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今回紹介いたしますのはこちら。

「恐之本 お七 高港基資ホラー傑作選集」 高港基資先生 

少年画報社さんのSGコミックスより刊行です。

さて、実力派ホラー漫画家、高港先生のホラー短編集も本作ではやくも七冊目。
夏と冬と言う怪談にぴったりの季節に出るのがもはや恒例となっておりますが、今巻も無事発行となりました!
恐怖がびっしりと敷き詰められた今巻で紹介したいのは、「轢いた女」。
少し変わった切り口から描く、それでもしっかりと王道的恐ろしさを備えているその内容は……


わき見運転、スピードの出しすぎ。
今思い返しても、確実な原因ははっきりしません。
ですがただ一つはっきりしているのは……
自分が、一人の女性を車ではねてしまった、ということです。

朦朧とする意識の中、女性の声が聞こえます。
すみません、起きてもらえませんか?
ねえ、ちょっと。
はっと目をさました男。
意識がはっきりしていくにつれ、徐々に記憶も戻ってきます。
そうだ、事故ったんだ……
そのつぶやきが聞こえたのか、女性の声が再びかけられます。
ねえ、気が付いた?
酷いんじゃない>どうしてくれんのかなぁ……
声をかけてきた女性は、車と壁にはさみこまれてしまっています。
思いもよらない被害者との対面に、狼狽する男。
大丈夫!?痛む!?と声をかけると、意識のほうははっきりしているようで、どっちかって言うとしびれてる感じ、そんなことより早くケータイで救急車呼んでもらえます?としっかり答えてきたのです。
男はそれほど大きなダメージを負っているようではなく、あ、ハイハイ!と返事してすぐ懐から携帯を取り出そうとします。
が、ポケットに突っ込んでいたはずの携帯は出てきません。
事故の衝撃で懐から飛び出してしまっていたようで、よくみると助手席のほうまで吹っ飛んでしまっていました。
手を伸ばしてとろうとしたのですが、そこで男の足に大きな痛みが走ります。
今まで興奮していて気が付いていなかったのですが、どうやら事故で歪んだ車体に足をはさみこまれてしまっているようで。
おそらく骨折しているだろうという痛みに加え、しっかりと挟み込まれていて動けない状態なのです。
女性は、この辺車あまり通らないからやばいなぁ、と空を見てつぶやきます。
家賃の安い場所を探していてこんな寂しい場所に住んでいるらし意子の女性、この怪我が治るまでどのくらいかかるのか、今派遣で言っている会社に正式採用してもらえそうで大事な時なのに、ジュエリー関係なんだけど、けっこう営業とか頑張ったんだよね……と、身の上話を始めました。
ですがそんな話をしている際中、男は視線を飛ばした先に……とんでもないものを見つけてしまうのです。
それは……おそらくその女性から
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ちぎれ落ちた、下半身。
それに気づかせないように、男性はその仕事の会話を続けます。
今、宏と言うフィアンセがいて、音楽業界のかっこいい人なんだけどあたしを必要と思ってくれていて、長く入院ってことになったりしたら嫌がるだろう。
そんなのろけ話めいた話をする女性。
仕合わせの絶頂にいる彼女に対し、なんてことをしてしまったんだ……と絶望する男。
やがて女性は、急に眠くなってきた……と言って、喋らなくなってしまいます。
男は必死に眠るな、と声をかけたのですが……女性はそれっきり何も言わなくなってしまい……
そして、車も一向に通りかからなかったのです……

いつしか意識を失った男が目を覚ますと、病院のベッドの上でした。
片足の骨折と、内臓に少しのダメージを負った男、退院すればすぐに逮捕されることになっています。
24歳の未来に希望あふれる女性の命を奪ってしまったのですから、当然のことだと男は自らのした所業を悔い、あきらめていました。
何をしても償えるとは思っていないが、できることならば何でもしたい。
そう考えていた男性ですが……
女性のほうは、そうではなかったようです。
じっと、男の病室の片隅にうずくまり、時折顔を上げてうめくその女性の霊……
どうやらまだ、彼女は自信が死んでしまっていることに気づいていないようです……

どうやら男性にしか見えていないらしい彼女。
時間が経つにつれ徐々に変化が起きはじめていました。
フィアンセだと言っていた宏の名前を呼ぶようになり、そしてその顔つきが、今までのような忘我の表情ではなく、男をにらみつけるような恐ろしい表情に変わっていたのです。
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そして夜になると男の上に圧し掛かり……宏、宏とうめくのでした。

男は病院を抜け出し、その宏と言う男性のもとへ向かいました。
とにかく謝り、そのあとで彼女のことを聞いてもらおう。
そう考えながら彼のもとに行ったのですが、なんと宏は彼女のことを完全に「何人かいる遊び相手の一人」だとしか思っていなかったのです!
しかも彼女が死んだことも何とも思っていないようで、むしろ逆に彼女は親の離婚とかで家族がいないらしいから、賠償とかそっち関係であんたはラッキーだよととんでもないことまで言いだすクソ男ではないですか!!
怒りすら覚える男ですが、自分はその女性を殺してしまった身、何も言えず……
すごすごと病室に戻るしかなかったのです。

男は傷が治っているにもかかわらず、徐々に衰弱していきます。
おそらくあの女性の怨念によるものでしょう。
実際この頃になると、四六時中彼女は恐ろしい形相で男を睨み続けているのですから。
しかし男は、このまま弱っていって死んでしまっても仕方がない、それだけのことをしたのだから、罪は償うべきだと受け入れていました。
……ところがある日、予想外のことが起こったのです!
すっと彼女の表情から険が消えたではありませんか。
彼女が嬉しそうな表情になり、視線を移した先にいたのは……あの宏です。
今まで、警察は加害者に何かするのではないかと彼に男の所在を教えていなかったのですが、何とかして聞きだしたようで……男に会いに来た様子。
ですがお見舞いとかそう言ったものではなく、またどうしようもない言葉をその場で吐いたのです。
あんた罪滅ぼしがしたいんだろ?それなら付き合ってやってもいいぜ、慰謝料とかの用意があるならもらってやるよ。
俺に取っちゃ遊びでも、アイツはまじで婚約者だと思ってたんだし、一応こういうのも供養とかになるんじゃね?
……そんなとんでもない下劣な発言を……この場で。
彼女が、効いているこの場で!!!
すると彼女は、驚いたような表情を浮かべた後、すっと姿を消しました。
気配すらありません。
一体彼女は……どこに行ったのでしょうか?

宏は男に連絡先を渡し、さっさと帰っていきました。
エレベーターに乗り、病院をあとにしようと思ったのですが……
彼一人が乗り込んだそのエレベーターの扉が閉まると……宏の背後から
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女性が現れ……!!

それに気が付いたのは、看護婦でした。
エレベーター前の廊下に、ちぎれ落ちた男性の下半身が転がっていることに。
……上半身は、地下二階にまで落ちていたエレベーターの室内にありました。
何らかの原因で宏は故障して落下したエレベーターに挟まれ、真っ二つになったのです。
惨劇の一部始終を録画していた防犯ビデオにより、この事件は事故として処理されました。
……が、映像の中にあった不可解な一部分に関しては公表されていません。
エレベーターの中にいたのは、宏一人。
ただ、落下する瞬間の映像に一瞬だけ……

背後に、「いる」場面があったのです……


というわけで、今回も安定の恐ろしさを発揮する今巻。
紹介したお話も、これで一旦の解決……と思いきや、まだまだぞくりと来るオチを迎えて閉められることとなります。
自分が殺してしまった人物が霊となり、徐々に怨霊へと変化、そして……と言う、霊の変遷を描いていくかのような恐怖は、新しい試みと言えるのではないでしょうか!
それでいてスタンダードな怨霊による霊障でもあり、新しくも王道的な怪奇談となっているのです!!

そのほかにももちろん多くの恐怖が詰め込まれています。
少年が見た空から降りてくる白い人、その目的は……?と言う内容の「白い人」。
ふとしたきっかけで勇退離脱してしまう男の遭遇するとんでもない出来事「体質」。
伝承系会談に近いものを感じる、得体のしれないモノの恐怖を描く「社に住まう者」……
などなど、どこから読んでも、どれをとっても恐ろしい物語ばかりが8編収録されているのです!!
高港先生ならではの丁寧で流麗だからこそ恐ろしい怪たちは今回も健在!!
高港先生作品集では必ず一回はあるような気がする「わはは」顔もばっちり登場しますよ!!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!