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今回紹介いたしますのはこちら。

「いない時に来る列車」 粟岳高弘先生 

駒草出版さんより刊行です。

粟岳先生は95年にデビュー後、成人向け雑誌、全年齢向け雑誌の様々な商業誌と、同人誌で作品を発表している漫画家さんです。
粟岳先生の作品は共通した雰囲気を持っておりまして、どこか懐かしい雰囲気と独自の世界観が魅力的。
今巻もその持ち味が存分に発揮された内容になっております。
そんな本作の中で今回紹介するのは表題作「いない時に来る列車」。
その不可思議な魅力が存分発揮された作品となっています!


広大にひろがる森の中、ただ一本のビル線路。
その線路のすぐ傍に立ち、はるかかなた線路の先を見つめているおさげの少女、シェリーがいました。
シェリーに、男性が話しかけます。
来ないよ、補給列車の運行はランダムだ、時間の無駄だよ。
わかったよとうなずく少女ですが、その時上空に飛行機が飛んできて、旋回を始めたのです。
どうやら近くの滑走路に着陸する様子。
シェリーは滑走路に向かうのでした。

すると飛行機はもう着陸しており、すでに別の男性がその場に待っていました。
すぐに飛行機に駆け寄ろうとするシェリーですが、男性は汚染チェックがまだだから近づくなと少女を制止します。
飛行機は無人機で、この男性が調査のために飛ばしたもののようです。
今回は旧主要都市に調査対象を絞ったから何かしら見つかるだろう、という男性、家に戻ってデータを見ようと機体の中から記録装置を取り出します。
シェリーもその記録を見ようとするのですが、その前に歴史の宿題が残っているだろう、終わらせろとお小言をもらってしまうのでした。

一九九六年8月開戦、北半球を中心とした主要都市への第1波攻撃での死者は推定7億2千万。
その年が明けるまでの気候変動により推定18億8千万人が死亡。
そのあと訪れた小氷期が明けた2176年には世界人口は500万以下になっていた。
開戦の原因は不明、偶発的な全面核戦争であったと推測されている……
そんな推測だらけの歴史の勉強をしている間に、記録を再生する準備が終わりました。
120年の小氷期の影響で衰退した文明を開戦前の水準にまで回復できたのがほんの80年前で、それまでに完全に失われた知識がどれほどのものなのか見当もつかないとのこと。
その知識を取り戻し、伝承するためにもシェリーにはしっかり勉強してもらいたい……と男性が漏らしているうちに映し出された映像。
真っ白な氷に包まれた北米大陸は5年前の調査時とほぼ変わりなし。
西海岸でも人間の居住形跡は見つけられません。
……ココからは前回調査していない領域の映像となります。
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まず映し出されたのは、名古屋。
人工物は皆無です。
記録によればここには上空200メートルで15メガトン級の水爆がさく裂したのだとか……
名古屋だけではなく、世界中の主要都市ほぼすべてがその過剰なまでの威力の大型爆弾で攻撃されたのだとか……
続々と映し出される、東京、マニラ、上海、ダラス、モスクワ、ローマ、リオ……そのどれもが、同じように人の生活の痕跡は一切ありません。
その歴史が事実であったことが確認された。
今回の収穫はそれだけでおわりのようです。

夜。
シェリーが床につくこと、男性二人は彼女に聞かせられない話をし始めました。
前回の調査では活動していたコロニーが3つ消滅した、いずれも食糧生産プラントの停止が原因と思われる……
そしてこのコロニーも、そう長いことはなさそう。
廻船和え以上の技術を獲得した人類も、結局食糧と燃料が切れて間もなく滅亡する……
現在の世界人口は……推定5000人以下。
そのあまりにも残酷な真実を、二人はシェリーに打ち明けることができずにいたのです。

午前3時。
シェリーは静かに起き出し、線路に来ていました。
実はシェリー、このコロニーの食糧と燃料を運んで来る列車に一定のパターンがあることに気が付いていました。
晴れの日なら5日、曇りなら8日、その累積日数によって変動する。
その漢字から考えて、そろそろ来るころのはず。
時間まではわからないためこうして待っているしかないのですが……
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うとうととしているうちに、列車がやってきました!
その列車は本当に無人のままやってきて、3つのコンテナを置いてそのまま走り去っていきました。
近づいてみると、そこには補給物資と……見慣れない封筒が張り付けてあったのです。
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誰か居ますか、返事ください。
5 8 5 12 7 9 ←運行パターン
……この人類の総人口が5000を切ろうかというときに……そう遠くない距離に人がいる……?
ですが本当にこれを信じていいものでしょうか。
コロニーの設計者のなんらかの意図により、この家と滑走路の半径10キロから80キロの間はドーナツ状に撮影不可能な領域になっています。
2万キロ離れた廃墟の様子は見られるのに、20キロ先には何があるのかわからない。
おそらく情報を絞ることによってコロニーの自然崩壊を防ぐ目的だとは思われるのですが……
その間の空間から、接触を求める声が届けられた。
シェリーは列車に乗って会いに行ってはどうかと提案するのですが、男性二人は渋い顔。
このコロニーの補給物資を奪おうとするものの罠がはってあったとしたら?
考えられないことではありません。
通信などでコンタクトを取ってみたいところですが、今の状況で電波による通信は絶対にタブー。
「敵」の哨戒網は現在も稼働しており、通信をキャッチされれば即核弾頭が飛んできます。
答えるべきか、それとも。
タイムリミットは、じっくりと迫ってきます。
……ほんのわずか残された人類の、タイムリミットが……


というわけで、ハードにもほどがある世界観で、週末に向かい合いながらものどかな日常を過ごす本作を収録した今巻。
こんな独特の雰囲気を持つ作品12編が収録されています。
今回のメインは同人誌で発表された作品がメインとなっていまして、今回紹介した作品と、もう一遍の商業誌で発表された「中内田ヘゲモス」以外の作品は粟岳先生が同人誌で展開する「斥力構体シリーズ」というシリーズものとなっています。
同人誌がもとということもあり、ものすごく不思議な世界観ながら説明が少なく、読み手の想像力が求められる内容なのですが……そこのハードルさえ乗り越えられればこの独自の感覚にはまること必至!!
表題作では控えめになっている粟岳先生お得意(?)の、世にも奇妙な何かを超越したかのような不思議な生物や、従来あり得ない器具、そして女の子が戸惑いながら野外で恥ずかしい格好をするという要素はそちらでばっちり描かれております!!」
どこか世界名作劇場的な絵柄も本作の雰囲気に絶妙にマッチしておりまして、人は選ぶけれどはまればはまる、という言葉がこれほどピッタリくる作品もないのではないでしょうか!!
のどかで不思議な世界観、フェティッシュなちょいエロス、本格的なSFと濃口の三要素がそろった本作、ご興味があればぜひご一読ください!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!