gr0
今回紹介いたしますのはこちら。

「黒博物館 ゴーストアンドレディ」上下巻 藤田和日郎先生 

講談社さんのモーニングKCより刊行です。

さて、前作「スプリンガルド」では、バネ足ジャックの伝説にまつわる物語を描いた本作。
8年ぶりの新エピソードとなる本作では、やはりイギリスの怪談、ドルリー・レーン劇場の灰色の服の男、とモチーフにした作品となっています。
上下巻合わせて550ページを超える大長編となっている本作、その内容は……


黒博物館に、ホールと名乗る男がやってきました。
彼が見たいと言ってきたのは、1856年に幽霊が劇場の座席に残したと伝えられている「灰色の服の男のかち合い弾」です。

乗馬用の靴、長い灰色のコート、銃と剣、古めかしい三角の帽子、化粧用の白いかつら。
ドルーリー・レーン激情に現れる幽霊、灰色の服の男は、そんないでたちで昼間の興業の最中によく出没するといいます。
決まった客席に座っていて、立ち上がってゆっくり席の後ろを通り、反対側の壁に消えて行く。
ただそれだけの、特に何か害を及ぼすわけではないその幽霊ですが、目撃した劇場の人々の反応は……恐ろしがるどころか、大喜び!!
幽霊が出ると、その興業は大ヒット間違いなしだ、と言うのです。
そんな灰色の服の男が残したという「かち合い弾」。
見つかったのは、1856年の4月でした。
公園を終えた後の劇場を、従業員が掃除をしていたところ……一人だけまだ席に座っているのに気が付きました。
なんだか妙な服を着ているから、役者の誰かかと思い、おずおずとそこをそうじするから、と声をかけると……
それ、は立ち上がりました。
ゆらりと立ち上がったそれは、人間と言うには、あまりにもいびつな体型をしていて……!!
灰色の服の男だ、と慌てて逃げ出そうとしたその時には、もうすでにそれは忽然と消え失せていました。
その椅子の上に、あの「かち合い弾」を残して……

ホールは、そのかち合い弾の由来を話したら、自分の頼みを聞いてくれるかと持ち掛けてきます。
黒博物館を管理するキュレーターさん、その手の話には目がありません。
このかち合い弾については、幽霊が置いていったということしか知らず、ぜひとも聞きたいとお願いすると……
その瞬間、ホールの中から何かが跳び出てくるではありませんか!!
その何か、はこう名乗ります。
gr1
オレが噂の「灰色の服の男」だぜ、と!!
どうや灰色の服の男は、ホールの体を借りて「頼み」に来たようなのです!!
あっけにとられるキュレーターに、灰色の服の男は、自らそのかち合い弾にまつわる話を始めるのでした。

生きているときは、腕利きの決闘の代理人として鳴らしていたという灰色の服の男。
ですが幽霊になり、毎日のように劇場で過ごすようになってから、何故自分が死んだのか、ということを忘れて過ごしていました。
とはいえ、今は思い出しています。
そのきっかけとなったのは……ある、「めんどくさい女」とかかわったことだというのですが……

1852年、12月7日。
ドルーリー・レーン劇場に、一人の女性がやってきました。
なにやら両家のお嬢様のようで、お供も連れずに観劇などとんでもないと従者に止められているのですが……彼女はそれを受け入れません。
母や姉がいくらきつく言おうとも知らない、あの人たちは私の獄卒だから、と言い残して劇場に真っ直ぐ向かう女性。
ですがその途中、不意にその足は止まるのです。
彼女が気になったのは、道端で飲んだくれている老人です。
普通の人ならば、近寄るのも敬遠するような汚らしい身なりで、女性に絡んでくるような言葉を投げかけてくるその老人に対し、彼女は……逃げるどころか、自らを包んでいたケープを羽織ってあげたのです!
過度のアルコール摂取は疲労感や倦怠感の原因になりますよ。
唇の様子から胃腸の障害が出ているようです、薬草は草原で採取できるから、煎じて飲んでみてくださいね。
そう言って、女性はその場を立ち去っていったのです。

その日も、灰色の男は演劇を鑑賞していました。
2万回も見たと言うその観劇を終え、その途方もない回数にため息をついていると……そこに、先ほどの女性が現れたのです。
本来ならば普通の人間に見ることのできない灰色の服の男を、しっかりと見据えて彼女は言いました。
灰色の服の男ですね、お願いがあります。
gr2
私をとり殺してください。
……灰色の服の男が言うには、人間の背後には「黒い影」のようなものが取りついているのだと言います。
人が人に悪意を持つとき、ねたむとき、それは大きくなっていくのだと。
それが何なのかと言うと……その人間の「生霊」。
人が人の関係と言うのは、その生霊同士が争った結果、苦手だとか、恐ろしいだとかと言う感覚が生まれて築かれていくとか。
そんな日々争いを続けている生霊が、唯一姿を現さないのが観劇しているときなんだそうで……灰色の服の男はそんなこともあって劇場を根城にしているのです。
が、その女性の生霊はかなり奇妙でした。
生霊が、宿主自身を攻撃している……!?
しかもその女性、生霊が見えているのです。
他人の生霊が争っているのも、自らの生霊が自らが自らを傷つけているのも見えているのに……その上で、自分をとり殺してくれと言うなんて!
あまりにも奇妙なその女性に、興味を示し始める灰色の服の男。
その奇妙な女性は……
gr3
フロレンス・ナイチンゲール、と言いました!!


というわけで、その女性、ナイチンゲールと灰色の服の男の物語を描く本作。
この後、かち合い弾の由来と言う名の、ナイチンゲールの戦いが語られていくことになります。
ナイチンゲールと言えば、「白衣の天使」の代名詞と言ってもいい高名な女性。
そんな人物が、何故自分を殺してくれと言うような物騒なことを言うのでしょうか!?
彼女が歩んでいく、いばらの道とは?
そしてその裏で灰色の男が行っていた戦いとは!?

たっぷりのボリュームで描かれた本作。
時代背景などを感じさせるその匂いまで感じられるような描写、メリハリの効いた展開……
ナイチンゲールの伝記のような側面を持ちながら、藤田先生らしい泥臭くも熱いアクションシーンと、まっすぐな意思のぶつかり合いをしっかり見せてくれる内容となっているのです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!