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今回紹介いたしますのはこちら。

「累」第5巻 松浦だるま先生 

講談社さんのイブニングKCより刊行です。

さて、伝説の大女優、淵透世「だった」女性の娘、野菊が登場した前巻。
そんな野菊が自分を縛り付けてきた父を殺め、体を売ってまで求めたのは自分の姉だという「かさね」。
自分の母の容姿と未来を奪った「いざな」の娘であもある「かさね」に会い、もし自分よりも幸福に生きていたら……
燃え上がる黒い憎悪だけを支えに辛い生活を過ごしてきた野菊は、その人物が探し求めてきた「かさね」であるとは知らずに丹沢ニナとして生きる累に出会います。
半分とはいえ同じ血の流れる姉妹である二人は初めて会った瞬間から惹かれあい、すぐに仲の良い友達になってしまうのです……


今の野菊の持っているものは、淵透世に生き写しの圧倒的な美貌。
それだけを頼りに、住む場所の提供と「かさね」の現在の所在を調査してくれている天ヶ崎を手に入れ、そして様々な男性と一夜を共にすることで生きる糧を得ています。
そんな彼女の周りに、最近不審な男がうろつくようになりました。
それは先週関係を切ったばかりの麻溝と言う男です。
野菊に恐ろしいまでの執着心を持つ麻溝、危険を感じて関係を切ったものの時すでに遅しで、彼は悪質なストーカーへと変貌。
野菊が男とホテルに入ろうとすると、その前に現れて、メールによって俺の相手はしないのになぜそんな男の相手はするんだ、と呪詛めいた言葉を送ってくるのです。
その日もあらわれた麻溝。
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慌てて逃げ出す野菊ですが、脳裏に浮かんだのはニナ……累の顔だったのです。

少し前に、累と二人でお茶をしていた野菊。
二人は好きな本やおいしいお菓子や行ってみたい国、といった他愛もない話で盛り上がっていました。
子供同士がするような会話にも思えますが、それもすべて二人とも隠したい過去や生活を持っているから。
自然と二人がその会話を避けることで、二人ともがリラックスして会話できる。
それが二人がすぐに仲良くなった理由の一つでもあるのでしょう。
そんなとき、不意に震えだす野菊の携帯。
気にせず出ていいのよ、と言う累ですが、その着信の相手はおそらく麻溝なのでしょう、野菊はいいの、と顔面を蒼白にしてその電話を懐へしまうのです。
基本的に累の前では穏やかな表情をしている野菊なのですが、この時の彼女の顔は明らかにただ事ではない様子で……
心配する累ですが、野菊はここで突然こんなことを聞いてくるのです。
話を聞いてると、あなたの周りはやさしい人ばかりね。
それは、男の人でも……いえ、誰もがそうなの?
累は少し考え、初対面では怖い人なんかもいたけど、大体みんないい人だと答えるのですが……
野菊はすぐいつもの笑顔に戻り、ちょっと気になっただけ、きっとあなたがやさしいからそう言う人を引き寄せるのね、と不安をごまかすのでした。

あの優しい彼女に、こんなことなんて相談できない。
野菊はそう考えながら、家路を急ぎます。
すると携帯にメールが着信。
「逃げられると思ってるの?」。
その一文だけが記された……
後ろを振り向くと、人ごみに紛れて麻溝の姿が。
父を殺めている都合上、警察に駆け込むことなどできません。
天ヶ崎に電話をしてみるも、なぜかこんな時に限って出てくれません。
やみくもに逃げ回っていると、どんどんと人通りの少ない道へと迷い込んでいってしまう野菊。
ただでさえこのあたりの地理に明るくない野菊、完全に道がわからなくなってしまい……
やむを得ず電話をしたのは、累でした。
助けて、男の人が後をつけてくるの、でも道がわからなくて……
累は冷静に、そこから見える目印になるようなものを教えるよう指示。
タワーみたいなものが見えるというので、そこを目指して歩き、開けた場所に出たら標識を見て駅へ、そして警察に連絡しようとアドバイスをします。
が、警察だけは……
駄目、と叫ぶ野菊の声に、何か事情があることを察した累は、自分もそっちに向かうから明るい道に向かって歩き、電話をこのまま切らないでいつでも通報できる状態に見せておくほうがいいと告げます。
野菊はそれに従い、明るい道に向かって歩くのですが……気が付けば今、この暗くて細い路地には自分と麻溝しかいない状況となっていました!!
駆けだす野菊ですが、明るい道まであと少しというところで男に髪をつかまれ、壁に押し付けられてしまいました!!
形態は地面に落ちてしまい、頼みの綱であった累の声も聞こえなくなり……
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麻溝は完全におかしくなってしまっていて、僕からの恩も愛もあしげにしやがって、手に入らないのなら!と野菊の首に手をかけて……!!
もうだめか、と言うその時、累が駆け付けて麻溝を鞄で殴りつけ、助け出すことに成功したのでした。

駅まで送り届けた後、家まで送ると提案する累。
ですが天ヶ崎の家を自分尾の家だというわけにもいかない野菊は、先ほどの事件で消耗しきっていたこともあり、家なんてない、一人にしないでと累に懇願することしかできません。
友達である野菊をこのままにしておくこともできない累、彼女と一緒にいてあげたいのはやまやまなのですが……1日1回しなければならないニナとの口づけの時間が間もなくに迫ってしまっています。
そうなれば……とる道は一つ。
累は葛藤しましたが……
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野菊を、自分の家に連れてきて、泊めることとしたのです。
自分の顔をして、昏々と眠り続ける……ニナのいる、決して知られてはならない秘密がドア1枚を隔てただけの場所にある、自分の家に……


というわけで、運命がさらに動き始める今巻。
まさしく運命の糸が引き合うように出会った累と野菊ですが、皮肉なことに二人はどんどんと良い関係を築いていってしまいます。
ですが野菊の心の中にあるかさねへの憎悪は強くなっていくばかり……
天ヶ崎の調査が進めば、淵かさねの今の所在がわかるでしょう。
そうなれば、淵重ねと……丹沢ニナが浅からぬ関係を持っていることもわかるはず。
それがわかった時、野菊はどうするのでしょう。
感は鋭い野菊、そう遠くないうちに顔の入れ替え、そして口紅のことに気づくかもしれません。
大切な友人であるニナと、生きる活力伴っている憎悪対象のかさね。
そのつながりに気が付いたとき、彼女は……!?
そして逆に彼女のことを何一つ知らず、ミステリアスで、やさしくはかなげな親友だと野菊のことを想っている累のほうは……?
果たしてこの物語は、どのような展開を迎えるのか。
悲劇の予感が漂う本作、これからも目が離せません!!