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今回紹介いたしますのはこちら。

「橙は、半透明に二度寝する」第2巻 阿部洋一先生 

講談社さんのマガジンKCより刊行です。

さて、不思議なことばかりが起こる橙町の毎日を描いていく本作。
本作では1話完結の読み切り型エピソードと混在して、一人魚介類型エイリアンと称した以下やらたこやらと戦っている透子を主役としたシリーズものが展開していきます。
今巻では、その透子に大きな変化が訪れるエピソードが収録されていまして……


橙町の船溜まり。
その事件の始まりも、様々な事件の舞台となったこの場所でした。
突如水面から顔を出した魚。
その魚が音もなく岸へと近づいていった方と思うと、後を追うように蟹やらイカやらも進んでいきます。
やがてそれらは……上陸しました。
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水の中では他に比べるものがないためわかりづらかったのですが……上陸してみると、その魚介類たち、普通のサイズのものもいますが、ほとんどの個体が超巨大!!
しかも彼ら、魚介類のくせに地面を這うだけでは飽き足らず、空まで飛んで人々を襲い始めたのでした!!

突如として海洋生物に侵略されてしまった橙町。
いつも透子の奇行を見つけてはお説教をくれていた松葉杖のお巡りさん、その日も少女をはさんでいた巨大蟹を射殺しておりました。
銃弾を装填しなおしながら、お巡りさんの脳裏によぎるのは、やはり透子のことでした。
海洋生物型のエイリアンと戦っている……
普通ならば到底考えられないことですが、この状況を見ると、ひょっとして本当だったのではないかと思えてしまうのです。
今、町は今海洋生物型エイリアン(仮)であふれかえっています。
ですが、透子は全く姿を現しません。
実はこの事件が起こる直前に、透子にある事件が起こっていまして……
それも原因しているのでしょうか?

そんなこんなであっという間に数日が過ぎてしまいます。
すると……町にやってきたのです。
軽トラックの荷台に、ぎっしりとすし詰めのように乗った少女たちが!!
彼女たちは、皆判を押したように同じ顔に同じ装備。
白いセーラー服、肩より少し長い髪、マスク……そして、拳銃。
彼女たちは何も言葉を発さないまま、黙々と海洋生物型エイリアン(仮)を撃退していきます。
空を飛ぶエイを撃ち、蠢くオオダコを撃ち、血を這うヒトデを撃ち……
そのあたりの海洋生物型エイリアン(仮)を片付けると、再び軽トラに乗って移動。
それを繰り返し、どんどんと数を減らしていったのです。
どんどんとその少女たちは増えていき、彼女たちを積んだトラックも増えていき……
お巡りさんはとうとう彼女たちへの疑問が抑えきれなくなり、一台のトラックを呼び止めて職務質問をしてみることにしました。
意外にも素直に応じてくれた彼女たちですが、だからと言ってその答えを聞けば疑問が氷解するとは限りません。
彼女たちはこう答えたのです。
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自浄作用みたいなもんです。
理屈はさっぱりわかりませんが、感覚的には、なんとなく分かりました。
これで町は元に戻るのだろう、と。

自浄作用は次々に仕事をこなしていきます。
しまいにはパンツァーファウストのような巨大な武器まで取り出しまして、空を舞う鯨も仕留めます。
降りしきる血の雨。
お巡りさんが傘を差しながらその光景を見守る中でも、自浄作用たちは黙々とその仕事を遂行するのです。
すっかり海洋生物たちの姿も減り、お巡りさんも交番の中でうとうとする余裕ができたその頃。
ようやく姿を現すのです。
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あの少女……透子が!!

物音に気が付いて起きた時には、すでに彼女はお巡りさんの向かいに座っていました。
お巡りさんは、ストレートに尋ねます。
何してたんだ?町がこんな状況だってのに。
すると、彼女は以前の彼女からは考えられないようなことを言い出したのです。
関係ないですよ私には。
私、この町を出ていくことにしたんです。
お巡りさんは、少し前に透子がふさぎ込んでいる姿を見て、そして彼女が弱音を吐くのも聞いていました。
ですが、まさかここまでふさぎ込んでいるとは思ってもいなかったのです。
そして、透子は語り始めます。
彼女がこうして、何もかも失ったかのような死んだ目をすることになった……真実を。


というわけで、完結となる本作。
この透子の物語の完結となるエピソードが、事実上の最終エピソードとなっています。
透子に隠された真実を知った時、読者の方もおそらく……驚きと、悲しさを感じることでしょう……
そして本作の最後を飾るエピソードは、さらに衝撃的なもの!!
第1巻から引き続き第2巻を読んでいる人はその内容に戸惑い、最後のシーンで思わず声が漏れるほど驚愕してしまうのではないでしょうか!!!

今回紹介したエピソードの他にも様々なエピソードが収録されています。
重い話と見せかけて最後の落ちですべて持っていかれる「ちょっとだけ強い私になる為に」、瀕死の人魚を拾ってしまった少女の葛藤を描く「人魚が正座」、ものぐさのあまり文字通り腕を発射できるようになってしまった姉とその姉につき合わされる弟を描く「発射する手」……
全7編8話を収録した今巻も、コミカルだったり、ほっこりしてみたり、寂しさや悲しさを感じさせてくれたりとバラエティに富んでいます。
そして本作全体に漂う、不思議さと物悲しさのようなものは常に感じられる、まさに阿部先生ならではの一冊になっているのです!!
特に先ほども書いたラストシーンは、すっきりする終わり方ではないものの、様々な想像を書き立てる余地がある印象深いもの!
全2巻と巻数も少ないことですし、1巻をお手にしていない方はこれを機会にぜひ一気読みしてみていただきたいです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!