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今回紹介いたしますのはこちら。

「流寓の姉弟」 須藤佑実先生 
小学館さんのビッグコミックスより刊行です。

須藤先生は12年に、小学館さんの新人コミック大賞で入選を果たし、デビューした漫画家さんです。
本作でデビュー連載を果たし、この度めでたく単行本発刊となりました。

本作は、とある女子大生が奇妙な出会いを果たし、そこから物語を通してキャラクターが成長をしていくさくひんです。
その奇妙な出会いの相手は、いろいろ大変なことに、何と……?


空を見上げながら、タバコをくゆらせている女性。大谷湊。
彼女は、とある人物の葬儀に来ていました。
その人物とは、何を隠そう湊の母親です。
ですが湊はその母親の死に対して、特別な感情が湧き上がってきてはいませんでした。
なぜなら、彼女は5歳の時に湊を置き去りにして家を出て、それっきり会うことはなかったからです。
今や20歳となった湊、死んだ顔を見れば気が晴れるんじゃないかとこの葬儀に足を運んだのですが……死人に口なし、彼女の心には一層のもやもやが残るばかりなのでした。

変な動物の遊具がある公園。
そこではしゃいでいると、母はここで待っているから遊んでおいで、と港を遊びに行かせます。
深く考えず、遊びに行く湊。
駆けだしていく港にかけられる、ごめんねという声……
帰りの電車の中、うとうととしてしまった湊はそんな夢を見ていました。
ですがそのまどろみは、大きな怒鳴り声で破られてしまいます。
その怒鳴り声の主は、まだ小さな子供の姉弟。
姉は夏希、弟は冬樹というらしいその兄弟、どうも姉のほうが完全にイニシアチブを握っているようで。
お父さんもお母さんもきっとさっきまでここにいたのに、冬樹が遅いからもう電車から降りちゃったんだとしかりつけています。
どうも両親を探しているらしい二人。
弟の冬樹は割と冷静にこれからどこに行けばいいのかと心配しているのですが、姉の夏希はなんだか変な余裕を持っていまして。
どこにだって行く、私たちが行きたいところへ行きたいと思えば、きっとその道のカギが現れる、ってずっと前おばあちゃんも言って、たなどと言い出すのです。
しかしその突拍子もない言葉を聞いた冬樹、そういえばと懐から何かを取り出します。
それは、キーホルダーのついたm数本の鍵束だったのですが……
ここで、今まで姉弟に対してうるさいなぁ藏石か思っておらず、無視を決め込んでいた湊がすっとんきょうな声を上げるのです!
家の鍵!!
うとうとしている間にか、もっと前のタイミングかはわかりませんが、いつの間にか鍵束を落としてしまい、それを姉弟が拾っていたようです!
突然の声に驚く姉弟。
湊は慌てて冷静さを取り繕い、それは私のだから返してもらえるかな?とやさしく声をかけるのですが……
夏希はそれを信じてくれません。
私たちの代わりに交番に届けて、お礼の位置を利を横取りする気なんだ!!と謎の勘違いをするのです!!
ちょうど駅に到着した電車から飛び降りて逃げはじめる二人。
慌ててそれを追いかけるものの、改札に引っかかったりしてなかなか思うように追いかけられない湊……
見慣れない公園でようやく追いつくのですが、よくよく公園を見てみるとなんだか見覚えがあるような。
変な動物の遊具のあるこの公園……あの、公園に似ているのです。
三つついている鍵は、おじいちゃんちの、自転車の、アパートの。
他にお守りと、ゆるキャラのマスコットが付いている……
そうやって鍵束の内訳を応えて自分のものだと証明してもまだ鍵を返してくれない二人。
そこで逆にご両親はどうしたのかと質問すると、お父さんとお母さんは道に迷ってるんだと思う、だから私たちが見つけてあげて一緒に帰らなくてはならない、などと答えました。
迷子はお前らのほうだ!!
読者と同じつっこみをしつつ、鍵束をひったくる湊!!
ですが、肝心かなめのアパートの鍵だけが落ちてしまい、冬樹が拾ってしまいました。
それを見た夏希、やっぱりこの鍵は私たちの物なんだ、お姉さんのものなのに手を離れて私たちのところに来たってことは、そういう運命、おばあちゃんが言っていたように、物の意思なんだ、と喜び勇みます。
そんなことを言われても、鉤がなくては家に入れません。
返せと追いかけるのですが、そんな港から逃げながら夏希は言うのです。
おばあちゃんが言っていた、大事なのは強く強く念じること。
そうすれば私たちはどこにでも行ける!!
そう言った夏希の目は心なしか……いや、確実に光を放っているではないですか!!
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しかし不思議なことはそれだけでは終わりません。
パッと背景が変わり……後ろには大きな桜の木が現れ、聞き覚えのある声が聞こえたのです。
お母さんを呼び続け泣きじゃくる幼い日の自分の声。
おじいちゃんが駆け付けてつれて帰ってくれたものの……その出来事は皆との心にトラウマを残してしまいました。
そんな幼い自分の姿がなぜか目の前にある。
疑問を感じるよりも前に、再び風景が変わります。
それは、その置き去りにされた日の、出かける直前の光景。
よく見ると、母はお守りの中に何かを入れ、それをおじいちゃんちの鍵と一緒に湊の首にかけてあげていたのです。
お守りに何かを入れた?
そのことを知った湊、すぐにお守りの封を開けてみると……そこには一枚の紙片が折りたたまれてはいっていました。
そこに書かれていたのは、湊の名前と生年月日。
そして……
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湊、港。
私がいかりをおろすところ、いつか帰ってこれる場所。
そんな一文が記されていたのです!!
どんな気持ちでこれを描いたのか、どういうつもりでこれをお守りに入れて渡したのか。
……もうそれを聞くこともできず、文句も言えない……
胸にこみ上げてくる何か。
……その時初めて、湊は母の死に涙を流したのでした……

気が付くと翌朝になっていて、湊はひとりその公園のベンチに座っています。
どうもそこはアパートから二駅離れた公園だったようで、夢だったのかと思いながら家路につきました。
ですが鍵束にはアパートの鍵だけついていません。
大家さんに言わなきゃ……と思いながら部屋に戻ろうとすると……玄関が開いています。
まさか空き巣?
警戒しながら中の様子をうかがうと、そこには
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あの姉弟がいたのです!!
どうやら二人、あの後湊の保険証をちょろまかしていたようで。
それを親切な人に見せて、ここへ連れてきてもらったのだとか。
鍵を拾ってあげたんだから、お礼の一割をもらわなきゃ。
この部屋の一室をもらいます。
思わず出てけと怒鳴ってしまう湊……
ですが、これからこの二人との奇妙な共同生活が始まってしまうとは思いもしなかったことでしょう……!!


というわけで、不思議な姉弟とともに生活をする羽目になってしまう本作。
迷子になった親を探す、と言い張るこの二人、いろいろと不思議な点が。
何度も言う意味深なおばあちゃんの行っていたという言葉。
そして、幾度となく見せる夏希の光る眼によって導かれる不思議な世界……
最初はそんなあれこれもとにかくどうでもいいから、早くこの二人を警察か何かに押し付けて自由になりたいと画策していた湊。
ですがこの二人の力によって様々な人物が救われていき、港もなんだかんだ言って二人に感情移入していくのです。
そして後半からはこの姉弟の謎に迫るシリーズに入っていきます。
突然現れた二人はいったい何者なのか。
この不思議な力は何なのか?
迷子になっているという両親は……?
それらが明かされていき、二人が大人たちに翻弄されていることがわかった湊はいてもたってもいられなくなりはじめ……
そして物語はフィナーレを迎えます。
二人の行方は、湊の心は?
胸にこみ上げるもののある、読後感さわやかなエンディングは必見ですよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!