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今回紹介いたしますのはこちら。

「蟬丸残日録」第1巻 ツナミノユウ先生 

講談社さんのモーニングKCより刊行です。

さて、ちょっぴり心配性な主人公が、心の中でアレコレいいわけをしながら必死に生きていく日常をコミカルに描いていく類の作品を得意とするツナミノ先生作品。
そして主役が宇宙人だったり妖怪だったりといった、普通の人間ではない作品が主となっています。
ですが今回は、なんと普通の人間です!
……ただしそれは、この物語が始まる少し前までは、の話なのですが!!

ところで、本作のタイトルおよび人名は「蟬」の文字が使われているのですが、環境依存文字のようなのでこれから後は略字である「蝉」の字のほうを使わせていただきますのであしからずお願いいたします!!


朝起きたら、蝉丸は自分が蝉になっていることに気が付きました。
特に気がかりな夢を見たということもなく……ただただ茫然と、鏡の前で小一時間ほど途方にくれるしかなく。
その後、もしかしたら自分のことを正しく客観視できなくなった、精神的なものなのかもしれないと考え、自撮りをしてネットに画像付きで上げてみたのですが、やはりネット上の人たちもその顔は蝉にしか見えていないようです。
本当に、蝉になってしまったらしい。
蝉丸はとにかく混乱。
いやいやこんなバカな、と考えているうちに一日が過ぎ、目が覚めたらこんな悪夢から覚めているに違いない、と再び布団に入ることになったのでした。

翌日、目が覚めると……やっぱり蝉のまま。
やっぱり俺、蝉になってる!
会社も無断欠勤してしまったし、昨日からガンガン着信が入ってる。
どう説明したらいいんだろうか、五月病だと思われるだろうか。
蝉になるなんて、なんて症状なんだ……
と、その時のことです。
蟬丸は気づいてしまったのです。
蝉になった……つまり俺、
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あと一週間で死んでしまうのか!?
よく蝉の寿命は一週間だと言います。
しかも蝉丸はすでに蝉になってから丸一日すごしています。
となると……残りの命はあと6日!?
あああ、何故こんな理不尽!!俺が何をした!?
あまりのショックに地面に突っ伏し、絶叫する蟬丸。
そのショックで、また半日消し飛んでしまいました。
5日半、俺の命はあと5日半!!
その時が来れば、この狭くて小汚いアパートに巨大な蝉の死骸が横たわって。
それでおしまいか、俺の人生。
みっともない、みじめな最期だ。
悲観に暮れる蟬丸ですが、そこで何かがふつふつと湧き上がってくるのです。
それでいいのか?
否!!
死期がわかっているのなら、できることもある。
よく言う、明日死ぬとしたらどう過ごすかと言うやつだが、自分には5日もあるじゃないか!!
そう言って立ち上がった蝉丸!!
まずしたことは……
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ハードディスクの整理でした。
長年かけて築き上げた煩悩の塊。
目の前でそれが跡形もなく消えて行くのは、想像を絶する喪失感をもたらすのですが……
その引き換えに得られる安心感たるや……!!
この世の中の大半の人が抱えているであろう、「急死してパソコンの中身を見られる」と言う恐怖から解放されたのです!!
悔いが一つなくなったことで、ものすごい幸福感に包まれた蝉丸。
悟りが開けそうなくらいすがすがしい気持ちになった今、彼の中にあるのは「悔いのない最期」について考えることでした。
いろいろと考えた結果、彼が選んだのは……

スーツに身を包み、会社に行くことでした!
どう見ても蝉のその姿を見て、いつも蝉丸に辛くあたる年下女性上司は卒倒してしまいます。
毎日ムカついていたけど、失神するなんて可愛いところあるじゃないか、死ぬ前に良いもの見た。
……これだけでわざわざ会社に来た価値があったかもしれません。
その後事情を説明し、職場の皆で蝉丸のお別れ会を催してくれることになりました、
見送られる蝉丸は、あの行動によってものすごく穏やかですがすがしい状態を保っております。
そのおかげもあり、絞めっぽくならずさわやかに行われまして。
この会では、さしもの上司もやさしくしてくれ……
寂しげな表情で、うっすら涙まで浮かべてくれていたのです。
悔いがあるとすれば、こんな顔をもっと見ていたかった。
でも、このくらいが丁度よかったのかもしれない。
そうだな、もう悔いはない。
納得のいく最期だった……

そして一週間が過ぎ……一か月が過ぎ……
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蝉丸は……まだ生きていました。
いつだ、いつ死ぬんだ俺は。
……蝉丸の油断ならない日常は、続くようです!!


というわけで、ある日突然蝉になってしまった蝉丸の日常を描いていく本作。
蝉になってしまったわけですが、生活は続けなければなりません。
今まで通り仕事に精を出すことになる蝉丸なのですが、やっぱりいろいろと変化は出てきます。
まず、蝉である蝉丸に対する、世間の風当たり……と言いたいところなのですが、そこはツナミノ先生作品。
意外と普通に受け入れられているようで、あんまりそう言う蝉になった悲壮感とかは漂っていないのです!!
実際そこをリアルに描くと、ちょっとギャグマンガとしては辛い描写が多くなってしまう気もするので……正解でしょう!!
本作で肝になるのは、蝉丸が「自分はいつ死ぬのかわからない」という状況を踏まえてのいろいろな特殊な行動です。
いつ死んでもいいように、「最期の言葉」は名言っぽいものにしたい。
紺か格好で死んだらみっともない。
寿命関係で腫れ物に触るように気を使ってくる相手を、何とか小粋なジョークで和ませたい。
そんな、蝉丸の「見得」からくる滑稽な様子を面白おかしく描いております!!
一見出落ちに見えてしまう本作ですが、ふたを開ければ安定のツナミノ先生クオリティの日常漫画となっているのです!!

もちろん蝉丸意外にも様々なキャラが登場する本作。
男性陣も魅力的なのですが、やはり注目したいのは女性陣でしょう!
特に気になるのは例のきつくあたる年上女性上司こと、蜂須賀さん。
実は嫌味な人と言うわけではなく、素直な気持ちが出せないタイプのツンデレさんでして、いろいろいい感じの反応を見せてくれますよ!!
彼女と蝉丸がどうにかなる……ことはなさそうですが、いろいろと可愛らしい反応をしてはくれそうです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!