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今回紹介いたしますのはこちら。

「恐之本 六つ 高港基資ホラー傑作選集」 高港基資先生 
少年画報社さんのSGコミックスより刊行です。

さて、高港先生の描いてきた恐怖短編を集め、夏と冬、定期的に刊行しているこのシリーズもとうとう第6巻。
今巻もオカルトから人間が怖い系のお話まで様々な恐怖譚をぎっしり11編収録しております。
そんな中今回紹介したいのは、一時期のネットでも流行ったいわゆる「伝承系」のエピソード、「えだちまわり」です!!


京都のはずれにひっそりとある、とある村。
この村には、春行われる奇妙な風習がありました。
「役(えだち)まわり」と言うその行事、その役に選ばれた家では家長に様々な役割が科せられるのです。
慎吾は今回初めてその役をやることになります。
髭の剃りのこしを母親に怒られる慎吾、お見合いするわけでもないのに何でそこまできっちりしなければならないんだと不満顔です。
そうこうしておりますと、誰かが尋ねてきます。
この度は御当家にえだちをお願いします、どうかしっかりとおつとめください。
そう言って訪ねてきた老人は、巫女のような装束を連れた少女を連れてきました。
えだちというのは、簡単に言えばこの少女を家に泊めること。
そして家長はこの少女と同じ部屋で眠らなければならないらしいのです。
「どうしさま」と呼ばれるその少女に、アクサンのごちそうなんかを振舞い始める母親。
このえだちまわりについては、普段話題にすることが禁じられていますので、慎吾にとっては何もかもが初体験。
どうしさま、である近所の女の子も、何をどうしていいのかもわからず、ごく普通の子供のようにごちそうに舌鼓を打つのです。
その横で、慎吾たちの家族が口にするのはおかゆだけ。
そう言う決まりのようで、慎吾はすきっ腹に耐えるのですが……

夜になりました。
今までは特に何事もなかったこのえだちまわりですが、いざ寝るというところで母親は真剣な顔でこういってくるのです。
ちゃんと務めるんだよ、これは大事なことなんだ、お前が思っているよりずっと……
その真剣なまなざしに気おされながら部屋に入ると、どうしさまはもう眠っています。
異常ともいえるほど早い寝つきにちょっとびっくりする慎吾ですが、知らない家なのに寝つきがいいな、大物だ話などと考えながら慎吾も床につくことにします。
……夜も更け、時間は一時を回ったあたりでしょうか。
慎吾は、おかゆしか食べていないため空腹でなかなか寝付けずにいました。
余ったごちそうも近所に配ってしまいましたし、台所に行っても何も残ってはいないでしょう。
眉をひそめて天井を見上げる慎吾ですが……
そこに、いつの間にか起きて仁王立ちをしているどうしさまがいることに気が付きました!!
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突然の行動に驚いた慎吾、何?トイレか!?と思わず大声を上げて跳ね起きます。
するとどうしさま……今までのごく普通の女の子とは別人のように、ぶっきらぼうに命じてくるのです。
立て。ついてこい。
……何がなんだか少しもわかりません。
ですが、慎吾には大人しくついていくことしかできず……
どうしさまは驚くほど足早に外へ出ていきます。
どれだけ声を張り上げて、待ってくれ、泊まってくれと声をかけても一切聞かないどうしさま、
慎吾は怪我でもされたら問題になると、必死に後を追っていきます。
どんどんと先に進んでいった先は、村にある神社でした。
ここで、これももしかしたらえだちまわりの決まり事なのかと気づく慎吾ですが……それでも熊でも出たらどうするんだと現実的な危険を恐れていまして。
ハァハァと大きく息をついて神社の階段を登り終えると、どうしさまは直立して待っています。
その場所にあったのは……古びた井戸。
そこには縄梯子がかけられておりましてどうしさまは、降りろ、とだけ命じてくるのです。
逆らっても仕方がない、と井戸を降りる慎吾、
地面に降り立つと……そこがただの井戸でないことに気が付きます。
ただでさえ暗い井戸の中で、ぽっかりと闇が口を開けるように延々と続いている謎の横穴……
そして、その先の見えない暗闇から、何かが……近づいてくるような音が聞こえてくるのです!
それも、大勢……!!
そこで頭上から声が帰られました。
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詫びよ。
心から詫びよ。
それこそが、えだち。
……慎吾には何を言っているのかわかりません。
ですが、その暗闇から、何かが近づいてくる音だけは確かに近づいてくるのです!!
……言葉には言い表せない、恐怖。
わけもわからないまま、この恐怖から逃れるかのように、慎吾は土下座をし、ひたすらにすみませんすみませんと謝り続け……
それでも、音は近づいてきます。
ただひたすらに謝り続ける慎吾の手に……
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赤子のような、小さな小さな手が触れました。
思わず顔を上げると、そこには……!!


というわけで、身の毛もよだつような恐怖を提供し続けてくれる本作。
この他にも様々な恐ろしい話が収録されています。
仕事でいつも家をあけているお父さんとお母さん、そのほかにもう一人いる得体のしれない存在を描く「あさみちゃん」。
どんな小さなずれも許すことのできない男がもたらす恐怖「絶対音感調律師」。
話の予想はつくものの、ラストシーンでの衝撃は予想ができていても衝撃的すぎる「水底の音」。
オカルトとも人間が怖い系でもない、もっと寒気の走るような恐怖を体験できる「パラサイター」。
それらに代表される作品の口火を切る、描きおろしの「茸嫁」……
ゾッとするモノ、続々するモノ、体がかゆくなるようなモノ。
今回も実に様々な恐怖を与えてくれ、同時にホラー好きには「そうくるのか!」という意外な方角からの攻め手を見せてくれるのです!!
今回も最初から最後まで、読み通せば震えて眠るほかない「ザ・ホラー漫画」に仕上がっている本作、もう今から夏の七巻目が楽しみになっちゃう充実ぶりですよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!