yy0
今回紹介いたしますのはこちら。

「山羊座の友人」 原作・乙一先生 漫画・ミヨカワ将先生 

集英社さんのジャンプコミックスより刊行です。

さて、本作は乙一先生の得意とするジャンルの一つ、サスペンスものです。
乙一先生と言いますと、様々な名義で描いた作品が続々とメディアミックス展開をされる人気作家なのですが、同時に単行本未収録が多く存在しています。
本作はそんな単行本未収録作品の中の一つを、「ST&RS-スターズ-」で好評を博したミヨカワ先生の筆によって漫画化したものです。
強力タッグで送られるこの作品、その内容は……!


友人と他愛ない話をしながら、昼ご飯を買いに学校を出ていく少年、松田ユウヤ。
校内を歩いていると、ある嫌なものを目にします。
小便器にお弁当をぶちまけられ、それを食べることを強要されている……いじめの風景。
ユウヤたちはその光景をしっかりと認識しながらも……見なかったことにしてそのまま歩き続けるのです。
不良たちもいじめも自分にはかかわりのない世界の話だ。
そんなものに立ち向かう超能力も秘密道具も持っていないのだから、関わりあってはいけない。
せめてささやかな高校生活を守るために。
その時は、そう考えていたユウヤだったのですが……

お昼を買って帰ってくると、ユウヤに声をかけてくる人物がいました。
後ろの席に座っている、メガネが印象的な真面目系女子の本庄さんです。
彼女は校外に出るのは校則違反だ、と彼女以外のほとんどの生徒が守っていない拘束を持ち出してユウヤを注意します。
ですが彼女の飲んでいる牛乳は、ユウヤの行ってきたお店でないと買えないはずの商品。
本庄さんもその店に行ってるんじゃないかと反撃したユウヤですが、そこはさすがの本庄さん、なんとクーラーボックス持参で朝買ってから悪口に来ているのだと返すのでした!
……こんな二人ですが、意外に仲は良好です。
本庄さんが興味を示すのは、ユウヤの家のベランダの話。
なんでも「風の道」に頭を突っ込んでいるとのことで、実にいろいろな真野が落ち葉やゴミなんかと一緒に紛れ込んでいるのです。
古雑誌や古新聞、「昭和75年」の卒業文集、頭にくっつけると空を飛べそうな気がする竹とんぼ状のアイテム、賞味期限が200年前のスナック菓子の袋……
以前その漂着物のことで彼女の助けを借りたことがあり、それ以来二人だけの秘密としてこの情報を共有。
何事にも興味のなさそうな顔をしている彼女ですが、子の件にだけは表情こそ変えないものの、興味津々なのです。
ちなみに、その時も気になる漂着物がありました。
発行日は今年の10月2日。
……今は9月です。
新聞にはある殺人事件にまつわる記事が書かれていて、もし本当に今年の10月からやってきたとしたら、未来に起こる殺人事件、ということになります。
まあ別に困ったことでもないし、話さなくてもいいか。
そう考えたユウヤは、そう言えば夜に雷雨が降るらしい、外出とかしないほうがいいね、とそのことには触れずに会話を続けるのでした。

体育の授業でも、二人は結構いい感じ。
体育の授業で力を使い果たし、へばってしまったユウヤ。
サッカー部の佐々木くんは自分よりもはるかに動き回っているのに元気いっぱいなのを見て、すごいなと漏らすのですが、本庄さんはサッカー部なんだから普通でしょ、と無味乾燥な感想を一言。
そんな本庄さんに、ユウヤは問いかけます。
本庄さんはコンタクトにしないの?と。
本庄さんは少し黙った後、こう返してくるのです。
松田君は、メガネじゃないほうが好き?
ユウヤの答えはこうでした。
yy1
何で僕の趣味が問われるわけ?
……おお鈍いこと。

そんな甘ずっぱいイベントのすぐ横で、あの不良といじめられっ子の関係も続いていました。
容赦なくいじめられっ子、若槻を蹴り飛ばすいじめっ子の金城。
ついさっきまで蹴り飛ばしていたにもかかわらず、教師が来れば何でもない、脚をひねったから保健室に行くと言い残して立ち去っていく金城……
金城はユウヤにぶつかるも、一瞥もしないままそのまま歩き続けていきました。
ぶつかる前に避けようなんて一ミリも考えていないような固い感触。
……金城には、様々なうわさがありました。
教育実習にやってきた女子大生が突然いなくなったのは彼のせいだとか、隣町の女子中学生が自殺したのもそうだとか。
二年生の高木と言う男といつもつるんでいた殻が高校に入って目を付けた存在が……若槻。
彼に目を付けられてしまったのは不運としか言いようがない、自分にできるのは次の彼のターゲットにならないように息を殺して生活するしかない。
そう考えるユウヤの高校生活というのは、彼が思っているほど華やかなものではなかったのです。

その夜。
ユウヤはコンビニから雑誌を買って帰ってくるところでした。
ふと、耳にパトカーのサイレンの音が聞こえてきます。
ヤガモ橋のほうかな?と自転車を止めて耳を澄ましていますと……今度はユウヤを呼ぶ声が聞こえてきます。
声のほうを振り返ると……声の主は、あの若槻君でした。
何をしているのかと聞いてみると、散歩かなと答える若槻。
自分はコンビニに行っていたというユウヤの籠の中にあった漫画雑誌を見つけると、もう出てるんだ、それを読むのを楽しみにしてたんだよね、と言いながら、暗い路地裏から出てきます。
その右手には……
yy2
ベコベコにへこみ、血や、肉片、頭髪のようなものがこびりついた金属バットが握られていて……
聞いていいのかわからないけど、と切り出そうとするユウヤ。
すると若槻は言いました。
これ?
金城君の血。
……彼は選択したのです。
自殺はしない。
そのかわり、自分が生き残るために相手を殺す、と。

若槻はそのうち自首するが、今はあっちに逃げようと思う、松田君に迷惑かけるといけないからもう行くよ、と歩き始めようとしました。
ああうん、頑張ってな、とよく分からない言葉とともにそれを見送るユウヤ……
僕が気にすることじゃない、彼があのバットでどんなことをしたのか、それは逮捕されて当然のことなんだろう。
そう、僕には関係ない、彼とはまともに会話するのも初めてだったんだ、友達でも何でもない、関わる道理なんてない、放っておけばいいんだ、今までそうしてきたように。
今までの光景が頭をよぎったその瞬間。
yy3
まてよ、とユウヤは若槻を呼び止めていました。
いまさら何ができるのか。
でも、今呼び止めなければ彼を助けるチャンスはもう二度とやってこないんだ。
……こうして、始まることとなるのです。
ユウヤとその友人の、あまりにも悲しい別れの物語が……


というわけで、今まで見てみぬふりをしていたものと向き合うことから始まる物語を描いていく本作。
この後、ユウヤは若槻の逃亡を手伝うことになります。
友人とまでは言えなかったようなクラスメイトが、犯罪に手を染めたことを知っていながら一緒に行動する……
それだけでも相当スリリングで、どうなってしまうのかが大変気になる内容なのですが、そこは乙一先生作品、それだけでは終わりません!!
未来の新聞に書かれていた記事の内容、若槻の心情、意外な人物の意外な行動……
様々張り巡らされた伏線が徐々に実を結んでいき、驚かされるばかりの展開が連続!!
逃走劇からの解決編は、まさに息をのむこと間違いなしの衝撃が待っているのです!
あまりに悲しく、切なく、意外な結末は、読者を引き込むこと必至!!
乙一先生ファンならばもちろん、原作未読の方ならばこそ読んでほしい傑作となっています!!

個人的には本作と非常に縁の深い関係にある乙一先生の「F先生のポケット」も漫画化、せめて単行本収録していただけると非常にうれしいところ……
その題材が題材だけに、権利的にいろいろめんどくさそうなのはわかるんですが……どうでしょうか、小学館&集英社さん!!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!