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本日紹介いたしますのはこちら、「水木しげる漫画大全集 妖怪変化シリーズ 全」です。
作者は水木しげる先生。
講談社さんより刊行されました。

さて、本作は「ビッグゴールド」にて93年から95年にかけて連載された一話完結型の読みきりシリーズを1冊にまとめたものです。
その内容はまさに多種多様で、水木先生が実際に体験した不思議な出来事から、ふとした妄想から生まれたであろうお話、風刺めいたお話に時代劇的なお話、そしてお得意のお下劣なお話などなど盛り沢山!
そんな中今回は、水木先生の体験談系のお話「モヤング」を紹介したいと思います!

水木先生の元に、知人の戸田が訪ねてきていました。
その間も寸暇を惜しんで漫画を描いている水木先生ですが、日本中が慌しい今、慌しくなるより他ないとその手を休めないのです。
が、救われる方法があると言い出す戸田。
それがマレー半島の精霊、「モヤング」だと言うのです。

モヤング信仰をしているトンタッタ族のところに行けば、何故か心がゆったりするとのことで……
それこそが度重なる仕事の依頼でヒイヒイ言っていた水木先生の求めるものそのもの!
いちもにもなく、戸田とともにトンタッタ族のもとを訪ねることにしたのです!!

トンタッタ族の通訳とともに、鬱蒼と草木が生い茂る山道を歩くこと五時間。
まだまだトンタッタ族の集落には到着しません。
流石の水木先生も戸田も限界。
ここで通訳になんか話でもしてもらいながら一休みしようということになりました。
すると通訳こんな話をし始めてくれたのです。

夜、この山道をオートバイで走っていたときのこと。
ふとみると、こんな夜の山道に、女性が立っているではないですか。
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不審に思いながら近づいてみれば、女だったものが布キレに変わっています。
なんだかよくわかりませんが、とりあえずその布キレをオートバイにつけていた袋に入れ、出発しようとします。
が、何故か途端にオートバイのエンジンがかからなくなってしまうのです。
やむなくオートバイを押して歩いていると、急にふっとオートバイが軽くなりました。
おかしいと思ってみてみると、先ほどの布切れがなくなっています。
しかもその途端エンジンまでかかるようになっていて……
それだけでも不思議は不思議なのですが、まだお話には続きがありました。
その夜、通訳の夢枕に女性が立ってこういったのです。
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私は先ほどオートバイに載せて頂いたものですが、私がお化けであることを知らせなかったのは、あなたを怖がらせたくなかったからなのです。
私はただオートバイに載せてもらいたかっただけで、危害は加えませんでした。
そう言って姿を消した……とのこと。
わざわざ安心してねと声をかけるためだけに現れた幽霊の女性、律儀です!!
ともあれ、この地で幽霊が息衝いているのは間違いないようです。
そんな話を聞いて少しやる気を取り戻し、水木先生は再び踏み出す足に力を込めるのでした!!

トンタッタ族の集落はやっぱり変わっています。
家が林立している普通の集落とは違い、大きな家が一軒あるだけ。
その家の中で、誰でも好きな場所に住んでいいというシステムなんだそうです。
電気はないものの、いろいろなところから人が集まってきて、さながら町のように賑やかで……
おやつは芋、夕食は焼畑で出来た少しの米だけ、と裕福ではないものの、楽しそうな生活を送っています。
とは言え、電気が無いのですからテレビもラジオもありませんし、娯楽は愚か、新聞も本も何もありません。
いくらなんでもジャングルだけでは退屈じゃないか?と尋ねるのですが、通訳はとんでもないとそれを否定するのです。
ジャングルには、モヤングがたくさんいる。
モヤングとは日本で妖怪のような意味ももっているようで、先ほどの話のようなオバケがちょくちょくちょっかいをかけてきて、「バニソイの儀」なる儀式があったりすると、モヤングがたくさんやってくるとのこと!
水木先生は興味を引かれまくるのです!!

ところがその夜、戸田の姿が消えてしまいました。
夜は外にでるなと言っておいたはずなのですが……
このあたりはハリマオ……トラの名所だそうで。
そういえばジャングルの方から悲鳴みたいなものが聞こえた気もしますし、ひょっとしたらひょっとするのでしょうか……!?
トンタッタ族も総動員して探してみると、血痕や戸田の靴が片方落ちているのが見つかります。
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ハリマオに連れて行かれたんだ!!
そう確信したトンタッタ族は、取り急ぎ「バニソイの儀」を行うと騒ぎ始めます!!
それを聞いた水木先生は戸田の安否の心配などどこへやら、早速録音しようと鼻息を荒げるのです!
ですがそれをすると政令が逃げるからと却下されてしまい……
やむなく水木先生は、参加するだけでガマンするのです。

バニソイの儀が始まると、すぐにモヤングは姿を現します。
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森の精霊という不思議なモヤング達が姿を見せた後、ポヤングなる祈祷師が本格的に祈祷を開始!!
踊るモヤングの中央で眠ることによって、トラの精霊と交渉をし始めたのです!
その交渉の内容は、戸田を食べずに返してくれ、というもの。
トラはトラで自由に獲物を食べているわけではなく、「つながっている」んだそうで。
バニソイの儀にはそのつながっている様々な精霊がやってくるのですが、トラの精霊はとりわけ強力でして。
なかなかやってこないため、ポヤングが直接掛け合いに行くんだそうです。
ポヤングは無事ハリマオの精霊と出会います。
お前、現世で人間をひとり捕まえただろ、それを食べないで送り返してくれ、と語りかけるポヤング。
ただで返してくれとはなかなか難しそうな交渉の上、何故かタメ口のポヤングに対し、ハリマオの精霊の答えは……?
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戸田の命運は、水木先生の癒しやいかに!?

というわけで、不可思議な出来事を描くエピソードを収録した本作。
この他にも、水木先生のかつての友人とペトロの葬式に赴いたときに起こった出来事等、実体験系のお話が収録されています!!
さらにそこから発展して、いまや押しも押されぬ観光名所、水木しげるロード作成にまつわる出来事や、水木先生のお母さんのお葬式の時の体験を発展させ、妖怪や幽霊を絡めたお話にした実体験+妄想系のお話も収録!!
こちらもあわせて楽しみたいところです!!
そしてこういった水木先生の読みきりシリーズでは必ずと言っていい程ある「忙しさと幸福さ」関係のお話や、死生観を語る系のお話もやっぱり収録。
かと思えばごく普通の妖怪モノがあったりガッチガチの風刺モノがあったり、いろいろアレな臭いがする時事モノもあったりと、もうこれでもかこれでもかと描きたいものを描いていらっしゃる感じ!!
このカオス感こそが水木先生の魅力のひとつでもあるわけで、ファンの方はもちろん、水木先生作品初心者の方もこの混沌の渦に身を任せる楽しさを味わうべきといえましょう!!

一連のシリーズなのにバラエティ豊かな20編収録の「水木しげる漫画大全集 妖怪変化シリーズ 全」は全国書店にて発売中です!!
水木先生にアリャマタコリャマタ先生、ねずみ男とこの頃の水木先生作品のなじみの面子が頑張る姿もみられる本作。
最終話には珍しく鬼太郎っぽいキャラクターも登場しておりますので、そのへんの登場ににやつくのもありですよ!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!