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本日紹介いたしますのはこちら、「まるまる動物記」第2巻です。
作者は岡崎二郎先生。
講談社さんのアフタヌーンKCより刊行されました。


さて、動物に関しての様々な薀蓄を、独自の理論なんかも織り交ぜてコミカルに描いていく本作。
知的好奇心を満たす様々な物語が14編収録されておりますが、今回はその中でもとある昔話にスポットライトを当てた一話を紹介したいと思います。

ウサギが一羽、海岸にたたずんでおりました。
じっと海を見て考えていたのは、何とかこの目の前にある海を渡れまいか、ということ。
生まれてからずっと過ごしてきた隠岐の島の生活にはもう飽き飽きしており、新たな刺激を求めて旅にでたいと思っていたわけです。
そんなウサギは、おもむろに海を泳ぐサメに声をかけます。
サメの仲間とウサギの仲間、どっちが多いのか数比べをしてみないか?と。
ですがサメは海でしか生きられませんし、ウサギは陸でしか生きられません。
いったいどうやって二者を比べようと言うのでしょうか?
いい方法があるとウサギさん。
サメの仲間をつれてきてもらって、この隠岐の島から対岸の気多の崎まで並んでもらう。
ウサギがその上を渡り、数を数えよう、というのです。
数え終わったら今度は島に戻って、ウサギの仲間を海岸に並べて数えよう。
それなら納得とばかりにサメは仲間を集め、一列に並べてくれました。
もちろんこれはウサギの策略で、単純に向こう岸に渡りたいがためにウサギじゃなくて嘘八百を並べたんだと言うことは皆様よくご存知かと思います。
この後ウサギさんがどうなるかも、多分ご存知ですよね?
そう、思惑通りことがすすみ、調子に乗りまくってしまったウサギはあと1匹で海岸につくよというところでつい叫んでしまったのです。
お前たちは騙されたんだよ!
本当は気多の崎に渡りだ駆っただけさ!!
騙されたサメさんが怒るのも無理はありますまい。

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足場にしようとしていた最後のサメが牙を向き、ウサギを捕獲!!
殺しこそしませんでしたが、全身の毛を無視って放り捨ててしまったのでした!!

で、悪い神様に騙されてひりひり倍化したり、いい神様に助けられてがまの穂にごろごろして回復したりして一件落着。
それがこの有名な昔話、「因幡の白兎」です。
このお話、「古事記」や「因幡国風土記」に書かれているないようではサメではなくワニ(和爾)となっております。
確か自分もどこかでこのお話のワニバージョンを見たことがあるような気がしますが……
冷静に考えると、いや冷静に考えるまでもなく日本にワニはおりません。
教科書なんかでは「サメ」になっていますが、そのことに関してはワニが日本にいないことに加え、山陰地方の方言でサメのことを「ワニ」と呼ぶから、という根拠もあるようです。
歴史学者の喜田貞吉先生は、命じの国定教科書で初めて「因幡の白兎」のワニを「ワニザメ」と表記しました。
これ以来、え詐欺にだまされるのはサメだと言うのが一般的になって行ったのです。

ですが本当にサメと決め付けていいものなのでしょうか?
実は東南アジアに、この因幡の白兎と似た民話がありまして。

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カンチルというウサギほどの小鹿がワニをだまして川をわたり、その先に歩きのみを食べてほくそ笑む、というそれはまさしく因幡の白兎のそれじゃありませんか!
この他にもニューギニアではサルが、ベトナムやカンボジアではウサギがワニにいっぱい食わせると言う類似の話もあるとか。
確かにこれらの国で、川にワニが並んで向こう岸までの橋になる、というのは自然なシチュエーションな気がします。
因幡の白兎の、何十キロも距離のある海にサメが橋をかける姿よりもずっと!
南方からこの話が伝わり、日本風に変わって行ったのだろう。
多くの研究者はそう指摘しているのです。

話は変わりますが、07年の8月にオーストラリアで驚きの事件がおきました。
オスの成体は7メートル弱、1トン超にまで達すると言う最大級のワニ、イリエワニ。
それがオオメジロザメを捕まえて食べてしまったと言うのです!

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川に入ってくることもあるオオメジロザメと、海水の順応性が高く難なく海には入れるイリエワニ。
たまたま生活圏が重なっている二者が激突してしまった結果ということなのでしょう。
イリエワニは時に獲物を探して数百キロ沖まで海にでることがあるんだとか。
なんとオーストラリア北部から東南アジアやインド南東部に生息するイリエワニが、海流に流されて二本まで流されてきたと言う記録もいくつか存在するんだそうです!
西表島では数匹の巨大ワニが住み着いていたと言う伝承がありますし、本土においても死骸が流れ着いたり海で目撃したと言う話も散見されます。

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ということは、昔の日本人が実物のワニを知っていた、としてもなんら不思議はないと言うことになるでしょう!
ひょっとしたら因幡の白兎の「和爾」というのは、東南アジアから噂で聞く川の怪物と、時々やって来る海の怪物が一致し、生み出された(?)ものだったり……するのかもしれませんね!!

というわけで、因幡の白兎の「和爾」に関してのエピソードを収録した今巻。
今巻ではこの他にも様々なお話が収録されていますが、特に目を引くのがチンパンジーやハエと言った準レギュラーキャラを出して進化や学習と言ったネタを追求していくシリーズでしょう。
学者さん達の意見を描きつつも、岡崎先生の持論も混ぜ込み、コミカルかつ丁寧に描かれているそれらのお話は、派手さなんかはカケラもありませんが不思議と引き込まれること間違いなし!!
ついつい食い入るように読み進めていってしまうことでしょう!!
本作はこの第2巻で完結となるのですが、最終の2話ではついにそのものズバリ「人類」のお話に切り込んでみたり。
壮大なスケールになるラストの話では、いろいろ考えさせる要素が盛り込まれております!!

また、突っ込みと称した生物学者の池田清彦先生による解説もバッチリ収録!!
こちらも文字びっしりの2Pの大ボリュームで、それぞれが気合の入った読みごたえある内容となっています。
ただでさえ240Pを越えるボリュームの本作にくわわる更なる読み応え……
お腹いっぱい必至です!!

楽しく不思議な動物のお話、「まるまる動物記」最終第2巻は全国書店にて発売中です!
読み応えあると言う言葉がピッタリの本作。
なんだかちょっと学びたい人もそうでない人も、読めば引き込まれること間違い無しですよ!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!