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今回紹介いたしますのはこちら。

「恐之本 八つ目 高港基資ホラー傑作選集」 高港基資先生 

少年画報社さんのSGコミックスより刊行です。

さて、高港先生が長年描いてきた恐怖の物語を集めて刊行してきた本シリーズ。
今回も恐ろしい話がこれでもかこれでもかと詰め込まれている本作、今回はホラーとしては比較的オーソドックスな物語運びながら、その無慈悲さが恐怖を掻きたてる「アットホーム」というお話を紹介したいと思います。


男は、顔面を蒼白にしていました。
真っ暗な夜道で、車道をフラフラと歩いていた女性を轢いてしまったのです。
女性は血を吐き、足はねじれ、腹からは真っ赤な血が流れ……痛い痛いと苦しんでいます。
男は悩みに悩んだ末……痛がる女性を引きずってトランクに積み込み、近くのバス停に移動させ、けが人がいると救急車を呼んでから……逃げ去ってしまったのです!!

翌日の新聞で、男はその後の出来事を知りました。
一人暮らしの飲食店勤務、34歳の女性が昨日ひき逃げされ、息を引き取った。
ひき逃げ藩が自ら車などで移動させ、通報したとみられる……
運がいいのか、悪いのか……ひき逃げの痕跡が残らなかったようで、男に捜査の手が伸びることはなさそうです。
そのニュースを見て複雑な表情を浮かべる男ですが、女性にひどいことをしてしまったという後悔よりも、自首などはできないという気持ちのほうが強いようです。
なぜなら彼には、大事な妻と小学生の息子がいるのですから。
ここで自首して逮捕されたり、食を失ったりしてしまえば、家族がどうなることか……
男の心境など知らない息子は、ゴールデンウィークにまたグァムに行くの?水中メガネで魚が見たい、と無邪気に男に笑いかけてくるのです。
妻はそんな息子を、お正月に言ったところなんだかが夏まで我慢しなさい!とそれをいさめます。
夏になれば海でもプールでもすぐ行けるから、とやり取りをする母子……
俺はどんなことがあっても家族を守らなければいけない、許してくれ、救急車は呼んだんだ。
男は、心の中で被害者にいいわけと謝罪をするのでした。

それからほどなくのことです。
男は、恐ろしいものを見てしまうこととなります。
仕事の書類を見ながら階段を降りていると……踊り場の片隅に、うなだれた黒髪の女が立ち尽くしているのです!!
その女……あの、男がひき逃げをした女にほかなりません!!
慌てて踵を返して廊下のほうへ逃げるものの、そちらのほうにも女が立ちはだかっています。
恐怖に震え、男は女に絞り出すように告げました。
勘弁してくれ、自首しろ、罪を償えって言うんだろ?
ダメなんだよ、俺には家族がいるんだ、俺がいなくなるわけにはいかないんだ!
男がそう叫んだ瞬間、
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女は猛然と男に迫ってきて……消えたのでした。

その頃、妻は一人夕食の用意をしています。
てんぷらを上げていたその時、急に彼女は立ちくらみ。
頭を抑えてうなだれるのですが、その背後に……あの、女がいたのです!!
そして女は、妻のすぐ後ろに近寄り……耳元で何かを囁きました。
すると、突然妻は何かに気づいたように顔を上げます。
あ、おはよ、朝よね。
急に奇妙なことを言い出した妻の瞳は、うつろで、何も映してはいません。
うん、うん、顔を洗わなきゃね。
そう言いながら、妻は……煮えたぎるてんぷら油の中に、両手を突っ込んだのです!!
響き渡る、油の踊る音。
妻は、うっと小さい声を上げたものの、すぐに、うん、顔を洗わないとね、と繰り返し……その真っ赤に焼けただれた手で油を掬いあげ、顔に……!!!
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見つかった時には、顔と手が貼りついてしまっていたと言います。
ノイローゼか何かかと周囲は噂しましたが……男は、それがそんなモノではないことを予感していました。
それでも務めて普段通り振舞おうとする男ですが……突然の母親の死に、息子はすっかり元気を失ってしまいます。
不安を胸に抱えながら、車を走らせる男。
すると……
今度は、高速で走行する車のボンネットに……這いあがってきたのです。
あの、女が!!
男は、自首なんかできるか、息子はどうなるんだ、もう二人きりの家族なんだぞと!と絶叫!!
瞬間、再びあの女は姿を消しました。
……が。
妻と同じように……今度は、息子に惨たらしい死が与えられてしまっていたのでした。

息子が学校で転落死したという一報を聞いた男。
男の胸にふつふつと煮えたぎるのは、女への怒りでした。
これで俺に家族はいなくなった、何の問題もなく自首できるってわけか。
ふざけんな!誰が自首なんかするか、亡者め!!
背後に立つ女に、振り返り様にそう怒鳴りつける男!!
すると、女はがっしりと男に腕を回し、縋りついてきたではありませんか!!
そして急に、会社の中にいたはずの男は、車が激しく行きかうシャドウの待った田中に立たされている状態になってしまったのです!!
女にしがみつかれた男は……身動きが取れず、車を避けることができません。
そして、車の運転手もなぜか男の姿が見えていないようで……
男はなすすべなく、大型トラックに轢かれ、吹っ飛ばされてしまいました。
地面に倒れこんだ男を、のぞき込むようにする女……
直後、こんどは男を大型のバスが轢いていきました!!
さらにまた別の車が男を……!!
腕がちぎれ、内臓が飛び出し、顎がもぎ取れ……
それでも、男の意識はなくならないのです。
止めてくれ、もう死なせてくれ……
男が幾度そう思っても……全身を襲う痛みは、繰り返し繰り返し訪れるのです。
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何度も、何度も、何度でも……


というわけで、因果応報とは言えど、それでもむごすぎる報いが与えられるお話を収録した今巻。
このおぞましい亡霊と、逃げられない恐ろしさはまさに高港先生の十八番!
心の底から嫌な気持ちになれる(褒め言葉ですよ!)逸品となっております!!
もちろんそのほかのお話も充実。
今回紹介したお話とすごく似た感じの道筋ではあるものの、その落ちが大きく変わっている「呪詛の道」。
おばあちゃんが決して触らせてくれなかった赤い着物にまつわる恐怖、「緋の衣」。
いつも遠くから眺めていた、洋館に住む女性の真実の姿に迫る「美少女」。
高港先生の他作品とは少しだけ毛色が違う、じわじわくる恐ろしさを描く「消失」……
そんな恐怖が11編収録されています!!
中身は実にバラエティ豊かで、逃げようのない理不尽な恐怖、ちょっといい話系のお話、人間がこわい系のお話などなど様々!!
高港先生作品には欠かせない(?)「わはは顔」も、表紙から中身までたっぷり入ってますよ!!
しかも巻頭の「二階建人間」は本書のための描き下ろし!!
カバーの裏から表紙の折り返しまで、どこをとっても恐怖イラストが堪能できるしようも相変わらずで、260Pを超える大ボリュームを最後の最後、隅から隅まで子我がれること間違いなしですよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!