sd0
今回紹介いたしますのはこちら。

「鈴木式電磁気的国土拡張機増補版」 粟岳高弘先生 

駒草出版さんより刊行です。

さて、独自の世界観を持つ作品を描き続ける粟岳先生の作品集となる今巻。
そもそも本作は、00年から05年にかけて粟岳先生が発表した作品をまとめた「鈴木式電磁気的国土拡張機」と言う単行本がもとでして、本作はその単行本に07年の作品を一遍と、本書のための描き下ろしを一遍加え、さらに修正も加えた完全版的な一冊になっているのです。
内容はと言いますと、粟岳先生のいつものアレ、少し昔の田舎で、女の子が変な生き物にあって変なlことをさせられるアレです。
そんな中今回は、「上内沢遷移点」を紹介したいと思います!!



少年が駆け付けたのは、道路からほんの少し外れた位置に広がっている草むらでした。
その草むらからは、幾筋かの白煙が上がっています。
その白煙が出た原因となったのは、それから降ってきた何か、です。
隕石かと思いながら駆け寄っていきますと、どうやらそれはカプセルのような物体、にみえます。
そしてそのカプセルからは、何やらどろりとした液体が漏れ出ていました。
その液体を踏んでしまった少年、いやにべとべとするそれに不快感を感じるのですが、そんな思いなどカプセルから次に出てきたものを見て吹っ飛んでしまいました。
出てきたのは……どろりとした液体にまみれた、スクール水着姿の少女だったのですから!!
その女の子は気を失っている様子。
何がなんだかわかりませんが、とにかく助けなければいけない!
sd1
そう考えた少年がおろおろしていると、突然背後から声をかけられました。
誰だ。
そう声をかけてきた主は……なにやら、古代の時のようなわけのわからない形をした頭を持つ、2足歩行の物体でした。
この物体は、プロキオンと呼ばれている生命体です。
決して「よく見かける」と言うレベルではないものの、この世界では既に存在が証明されている……平たく言えば、宇宙人です。
少年はおびえながら、昼寝をしていたら音がしたからなんだろうと思って見に来た、と正直に事情を話します。
するとプロキオンは、少年が関係ない人物で、プロキオン自体も初めて見るであろうことを察知。
直ちにこの場所を去り、ここで見たことは忘れろ、と少年に命令をしてくるのです、が。
その時、プロキオンははるか上空から何かが近づいてきていることに気が付いたのです。
舌打ちをしながら、プロキオンは少年に別の命令を始めます。
ここを撤収する、手伝え。
少年は、少女を病院へ連れていく方が先じゃないかと戸惑うのですが、プロキオンはそんなひまはないと却下し、少年の家がここから遠くないことを確認するとそこへ案内するように言いつけるのでした。

斥候が近づいている、急げ、とせっつかれながらたどり着いた少年の家。
べとべとの液体をどうにかこうにか拭い取り、ベッドの上に寝かせる少年。
プロキオンが言うには、その液体は「耐加速ゲル」なるもので、再突入時の酸素供給にも使われるものなんだそうです。
浜松沖の洋上遷移点から強行突入したものの、誤差が生じて着陸時の衝撃が大きくなってしまったとのこと。
……もちろんよく分からない少年ですが、そうこうしている間に少女が目を覚ましました。
少女は警戒心バリバリで、少年にここはどこだと尋ねてきます。
プロキオンは少女に落ち着くよう諭します。
彼は協力者だ、と勝手に少年を協力者認定し、今の状況の説明を始めました。
カプセルの装備はほぼすべて失われた、今は現地民を利用するのが得策だ、と。
何のことかはわかりませんが、そのほぼに含まれていないものの中に着替えもあったようで。
少年はいったん部屋を出て、少女の着替えを待つことにしたのでした。

部屋に戻ってみますと、少女は学校の制服を着ていました。
しかも何の因果か、その制服は少年の通っている学校と同じモノ!
プロキオンは、それは好都合と少年へ協力してほしい内容を説明します。
上内沢遷移点から複数の惑星改変構造体が侵入を始めている。
我々はその稼働を阻止するために派遣された。
改変ユニットと言うのはこの世界ではニュースにもなった物体で、1960年代に現れたユニットに対して核攻撃が敢行され、その着弾が間に合わなかったら世界中がスポンジの海に埋まっていた、というものだと広く知れ渡っています。
今残っている改変ユニットは、不発弾のようなものがほとんどだというのですが、今回は何らかの拍子で起動してしまったとのこと。
そこでプロキオンは、今回の改変ユニットの鍵を握る人型ユニットを探しているというのです。
そう言って見せてきた写真には、見覚えのある少女が映っていました。
先月転校してきたクラスメイト、早川弘菜です。
少年にはよく分かりませんが、その早川はもう行動を始めていて、ゆっくり交渉する時間はないとのこと。
そこで、少年に何とかして早川を指定した場所に、指定した時間に誘いだせないかと要求してきたのでした!

とりあえず、何とか早川の呼び出しには成功しました。
プロキオンは、なんだかよく分からない丸い物体を取り出し、これを使えば改変ユニットを無効化できると説明してくれました。
その横で、少女はいつの間にか寝間着に着替えて少年の布団で眠りはじめてしまいました。
無防備に寝言を言いながら眠る少女……
その姿に何だか興奮してしまいますが……プロキオンに変な気を起こすなよ、と釘を刺されてしまうのでした。

翌朝。
指定の場所に早川は来ていました。
ですが早川は少年を見るなり、いきなり胸に飛び込んできて、目を潤ませながらこういってくるのです。
sd2
助けて!ピロ気温から来たとかいい張ってるおかしな子から狙われてるの。
私が宇宙から来た侵略ユニットだとか言いふらしていて……
ほとんど交友関係のない女子とは言えど、体を密着させて頼られたら面と向かって敵とは思えないのは男子高校生としては無理のないこと。
戸惑っているうちに、我慢できなくなった少女は出てきてしまいました!
そこまでよ人型ユニット、今すぐ全ユニットを凍結して降伏しなさい!
そう言った瞬間、少女の足元から空間をゆがませる影のようなものがのびてきたではありませんか!!
驚く少年に対し、早川は口をいやらしく歪ませて笑いながら、言うのです。
何それ、人間のくせに我らのまねごとなんかして。
その瞬間、少女の背後から飛行物体が近づいてきたではありませんか!!
少女はその飛行物体につかみ上げられ、空高く持ち上げられ……!!
sd3
まさかこのまま少女は早川の軍門に下ってしまうのでしょうか?
そして、世界は昔の事件の再現を行い、スポンジの海に沈むような大事になってしまうのでしょうか……!?


というわけで、不思議なムードを持つ作品がたっぷり収録された本作。
今回紹介した作品は、何やら怪しげな行動をする敵対ユニットとの戦いが繰り広げられるわけですが、この作品は本作の中ではどちらかといえば異色な作品だったりします。
本作と言いますか、粟岳先生の作品といえば、謎の生命体のもたらす超科学と……あとがきでもおっしゃっているような、80年代の田舎を舞台にしたスク水とセーラー服とふんどし姿の女生徒なのですから!!
そのお約束(?)に漏れず、他の作品は大抵、少女が謎の生物の実権やら興味やらに巻き込まれ、不思議な体験をするというもの。
そんな基本形がある程度決まっている粟岳先生作品ながら、読めば読むほど惹きこまれている不思議な味わいで飽きさせないのです!!

成年向けの単行本も出したことのある粟岳先生だけに、女性キャラのスク水姿はもちろんのこと、すっぽんぽん姿も惜しげなく披露されています。
先生の中でしっかり構築されている感じが読者にも見て取れる本格的なSF要素に、これまた先生の中でしっかりと決まっている「趣味」が物凄く混ぜ混ぜされている……
そんな粟岳先生ワールドが今巻でもばっちり堪能できますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!