背後に着いた霊を浄化してくれたのでした……

それから二週間。
男には平穏な日常が戻ってきていました。
自分自身でさえ未だに現実のことと思えないのに、誰かに話したところで信じてはもらえまい、と悶々として入るものの……取り戻した平穏な日々に感謝していたのです。
ところがその夜、いきなり事情が変わってきました。
電気を消した瞬間、感じたのです。
背後に感じる、気配……!!
あの女の幽霊が、またも姿を現したではないですか!!
どういうことなんだ?まだいるじゃないか!
心の中の叫びは誰にも届きません。
そんな彼に届いたのは、幽霊の怨嗟の声でした。
ただ、その内容は今までとは違っています。
あいつ、どこ。
あいつはどこへ行ったの。
私の顔をメチャクチャにしやがって。
今まで視界の端にしか現れなかった女は、ゆっくり、ゆっくりと歩き……男の、前へと回り込んで、来ました……
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そして続けるのです。
ゆっくりと顔をあげながら……
お前、あいつをどこにやった。
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おい。
お坊さんが成仏させたのは、自分の後ろについていた、男性の霊だけでした。
その男性の霊への恨みを増幅させた女の霊の矛先は……?
そのまなざしは、男の後ろではなく、今度こそ確実に男へと……!!
呪いや祟りは地雷と同じ。
踏めば、やられる……

と言うわけで、怨霊のもたらす理不尽な恐怖を描いたエピソードを収録した本作。
これだけでも充分に恐ろしいエピソードですが、まだまだ本作の恐怖はこんなものではありません!
水場で遭遇した霊が次々と恐怖を巻き起こす「ミズ」といった正当派の心霊譚。
得体の知れない超自然の恐怖を描く「森を壊した男」。
自分のせいで妹が悲惨な死を遂げてしまったと後悔する男の前に幽霊の現われる「くさわら」……
様々なタイプの心霊話が収録されており、心のそこから震え上がらせてくれたり、恐怖と見せかけて感動話になったりと、硬軟織り交ぜた恐怖を味わわせてくれます!
そして前巻「恐之本」と違うのは、生きた人間の恐ろしさを描いたものが多く収録されていることでしょうか。
と言いましても、普通のやっぱり生きている人間が一番怖いよねー、と言うオチのものとはちょっぴり趣向が変わっております。
人間と、亡霊の境目をたゆたっているかのようなおぞましいニンゲン。
その人間がもたらす異様を描くその物語は、やはり読者をただひたすらの恐怖に叩き落してくれます!!

待望の高港先生作品集第2弾、「恐之本 弐 高港基資ホラー傑作選集」は全国書店にて発売中です!!
確かな実力をもつベテラン漫画家さんでありながら、活躍の場が単行本とあまり縁のないコンビニ向け書籍な為なかなか近年コミックスがでなかった高港先生。
続巻を刊行していただくためにも、ホラー好きの方は是非お手にとって見ていただきたいです!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!