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今回紹介いたしますのはこちら。

「怪奇タクシー」上・下巻 森野達弥先生 
一迅社さんのREXコミックスより刊行です。

さて、怪奇漫画の名手である森野先生。
本作はそんな森野先生自信が初めて描いたと自称されるホラー漫画、「怪奇タクシー」シリーズを2冊にまとめた作品集です。
本作が連載されていたのは、00~01年にかけて刊行されていたらしいカーマガジンJACという車漫画の身を掲載していた珍しい雑誌でして。
そんな中でもおそらくひときわ異彩を放っていたであろう本作が、連載終了から13年の時を経てとうとう単行本化されたのです!!

本作は怪奇タクシーという怪しげなタクシーの運転手が、そのタクシーの忘れ物と称した奇妙なモノにまつわる恐ろしい話を紹介していく、という形のホラー漫画です。
その内容は基本的に何らかの形で車がかかわってくるのですが、車がほとんどかかわってこない話もあったりまして。
そんな中で今回紹介したいのは、「ミステリー・ツアー」。
どこにでもあるようなバスツアーのチラシ。
この一枚のチラシが招いた恐怖の事件とは……?


とあるアパートに引っ越してきた中年男性。
真昼間からふらふらして働いている様子がないばかりか、周辺住民が挨拶をしても会釈すらしません。
しかもその目つきときたら不気味そのもので……
周辺の住民は、ひそひそと噂話をしながら、彼をいぶかしんでいたのです。

そんな彼、生木はポストに投函されていたチラシに気が付きます。
行先も道のりも秘密だというミステリー・ツアー。
そんなものに金を払うなんて無駄だと一度はゴミ箱に放り捨てたものの、やがて暇を持て余した挙句そのチラシを拾いなおします。
一人参加限定といううたい文句を見て、もしかしたら大人の出会いがあるかもしれないなどとよこしまな思いをめぐらす生木。
出会いはいつもミステリとも言うし、行ってみるかとツアーの申し込みをするのでした。

ツアー当日になりました。
参加者は中年男性ばかり、ツアーガイドはちょっと見た目がアレ。
生木は舌打ちしながら椅子に座るのですが、なんと隣に美女が座ったではありませんか!
一転していいツアーじゃないか、と口笛まで吹き始めちゃう始末です!

やがてバスは出発しました。
隣に座った美女と、どこに行くのか楽しみですねなどと談笑しながらバスの旅を楽しむ生木……ですが、割とすぐに最初の目的地にたどり着きました。
が、その目的地はどう見ても何にもない、住宅地の一角。
その場所が何なのかといった説明すら一切なく、ただただその場所にバスが止まっているだけなのです。
なんだこれはと騒ぐ乗客たち。
そんな中で、老人の乗客の一人が顔面を蒼白にしているではありませんか。
美女にいいところを見せようとしたのか、生木は柄にもなく爺さんバス酔いか、と老人の心配をしました。
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老人はそうだ、ただのバス酔いなんだとかろうじて返事をし、後は呻きながらふさぎ込むばかり。
バスに弱い爺さんだなぁ、と生木はそれほど気にも留めなかったのですが……

第2の目的地にもすぐ到着しました。
今度もどう見ても何もない、ただのガード下です。
一体何なんだこのツアーは、と腹を立てはじめる生木ですが、今度は中年男性が体調を崩したのかガタガタと震えだしまして……
そんなわけのわからないツアーは続き、第3目的地へ。
今度は人気のない竹林。
いい加減何なんだと口をとがらせ、生木は美女に同意を求めるのですが……今度は美女の様子がおかしいではないですか。
今までの体調を崩した客たちのように、顔面は蒼白、体は小刻みに震えて……
彼女は生木に席を変わってくれと持ち掛け、窓側だった席を通路側へと変えます。
生木はそんな彼女を見ても、そんなにバスに弱いならツアーに来るなよとぼやくのですが……

ツアーは続きます。
そのあともたどり着くのは、何もない、なんてことはない場所ばかりをめぐっていきました。
そしてそのたびに一人ずつ、体調を崩していきます。
そんな中生木はただ一人何ともないままでして、イライラだけがたまっていき……
とうとうガイドさんにミステリー・ツアーってこういうのじゃないだろ、せめて説明くらいしろと怒鳴りつけるのです。
ガイドさんは、生木の言葉を無視したかのように次の目的地へ向かいますとアナウンス。
ですが、生木の言葉通り次のスポットに関しては説明をし始めました。
次の停車地は今から15年前、完全に迷宮入りした有名な場所です。
今から15年前……15年前?
今度は生木の顔が、みるみると青ざめはじめました。
この通りはまさか、この角を曲がると……
角を曲がったところにある一軒の家。
その家の窓から
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血まみれの家族が、生木をじっと睨みつけているではないですか!!
ここは、俺が15年前に強盗に入った一軒家だ!!
しかし完全犯罪で、迷宮入りしたはずで……誰も俺が犯人だと知らないはず……!!
どうやらほかの乗客に、今の亡霊の姿は見えていないようで。
……だとすると、他の乗客が皆一様に体調を悪くしていたのは、彼と同じような過去があって、その現場で犠牲者たちの亡霊を見ていたということ……!?
バスガイドは続けます。
さて皆様、いかがでしたか?ご当人犯行現場めぐりツアーは。
次はいよいよ最終目的地。
数々の迷宮入り事件の犯人である皆様にふさわしい本当の迷宮へご案内します。
いくら犯行が発覚せずに時間が過ぎたからといって、恨みが消えるわけではありません。
さぁ出発しましょう!
被害者、遺族の行き場のない怒りの渦巻く迷宮へ!!
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ガイドはその顔を恐ろしい鬼のような形相へと返事させ……バスは一直線に落下していくのです。
怨念渦巻く……地獄へと!!


というわけで、森野先生らしい外連味のないストレートな恐怖が楽しめる本作。
奇抜で大掛かりなトリックや、ぎょっとするようなどんでんがえしはありません。
ですがだからこそ味わえる、王道的な怖さこそが本作最大の見どころでしょう!!
奇をてらわないその恐ろしさは、安心して(?)恐ろし画れること間違いなし。
だからと言って生ぬるいお話ばかりということは決してありませんで、容赦ない運命が克明に描かれていきます。
悪人に与えられる罰は手心一切なし。
そしてその悪人に虐げられる罪のない犠牲者たちは、あまりにも悲惨な目にあうこととなり……
因果応報というお話が多い本作ですが、被害者が救われるというお話も多く用意されていまして。
この後味の悪さもまた、本作の目玉といえるかもしれません!!

最近になって再評価されてきた感のある森野先生、その作品をどんどんと単行本化していただきたいところですが……
とにかく今はこの13年越しの刊行となった本作を堪能しましょう!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!