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今回紹介いたしますのはこちら。

「アイアムアヒーロー公式アンソロジーコミック 8TALES OF THE ZQN(エイト テイルズ オブ ザ ゾキュン)」 

小学館さんのビッグスピリッツコミックスより刊行です。

さて、累計600万部を超える大ヒット作となり、ついに16年4月には実写映画化を果たすこととなった「アイアムアヒーロー」。
本作は、そんなアイアムアヒーローの映画化記念として企画された、様々な漫画家さんによるアンソロジーコミックとなっています。
作家さんたちには「自由にやってくれ」と伝えていらっしゃるようで、その内容は本編のキャラクターの過去を描いた作品から、ZQN騒動に巻き込まれる別の人物を描いた作品、果ては「アイアムアヒーロー」に全く関係がないゾンビものまで多種多様!!
その作家さんのラインナップも実に豪華!!
現在の現役ホラー漫画家としてトップを走っているといってもいい「富江」の伊藤潤二先生をはじめとしまして、「それ街」を連載しながらも印象的な短編も数多く発表されている石黒正数先生、「花のズボラ飯」で大ブレイクしたうさく……もとい水沢悦子先生とビッグネームぞろい!!
そのほかにも、「クズの本懐」の横槍メンゴ先生や「富士山さんは思春期」のオジロマコト先生、すっかり漫画家の伝記漫画を描くイメージのついてしまった吉本浩二先生、現在三作品を同時連載中の鳥飼茜先生、「医龍」の乃木坂太郎先生と、誰を取っても超一線級ぞろい!!
非常に迷うところですが、そんな作品の中から今回は、やっぱり伊藤潤二先生の「シーイズアスローウォーカー」を紹介したいと思います!!


ある日のことです。
慎一は、同棲中の彼女、悠美と口論をしていました。
二人の語気は荒く、口論はかなり白熱していましたが、実はこれはいつものことだったりするのです。
なにせその口論の内容はこんなもの。
ゾンビは走ったほうが怖い!
いや、走るゾンビなんて邪道だ!!
……そう、二人は似た者同士。
ゾンビ映画好き同士のカップルというわけです。
が、残念ながらゾンビ好きの中でも派閥というのが存在しまして、この二人はそこのところがまっぷたつ。
慎一は最近の流行である、全力ダッシュで追いかけてくるゾンビこそが恐ろしいというダッシュ派。
悠美は逆に、ゾンビ映画の先駆け的存在、ロメロが作り上げたゆっくりと迫ってくるゾンビこそ至高というウォーク派。
どちらにもそれぞれの良さがあるのですが、逆に言えばそれぞれにも欠点があるということ。
お互いその欠点が気に入らない様で、今日もそこのところを突きあっては口論になっているのです。
動きののろいゾンビなんてどこが怖い?いくらでも逃げられるじゃないか、と怒鳴りつける慎一に、悠美も負けじと走るゾンビなんてあっという間に追いつかれて怖がる暇がない!と反論!!
ですが、続く慎一のロメロ流はもう時代遅れだ、今の主流は走るゾンビだと言葉には我慢がならなかったようです!
ロメロをバカにするなんて許せない!あなたとはもう一緒にいられない!と言い放ち、部屋を出ていってしまうのでした!!
……ここまでも割とよくあることなのでしょう。
ばつの悪そうな顔こそするものの、慎一は特に後を追うこともなく、彼女を見送ったのでした。
が、いつも通りだったのはここまで。
彼女はすぐに扉を開き、部屋に舞い戻ってきたのです。
しかも彼女の様子はちょっと普通ではありません。
毛全身から汗を拭きだし、荒い息のままドアをを力強く締め……そして、こう言ったのです。
変な人に、かまれた……!!
事態は呑み込めない……いや、呑み込めてはいるものの、信じられないのかもしれません。
背後のドアからは、どんどんと扉をたたく音と、奇妙なうめき声が聞こえてきます。
恐る恐るのぞき穴から外を眺めてみますと……
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やっぱりゾンビがいました!!
ゾンビだ!と思わずまんま叫んでしまう慎一でしたが、悠美は動きが早いからゾンビじゃない!と断固否定。
ですが窓から外の様子を見てみますと、次々にゾンビが人を襲い、感染していく地獄絵図が広がっているのですからもうこれはゾンビ以外の何物でもないじゃありませんか。
それを見て慎一は、ついにこの日が来やがった!と、ちょっぴり喜びも交じっている感じの声を上げるのでした!!

慎一はテレビのニュースを見ていました。
どうやらゾンビパニックは日本中に広がっている様子です。
ゾンビ映画マニアの慎一はそんな騒動を以上に落ち着いた様子で見ていたのですが、悠美はと言いますと、部屋の片隅でがっちり縛られ、さるぐつわまでされてしまっています。
許せ、念のためだ、感染していなければほどいてやる、きっと大丈夫さ。
慎一は悠美にそう語りながら、こんな日を想定しての準備万端ぶりをアピールし始めました。
食料はたっぷり備蓄してあるし、窓をふさぐ板もある。
最後に生き残るのはゾンビマニアだ!!
そして慎一は、たっぷり備蓄されているラーメンを作って食べ始めます。
悠美も食べるか?待ってろ、さるぐつわを外してやる、と彼女に近寄ろうとすると……彼女は、力なく体を横に倒してしまいました。
その目はうつろで、何も映しておりません。
ゾンビにかまれ、ウイルスによって死に至ってしまったのでしょうか……
慎一は万一のことを考えてか、彼女の拘束を解かないまま布団の上に寝かせ、その様子を撮影し始めました。
そして、守ってやれなくてごめん、と謝罪し、彼女の亡骸の横で添い寝をしたのでした。

が。
麻になって目を覚ましますと、悠美はさるぐつわがはまったままの口を大きく開け、慎一に今にも噛みつかんとしているではありませんか!!
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悲鳴をあげて逃げる慎一ですが……悠美は動きません。
いったい何があったのでしょうか。
撮影した動画を見返してみますと、驚愕の事実が判明したのです!!
なんと彼女、しっかりゾンビ化していました。
が、あまりにもスローモーなゾンビを崇拝していたためか……超スローで動くゾンビと化していたのです!!
……生前の行動をなぞるZQNのアレなのでしょうか……?
ともかく慎一は、彼女の行動をそのあとも観察することにしました。
数日たち、やはり彼女の動きはとんでもなく遅く、一晩で10センチほどしか動かないことを確認すると……大胆な行動に出始めます。
ゾンビ化しても相手は愛した女性。
おまけに慎一はゾンビ自体も愛していたわけですから……また彼女に添い寝しちゃうのです!!
しかも、拘束なしで!!
しかしそれはいくらなんでも油断しすぎというもの。
目を覚ますと
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今度は悠美の口が慎一の顔に触れる直前、といった状態になっていたのでした!!

それからどのくらいたったでしょうか。。
状況は悪くなる一方、ゾンビは増え続け、外に出ることも困難になってしまっています。
そして慎一が備蓄していた食料も、とうとう底をついてしまい……飢えが彼を苛み始めました。
その間悠美はどうしていたかと言いますと……その日も部屋に立っていました。
正確に言えば、超スローで慎一の肉をむさぼろうとしているのですが。
彼女の体には宇治がわき始め、生前の面影はもうほとんどありません。
慎一は弱った体を動かし、今まで座っていた部屋の隅から、逆の部屋の隅へと移動。
これで彼女の牙が彼に届くのは当分後になるわけですが……もう子の生活にも疲れ果ててしまいました。
飢えは限界を超え、もう動くことも困難に。
意識も飛ぶようになり、目を覚ますたびに彼女が徐々に近づいてきていることがわかっても、体を動かす気にもなりません。
そして、彼女の顔が再び自分の顔の間近に近づいてきます。
……慎一は、覚悟を決めました。
わかったよ悠美、お前の勝ちだ。
もう、耐えられないよ……
そう言って、慎一は……とんでもない行動に出たのです!!


というわけで、伊藤先生らしいユーモアを交えたゾンビ漫画を収録した本作。
この後迎えるオチは正直「これ描きたかっただけでは!?」と勘ぐってしまうような落ちですが……それはそれ、伊藤先生らしさともいえましょう!!
そこ以外も、ダッシュ派とウォーク派というゾンビ好きの派閥と、生前執着していたものに行動が影響されるというZQNの特質を利用した目の付け所も流石というほかなく、素晴らしくおぞましい描写とくだらない一発ネタという、伊藤先生の持ち味が存分に発揮された作品となっています!!

そして死が間近に迫った状況となればつきものなのは、「愛する人とどう過ごすか」という選択です。
わずかな希望に向かって立ち向かってみたり、逆に立てこもることにわずかな希望を持ってみたりと様々なるそれですが、この作品集にもやはり男女の関係を取り扱った作品が多く入っています!!
水沢先生の作品なんて、完全に原作の設定を踏まえているにもかかわらず、その内容は何て言いますか……男女のアレだけを取り扱うある意味での意欲作!!
ラブコメ的な作品が得意なオジロ先生がそう言ったテーマで描くのは当然と言ってもいいでしょうし、伊藤先生の作品もこのテーマといえばこのテーマです。
そしてほかにもそのテーマで描かれた作品もあるのですが……それはある作品の肝なのでぜひ皆様の目でご確認ください!!

今名前を上げられなかった横槍先生、石黒先生、鳥飼先生、乃木坂先生、吉本先生もそれぞれ違った、それぞれの先生方の、抒情的だったり、シニカルだったり、伝記的だったりと言った得意分野を生かしに生かした作品になっております。
花沢先生はあとがきと表紙だけの参加となっておりますし、アイアムアヒーロー要素が皆無な作品まであるため、そこのところは注意が必要かもしれませんが……
ラインナップされた各先生方のファンの方はもちろんのこと、各先生方をあまりご存じない方がどんな作風なのかを知るための一冊としてもお勧めできますよ!!
……もちろんゾンビものが苦手でなければ、の前提付きではありますが!!


今回はこんなところで!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!