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今回紹介いたしますのはこちら。

「阿部洋一短編集 オニクジョ」 阿部洋一先生 

集英社さんのヤングジャンプコミックス・ウルトラより刊行です。

さて、本作は阿部先生初となる短編集です。
が、実際はウルトラジャンプにて断続的に発表されていた読み切りシリーズ「オニクジョ」を一冊にまとめ、その合間に発表された読み切り「金属のキミへ」を合わせて収録した、「オニクジョ」のための単行本といえる内容となっています。
その「オニクジョ」は、阿部先生らしい独特で不可思議な世界観を存分に発揮した作品です。
独自の設定と雰囲気に惹きこまれること必至の本作、その内容は……?


岩倉宗太は、古アパートの一室に暮らしています。
そこに入ろうとしたときに、すれ違った一人の少女。
ニコッと微笑み、ぺこりと会釈をする彼女は、宗太の向かいの部屋に住む九条ふきちゃんです。
いつもニコッと会釈をする、感じの良い女の子ですが……ちょっぴり変わったところもありまして。
このアパートのおトイレとお風呂は巨王道で、玄関の真ん前にあるのですが……彼女はドアをしめずに使うのです。
シャワーを浴びているとき、用を足している時……そんなときに、出くわしてしまうことも当然あるわけです。
が、そんなときも彼女はにこりと挨拶!
今時の女子ってそんなもんなのか……?などと考えながら、宗太は自分の部屋に入り、ライトのスイッチを入れるのですが……
そこに
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なんか小さいのがいました。
気のせいかと思って電気を消したりつけたりしてみますが……やっぱりいます。
なんか意思疎通もできるみたいですし、話を聞いてみると……その小さいのは「畳オニ」のキヨシだそうで。
自分の地元ではほぼ見ることのできないオニ、京都に来ると本当にいるんだ……と謎の感情を抱く宗太。
……ですが、何でよりによって宗太の部屋にいるのでしょう。
キヨシはといいますと、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら事情を話してくれたのです。

オニ仲間と一緒に、生まれて初めて人の里にやってきたキヨシ。
ですが仲間とはぐれてしまい、2時間ぐらい街の中をさまよい続けていたそうです。
コンビニでその仲間をようやく見つけたものの、友人はコンビニの前でたむろした挙句、出てきた人間の男性に因縁をつけて楽しんでいたのです!!
慌ててそれを咎めるキヨシ。
人間の町で悪さしちゃだめだよ、「オニクジョ」に殺されちゃうよ!!
……オニクジョ、と言うのは鬼の間に伝わる伝説で、鬼を駆除する力を持った恐ろしい一族
のことなのだとか。
キヨシの仲間はそんなオニクジョの存在など信じていなかったのですが……その瞬間、吹屋が飛んできてオニ仲間の額に命中。
直後、彼らの頭が木っ端みじんに爆ぜてしまったのです!!
私……オニクジョです。
そう言いながら姿を現した人物は、何も悪いことをしていないキヨシまで吹き矢で狙い始め……!!

必至で逃げたキヨシは、たまたま窓の開いていたこの家に逃げ込んで事なきを得たんだとか。
宗太はさすがにもう探してないよ、今日はもう遅いから、うちに泊まっていけ、明日山まで送ってやるよ、と優しい声をかけたのでした。
キヨシのために近くのコンビニまでご飯を買いに向かう宗太。
するとまた、ふきちゃんがドア全開でシャワーを開けているではありませんか!!
宗太の存在に気づき、にこりと笑うふきちゃん。
宗太は高鳴る胸を抑えながらコンビニに向かいます。
これは下心なのか恋心なのか、それとも……?
そんな宗太には、コンビニの店員同士が話しているお話の内容が入ってきていませんでした。
昼間は大変だった、鬼に絡まれたと思えば女の子がその鬼の頭を吹っ飛ばした、片付けるの大変だったんだ……
コンビニのゴミ箱には、血まみれの何かが詰め込まれていて!?

キヨシは大人しく部屋で待っていましたが、尿意を我慢できずに部屋を出ました。
ストレスによるものか、ちょっぴり血混じりのおしっこを終えると、その隣にシャワーがあることにその時気づきます。
目が合う、キヨシとふきちゃん。
キヨシは素早く部屋に戻りました。
今のは、ひょっとして。
そんな偶然、あるわけがないよね。

宗太がアパートに帰ってくると、ふきちゃんがいつも来ているセーラー服に着替え、手に竹筒を持って待ち構えていました。
そして宗太に尋ねてきます。
ちょっとでいいのですが、あなたのお部屋に上げてもらってもいいですか?
いきなりの驚愕のお願い。
いろいろな、主に邪な思いが駆け巡る宗太ですが、その口から出る言葉は一つ。
もちろん、どーぞ!

家に入り、これは事情があって家にいる畳オニのキヨシ、と彼女に紹介する宗太。
そして宗太は、キヨシにこの子は向かいに住んでいるふきちゃんなんだけど……と紹介を始めました。
激しくなる動悸、吹き出る汗。
そんなキヨシの視界の中に映るふきちゃんは……竹筒を口に持っていき、そこに矢を詰めはじめていて……!!
やっぱり彼女はあのオニクジョだった!!
これでもう僕の命は終わった……
力なくへたり込むキヨシでしたが、彼には一つだけ残された能力があることを思い出しました。
ふきちゃんが今まさに吹屋を打とうというその瞬間!
今こそわが一族に受け継がれしあの技を使う!!
キヨシは宗太の部屋に敷き詰められた畳を
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はね上げて矢を防いだのです!!!!
……が、これからどうすればいいんでしょう。
これで逃げ続けても、この部屋は4畳半……先は見えています。
ふきちゃんは次の球をこめてますし……今はね上げた畳も倒れてきてますし。
キヨシはとりあえずその畳に押しつぶされまいとグッと抑え、そのまま押していきました。
するとまるで狙ったかのように、宗太とふきちゃんの立っていた玄関への出入口をふさぐ形になりました。
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期せずして密室となった玄関。
とはいえ支えているのは小さなキヨシ一人(一鬼?)、ちょっと押し返せばすむことです。
ですが今二人は、暗い密室で至近距離なわけで……事情を知らない宗太はドッキドキ。
ふきちゃんも今まで見せたことがないくらい顔色を変え、ドキドキしていたのですが……
実はそれは……!!

というわけで、不思議な存在、オニとオニクジョのお話を描いていく本作。
この第1話にあたる読み切りでは、ちょっと変わった女の子でしかないふきちゃんですが、お話が進んでいくにつれてその正体(?)が明かされていくことになります。
そんな彼女にドキドキしてしまっている宗太。
そんな二人の恋物語が始まる……と思いきや、そんなことはありません!!
オニクジョと言うあまりにも奇妙な存在である彼女をめぐり、キヨシと宗太、そしてふきちゃんの悲喜こもごもを描いていく、心を抉っていくるようなラストに進んでいくしっかり読ませるタイプの作品となっていくのです!!
心に風が吹くような感情が味わえるラストを迎える本作ですが、そんな本作のエピローグを4P描き下ろしているのも注目です。
まさかまさかの展開を迎えるエピローグはまさに必見!!
続編があるかどうかはわかりませんが、今後の展開をいろいろ妄想せざるを得ない内容になっているのです!!

そして、同時収録されている「金属のキミへ」も非常に印象に残る作品になっています。
奇抜な設定で、一見すると出落ちにも見える本作、その内容はひたすらにせつないストーリーで……
ナンセンスなギャグにしか見えない方もおられるかもしれませんが、感じる人はものすごく何かを感じ取れるこちらも必見の内容に仕上がっております!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!