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本日紹介いたしますのはこちら、「謝男(シャーマン)」第3巻です。
作者は板垣恵介先生。
日本文芸社さんのニチブン・コミックスより刊行、週刊漫画ゴラクにて連載されています。

さて、独自の美学と土下座を駆使し、様々な出来事をねじ伏せていく拝一穴。
今日もそのTPOをわきまえないと言っていいのかわきまえすぎたと言っていいのか、とにかく繰り出される力強い土下座で彼流を押し通すのでした!

ある日のこと、
駅のホームの真っ只中で、強面の男が老婦人に因縁をつけておりました。
足を踏んづけておいて謝罪もなしか、というその悪役のテンプレートのようなセリフをはく強面の男ですが、どうやら事情がちょっと違っているようです。
老婦人が強面の男の足を踏みつけてしまったのは紛れも無い事実で、しかも履いていたのが足の長いヒール。
強面の男がはいていた革靴には見るも無残な傷がついてしまっていたのでした。

強面の男が怒っているのは、もちろん靴に傷がついてしまったことも大きいでしょう。
ですがそれよりも何よりも、老婦人が一言も謝罪の言葉を述べないことに怒りを感じているのです。
ごめんなさいを言わないなんて、例え偶然だったとしても許されないだろう。
強面の男はそう言って凄むのです。
ビジュアルはどう見ても男が悪いように見えてしまいますが、客観的に状況を見てみれば悪いのは老婦人のようです。
ですがそれでも老婦人は、過失は認めるからこのトラブルによって生じた貴方の不具合をここに連絡しろ、事実なのか調査して善処する、と名刺を差し出しながらも断固として謝罪の言葉を発さないのでした。
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名刺に書いてあるのは、安西響子と言う名前と、教育委員会的な組織の理事という肩書きでした。
そんな地位もお金もあるであろう人が、ここまで謝罪を拒むとは……?
強面の男は、とうとう我慢の限界を迎えたようです。
まさか人目がある中では殴られないとでも思っているんじゃないだろうな?
そう凄むと、安西は殴るわけが無い、とおもいっきり否定し始めました。
指一本でも触れたら一発で大逆転、その時点で暴行罪が成立する。
防犯カメラが監視しているここで、暴力に訴える行動というのは絶対に「やってもらえない」と!
さらに、あまり利巧そうには見えないけどそこまで馬鹿じゃない、そこまであんたに甘えられない、と神経を逆なでするかのような言葉を続ける安西……
そのセリフは、最後の一線を超えさせる一押しとなってしまいました。
強面の男はおもいっきり安西の腹のケリを叩き込んだだけでは終わらず、顔面におもいっきりパンチ!
挙句の果てに両手で髪の毛を掴み、膝蹴りを叩き込んで逃げ出したのです!!
……ところが、やはり安西は只者ではなかったのです。
あれだけ蹴りつけられ、殴りつけられたにもかかわらず。
ハイヒールを履いたままであるにもかかわらず。
安西は男のあとを走って追いかけ、タックルで組み付いたのです!!
引き剥がそうと肘鉄の雨を降らせても安西はガッチリとクラッチを仕掛けたまま。
鬼気迫る形相で
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問題なし!と叫ぶ安西、その手を離す事の無いまま男を取り押さえるようにまわりの人々に指示。
程なく駆けつけた鉄道警察によって、男は敢え無く御用となってしまうのでした。

素直に安西を賞賛し、かなわねえと白旗を揚げた強面の男。
ですが意外にも、安西は笑顔でこういうのです。
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謝っちゃダメよ、と。

安西の目的地は、拝が勤めている治ヶ浦高等学校でした。
そしてその目的は、伝統あるこの高校の治安を乱す存在……拝一穴!!
先ほどの出来事からもわかるように、彼女のモットーは「謝るなかれ」です。
だと言うのに、拝が赴任してからというものこの学校には「土下座」が横行。
おまけに名前からして屈服している、と安西の拝評はすでに下がりほうだいで……
だと言うのに、校長は拝に期待しているとのこと。
百聞は一見にしかず、と言うことで、早速校長室に拝を呼び出すことにしたのでした。

拝が自己紹介をするなり、お茶をぶっ掛ける安西。
何でも甘えた拝の目を覚まさせるためにぶっ掛けたんだそうです。
そんな安西の先制パンチから、安西の主張は始まりました。
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謝罪とは甘え。
頭を下げることによる解決、平和的にも見えるこの手段を疑うものは誰もいない。
ところが、一度でも頭を下げたが最後、人は内なる自分を疑い始める。
築き上げた心の地位が大きく揺らぎ、自己愛を失い、自分への監視の目は甘くなり、生活は荒み、果ては人生が朽ちてゆくのだ!!
そう断言する安西に、校長は恐る恐る答えます。
そういうケースもなくは無いんでしょうが……と。
ですが安西は一層語気を荒げて言うのです!!
なくは無い、ではない、傾向、でもない。
仮説ではなく真理、これは真理です!!と!!
ここまで言われて拝はどう反論するのでしょうか。
貴方の意見が聞きたい、と安西が拝を見ると、彼……泣いています。
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あなたが哀しい、貴方の過去が哀しい、と。
貴方の展開する不謝罪論に、貴方の過去は泣いている!
そう言いきる拝に、安西は未熟者だと自称しているお前が自分の過去を笑うのか!と激怒!!
……するのですが、拝もまたこれは真理だ、と引かないのです。
挙句の果てには、貴方の代わりに私が謝罪する、と言い出す拝。
これはわりといつものことですが、今回の拝の謝罪は一味違うようです。
人でなく、物でなく、神仏でもなく、貴方の過去に謝罪する。
そう宣言した拝は
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おもむろに全裸になったではないですか!!
まさかこの格好で土下座をするとでも言うのでしょうか!?
いや、彼の土下座はそんなもんじゃ終わりません!
もはやただ見せたいだけなんじゃないかとも思いかねない、脅威の土下座が炸裂するのです!!

というわけで、謝罪を至高の物と考える拝と、絶対にしてはならない禁忌と考える安西の激突を描く本作。
不謝罪論という、いろいろとやりづらそうな持論を持っていながらも、結果として教育委員会的なグループの長となった安西。
謝罪でありとあらゆる苦難を乗り越え、人に道を説いてきてはいるものの、一介の教師に過ぎない拝。
対照的とも言えるこの二人、理解し会えることなんてあるのでしょうか?
その答えが、拝の全裸に隠されていると言うわけです!!

そんな謝罪VS不謝罪の激突の他、いつもの感じのお話も用意されております。
勉強が壊滅的に苦手で、全てを投げ出そうとしてしまった生徒。
いじめられ、虐げられた末に、あろうことか拝にアドバイスを求めてきた生徒。
そして、ちょっと毛色の違うややオカルティックな風味を持った出来事……
挙句の果てには今回紹介したお話に続く(?)拝の下ネタ大好きっぷりが披露されるお話も用意されておりまして、今回もなんといいますか、良くも悪くも底の知れない拝の器のほどを堪能できますよ!!

貴方の為に謝罪する、「謝男(シャーマン)」第3巻は全国書店にて発売中です!!
板垣先生が明らかにノリノリで描いている本作。
先生が追い求める、バキとは違う形の最強がここにはある!!……のかもしれません!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!