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今回紹介いたしますのはこちら。

「福島鉄平短編集 Swimming(スイミング)」 福島鉄平先生 
集英社さんのヤングジャンプコミックスより刊行です。

さて、本作は福島先生の6年ぶりとなる単行本です。
「サムライうさぎ」連載終了後、ジャンプ系列の様々な雑誌で読み切りを発表してきた福島先生ですいが、この度いよいよ2冊の単行本にまとまりました。
本日はその1冊、少年向けの雑誌に掲載された作品をまとめたこちらを紹介したいと思います。
そんな本作に収録された読み切りは5編。
今回はその中で比較的新しい、「きらわれもののマギル」を取り上げさせていただきます!


円柱状の大きな岩山の上にある小さな村、シッタカ村。
そこに、マギルと言う少女が住んでいました。
13歳と言う年の頃もあるのでしょうが……一度は村の外で暮らしてみたいと思うようになった彼女、外の世界について書かれた本を読み漁り始めました。
外にはきっと自分の知らない危険があるだろうから、あらかじめ知っておく必要がある。
ですがマギルは、外の世界の情報を知れば知るほど、外の世界が恐ろしくなっていってしまったのです!
親切なマギルは、その危険を逐一みんなに教えてあげました。
それは体に悪いから食べてはだめ、それはだまされているから買わないほうがいい、そんなことは無理だ……
そんな情報を教えてあげていた結果……マギルは「詰らないことばかり言う」とレッテルを張られ……次第に村中から嫌われ、孤立してしまったのです。
孤立したマギルはひねくれ、みんな馬鹿だ、と斜に構えるようになってしまい……いつの間にやら外の世界に行く気持ちすら失せてしまったのです。

そんなきらわれもののマギルにも、嫌いな人物がいました。
明るく朗らか、いつでもにこにこして人にやさしい少年。ジャンルーカ。
彼女はいつもジャンルーカを、無知な奴は魔位置に楽しそうでいいね、と心の中でまで嫌味を言っていました。
そんなある日、彼女はジャンルーカと二人っきりになってしまったのです。
それは、春から始める郵便屋さんの手伝いをするにあたって、下の町にある郵便局に挨拶に行かなければいけなくなった時のこと。
シッタカの村から下の町に行く方法は、古い線路を1時間半かけてゆっくりゆっくり降りていく、これまた古いトロッコ市街にはありません。
危ないし遅いし、お尻はいたくなるし……と悪態をつきながらそのとこっろに乗り込もうとしますと……そこに同じくしたの街に行く用事のあるジャンルーカが乗り込んできたのです!
定員は二名、しかも座席は隣りあわせ。
声にこそ出しませんが、マギルは不満いっぱいのままトロッコに乗り込みます。
ジャンルーカはいつ見てもいい眺めだとはしゃいでみたり、道中にある鳥の巣にエサを与えてみたりとにぎやかです。
ですがマギルはそれが気に入らず、
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鳥の巣のある岸壁を叩いて鳥をすべて逃がしてしまったのです!
フンとかされちゃたまんないわ。
表情一つ変えずそう呟くマギルに、さすがのジャンルーカもごめんと謝るほかはなく……
持ってきた「世界のこわいはなし」なる本をもくもくと読み続けるマギルと、押し黙るジャンルーカがいるだけの時間が過ぎるのでした……

郵便局でビスケットをもらい、紅茶を三杯もごちそうになったマギル。
ウキウキ気分でトロッコに戻ると、そこにはジャンルーカが待っていました!
先に行ってもよかったのに、とまた不満を漏らすマギルですが、ジャンルーカは一緒に言ったら必ず待つって村の決まりじゃないか、とこともなげに言うのです。
またも始まる、無言の一時間半。
マギルは思うのです。
紅茶を三杯ものまず帰ってきて、置き去りにすればよかった。
そうすれば、読み終えた本を開かなくて済んだのに……

帰ってくると、夕ごはんはこの村では珍しいハンバーガーやフライドチキンといったジャンクなフードばかり!
やっぱりまだ子供なマギル、こういったご飯はうれしいわけで。
こんな毒と油の塊なんて、と言いながらおいしくいただくのです。
ところでこのハンバーガーはどうして急に出てきたのでしょう。
マギルのお母さんが言うには、ジャンルーカが村を出るから、お世話になったお礼だと渡してきたというのです!
それを聞いたマギル、イラつきを感じてしまいます。
自分が村を出ないのに、ジャンルーカが村を出るなんて、なんだか負けているみたいだ!
そこでマギルは思いつくのです。
ジャンルーカが町へ出ようと思ったのは、外のこわさを知らないからだ。
怖さを知って、自分の無知を知れば、きっと行くのを辞めるはずだ!!
そう考えたマギルは翌日、満面の笑顔でジャンルーカに選別を渡すのです。
「あなたの知らない世界の裏側」と言う、とりわけ恐ろしいページに附箋をした分厚い本を!!
さっそく読み始めたジャンルーカですが、すぐにマギルにこう聞いてくるのです。
これ、なんて読むの?これ、なんて意味?
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……マギルはイライラしながら、ジャンルーカにいちいちいろいろと言葉を教えてあげることになるのでした!!

自分で調べろと突き放したら、めんどくさくなって読むのを辞めてしまうかもしれない。
村ではもちろん、あのトロッコの上でも付きっきりで彼にわからないところを教えてあげるマギルですが……ジャンルーカは世界って知らないことがいっぱいあっておもしろい!とちっともこわがりません。
もっとどぎつい本を上げたほうがよかったかしら。
そんなことを考えていますと、突然トロッコが止まり、うんともすんとも言わなくなってしまいました。
なんと燃料切れです。
じつはマギルがジャンルーカを待っている間にエンジンをつけっぱなしにしていた為燃料がなくなってしまったのですが……マギルがそれを言い出すわけもなく、あんたが悪いのよ、とつぶやくだけ。
そこでジャンルーカは、歩いて村に帰ろうと言い出しました!!
足を踏み外せば断崖に落ちるだけ。
待っていれば誰か来るからと断るマギルですが、ジャンルーカは夜になっちゃうし、夜になればもっと危なくなるとそれを却下。
マギルは、あんたとちがって私は怖いから嫌だ!!と叫ぶのですが……
ジャンルーカは言うのです。
俺だって怖いよ、と。
真夜中になっちゃうと寒いし、風邪ひいちゃうよ、と手を伸ばしてくるジャンルーカ。
ジャンルーカも怖いんだ、怖くないんじゃないんだ。
マギルはその手を取り、ゆっくりと断崖を登り始めるのでした。

恐怖で心拍数が上がると、それを恋愛感情のどきどきと錯覚して相手に好意を持っていると勘違いする。
今この状況が、吊り橋効果ってやつよね、とマギルは胸の高鳴りに折り合いをつけようとしていました。
暗くなりはじめ、マギルが足の痛みを感じ始めたころ……ジャンルーカは振り返り、ついたよ、と笑顔でひとこと。
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その笑顔を見たマギルは……頬を真っ赤に染めて、見ればわかるわよ!と毒づくのでした。

そしてその日はやってきました。
ジャンルーカ、旅立ちの日。
マギルは今までジャンルーカに行ってきたひどいことの数々を思い出し、涙をこぼしながら謝りたいと考えていました。
出発前日のチャンスも自らふいにしてしまい、この日のジャンルーカの送別会で謝ろうと心に決めていたのですが……
なんと村の少年たちは、性格の悪いマギルと合わせないほうがジャンルーカも気持ちよく旅立てるだろう、とマギルに送別会の時間を遅く教えていたのです!!
マギルはジャンルーカに謝れないまま、彼と別れることになってしまうのでしょうか……?
マギルはまだ間に合うかもしれない、そう考えてトロッコのレールの上を全力疾走するのですが……
その途中、ジャンルーカが乗っているはずの電車が出発するのが見えて。
行っちゃった、間に合わなかった……
マギルはその目に、涙をあふれさせるのです。
……が……!


というわけで、胸にジンとくる少女と少年のお話を収録した本作。
この他、ジャンプの増刊に掲載された、小学校高学年特有の「女子と遊ぶなんてダサい」と言う思考がカギとなる物語「あんねちゃんたろう」。
週刊少年ジャンプに掲載された、恋愛未満の恋愛物語「月・水・金はスイミング」。
ジャンプSQに掲載された、こちらも思春期の男子と女子の意識の違いがすれ違いを生む「反省してカメダくん」。
そして描きおろしで語られる、「月・水・金はスイミング」と対になるお話、「マドカさんは知らない」……という全5編が収録されています。
その内容は、どれもが思春期の男女の恋愛を描いたお話でして。
男女がすれ違い、やきもきさせてくれるお話ばかりではあるのですが、最後はきっちりホッコリさせてくれるお話ばかり!!
冬の寒い時も、このお話を読めばここと温まること間違いなしでしょう!!

描きおろしのあとがき漫画や、描く作品誕生にまつわる小話なんかも収録しておりまして、おまけ要素も満載!
本編のみならず、おまけの面でもボリュームたっぷりの内容となっていますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!