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今回紹介いたしますのはこちら。

「ピコピコ少年SUPER」 押切蓮介先生 
太田出版さんより刊行です。

さて、押切先生のゲームと歩んできた半生を赤裸々に明かしていく本作もいよいよ三冊目。
今回も少年時代からごく最近にいたるまでのゲームにまつわる思い出を描いていってくださいます。
そんな中今回は作中では比較的最近の、押切先生が漫画家デビューして間もなくの02年に起きた出来事を描く「アウェイ少年」を紹介したいと思います!


02年、押切先生は21歳でした。
まだネットは普及を拡大し始めた黎明期でして、23時から始まる電話かけ放題のサービス、テレホーダイの時間からが本格的なネットタイムでした。
押切先生も御多分に漏れず、23時過ぎにはPCの前に座り、行きつけのチャットルームでチャットを楽しんでおりました。
そのチャットルームは、新人漫画家や漫画家志望者が集まる部屋でして、押切先生は現在「東京都北区赤羽」でブレイクを果たした清野とおる先生も招いて憩いの場としておりました。
ある日、そんな憩いの場の仲間たちと実際に会って鍋を囲もうという企画が持ち上がりました。
俗に言うオフ会と言うやつです!
冬コミで同人誌を出すために地方からやってくるメンバーがいまして、ここで落ち合ったのち、感じの自宅で夜通し宴会を楽しむ。
そんな計画に胸を躍らせる押切先生、清野先生とともに朝から冬コミの会場に来ておりました。
企業なども出店しているこのイベント、スクリーントーンが安く買えるということもあって、お昼頃からこの場にやってきたのですが……その両手には、大きなバッグが二つぶら下げられております。
その中身が気になった清野先生、何が入っているのかを聞いてみますと……
押切先生はその中身を誇らしげに明かすのです。
これかい?この中にはドリームキャストが入っているのさ。
ドリームキャスト本体、コントローラー二つ、ソフトは「ソウルキャリバー」「ストリートファイターZERO3」「セガラリー2」「ダイナマイト刑事2」「バーチヤファイター3」。
さらに格闘ゲームをやる用のアーケードコントローラーを二つ持ってきた!
チャットの連中はみんなゲームや格ゲーが大好きで、強いと豪語しているらしいから、せっかく集まるのならば持ってくる価値は大いにある!
そう語気を荒げる押切先生に、清野先生も宴会をしながらゲームを楽しむなんて素敵だね、と称賛したものの、それでもこの人ごみの中の大荷物は大変だろうと心配もしてくれます。
押切先生は、みんなの喜ぶ顔が見たいのさ、とイケメンな返答で返すのですが、内心では自分のゲームテクを見せつけたいという気持ちも多分にあったりしまして……

その後二人は幹事のヒゲメガネさんにあいさつを済ませ、地方から来た仲間たちにもご挨拶。
みなさん人の好さそうな人ばかりで、人見知りの清野先生もほっと一安心です。
そして押切先生と清野先生はコミケが終わる午後4時まで時間を潰すためにコミケ内を徘徊することにしたのですが……
特に同人誌を買うでもなく、7枚1000円のスクリーントーンを買っただけで後はコスプレしている人を眺めたり、そのコスプレイヤー目当てであろうヤンキーたちを眺めたりしているうちに疲れが来てしまい、椅子に腰かけて休むことにします。
すると先生方の隣に腰かけていた女性二人組に、恐る恐る声をかけてくる男が現れます。
今日はいいの買えました?もしよかったらこれから飯でも行きません?
……ナンパです。
こういう場に来る女性ですから気も合いそうだ、と考え、声をかけたのでしょうが……
あえなくそのナンパは失敗、男はごめんなさいとすごすご立ち去っていくこととなりました。
触れ合いを求めて声をかけたのに、結果は謝罪するありさま。
自分たちがこんな状況になったら、夜シャワーを浴びているときや寝る前の布団で思い出してしまい、言葉にならない絶叫を上げてしまう……!
さっきの男にとって今日の出来事は苦い思い出と化すだろう。
それに比べて、俺たちは楽しい1日となる!
押切先生と清野先生は、楽しい予感しかない自分たちのこれからを想像し、先ほどの男を憐れみながら待ち合わせ場所に向かうのです!!

待ち合わせ場所に行き、集まった面々とワイワイと話しながら会場を出る道のりを歩きはじめたその時のことです。
先を歩いていた幹事のヒゲメガネさんが振り向き、こんなことを言い始めたのです。
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キミ達は帰ってくれ。
定員オーバーで部屋に人が入れないんだ。
……これは一体どういうことなのでしょうか?
一歩ゆずって人が入りきらないのはいいとしましょう。
ですがこの人数の中で、何故押切先生と清野先生の二人が排除されなければいけないのか……
とにかくそう言うことだから今日のところは帰ってくれ。
会話の予知もなく、冷たくそうあしらうばかりのヒゲメガネさん。
だからってなぜこのタイミングで!?と食らいつこうとする押切先生ですが……
参加者の女子軍も、二人はもう帰っちゃうの?残念だ、などと言いながらも決して一緒に参加しようという旨の言葉は言ってくれません。
ぐうの音も出ない押切先生に、清野先生は言うのです。
もういいよ、いいよいいよもう。

なぜだ、俺たちに来てほしくないんだったらなぜチャットで言ってくれなかったんだ。
あの二人嫌い、とでもあの女子たちの誰かが言ったのか?
でも嫌われるようなことを言った覚えはない……
そんなことばかりが頭をぐるぐるとまわっている状態の押切先生に、清野先生は言うのです。
所詮、彼らとは引き合わない人間同士だったんだよ。
彼らはアニメの話とか大好きだったけど俺たちは見ないだろ。
そう言う、空気が違うことを彼らはよくわかっているんだ。
誰も俺たちを引き留めなかったのはそれだからだよ……

思い思い二つのバッグを持って、二人は帰ります。
先ほどのナンパ男を見て優越感に浸った罰が当たったのか。
とにかく20を超えて「仲間はずれ」にされる屈辱を味わわされた二人は、心が落ち着くまで当てもなくお台場を徘徊することに……
この日の辛い思い出は、清野先生が言ったこんな言葉とともに、押切先生の胸に深く深く刻み込まれることとなるのです。
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この悔しさをばねにしよう。
いい思い出も悪い思い出も、俺たち漫画描きは活力やネタにできる。
むしろあいつらに感謝しよう。
悔しさを、憎しみをありがとう……と……


というわけで、押切先生の苦い思い出を描いていく本作。
この他にも楽しいはずのいちご狩りツアーがバス酔いと奇怪なゲームのせいで悪夢のような体験になるお話や、駄菓子屋で売っていたゴムボートを買ってドブ川下りしながらゲームボーイをプレイするお話、MMOで知り合ったゲームない彼女と会うことになった友人の悲喜こもごもを描くお話、押切先生のほろ苦すぎる恋の思い出を描くお話など、ゲームに関するお話が全9編収録されております。
どのお話にもノスタルジィや押切先生独特の自虐的なネタがたっぷりと収録されておりまして、懐かしさとともにクスリと来させた鉄内容は今巻でも健在となっております!
そして先日発売された「超超クソゲー」の企画で溝ノ口の押切先生ゆかりの地を練り歩く様子をレポートしたお話から……最終話では、昨年押切先生と某出版社さん、そして某ゲームメーカーさんが中心となって巻き起こった「あの事件」後のお話が描かれることとなるのです!!
ps3
「あの事件」の真相について語られる……ことはないのですが、その後の押切先生の心情を克明に描く子の最終話はまさに必見!!
事件については皆さまそれぞれに思うところがおありでしょうが、本作のオチはまさしく本作の「ピコピコ少年」と言うタイトルにふさわしいものとなっておりまして……必見です!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!