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今回紹介いたしますのはこちら。

「累」第8巻 松浦だるま先生 

講談社さんのイブニングKCより刊行です。

さて、野菊の偽りの友情を信じ、偽りの協力関係を結んだ累。
新たな顔を手に入れ、演技も癖も変え、「咲朱」として再び役者人生を歩み始めました。
が、そこで舞い込んできたのは、ニナだったころ恋人関係であった雨野を相手役にした「マクベス」のマクベス夫人役。
しかもそれは、累の母であり稀代の大女優と言われた透世が最後に演じた役でもあり……


透世の過去をほとんど語らない羽生田。
ですがことマクベスのことに関しては口を開くのです。
マクベスの舞台に立った透世は、日ごとその演技力を高めていき、観客の喝采も浴び続ける絶頂期と言っていい活躍を見せていました。
マクベス夫人の夫への実直な愛と、悪魔にもなりうる残忍さと強さ、それに反して終盤に陰り心を病んでしまう大輪の花のようなはかなさ。
どれをとっても、まさかその役が最期の出演になるとは夢にも思わない素晴らしさだったと言い増す。
そんな彼女がどうしてマクベス夫人を最後に舞台を降りたのか?
その理由を羽生田は、透世が役者として優れすぎていたからだ、と考えます。
優れた演技によって、虚構は本物になる。
その果てに透世は、役に呑み込まれてしまった……
けいこ中から何やら様子がおかしかったとのことで、マクベス夫人のように何度も執拗に手を洗い続けていたり、まるで亡霊を見たマクベスのように虚空に向かって怒鳴りつけていたりしていたとか。
だからマクベスの後も……と羽生田はいいかけ、すぐに、役の心理に呑み込まれ舞台に立つころを望まなくなった、と言いなおしました。
その羽生田の言いかけた言葉もなのでしょうが、累は素直にそれを信じることができません。
「役に没頭しすぎる」と言うところはまだ理解もできます。
だからと言って、舞台に立つことを放棄するなんてあり得るだろうか?
もし自分が透世出会ったなら、どんなことがあってもこの虚構の世界を捨てることなんてできない。
自分は、ここでしか生きられないのだから……

マクベス本番を控え、稽古は続きます。
雨野のマクベスもさすがではありますが、やはり累のマクベス夫人はすさまじいレベルの演技。
稽古を続けるうちにそのレベルはさらに上がっていくのです。
さらに累は、かつて思いあった雨野とこうしてともに演技をできることを幸せに感じていました。
今は別人となった自分は、雨野と恋人ではありません。
ですが、舞台の上では恋人以上のつながりが感じられて……
今はただ毎日、明日の稽古、その明日の稽古……明日、また明日の訪れが待ち遠しいのです。

「明日、また明日、また明日と」「小刻みに一日一日が過ぎ去っていき」「定められた時の」最後の一行にたどり着く」。
マクベスの一節を呟いていたのは……野菊でした。
野菊は、舞台というものを嫌っています。
それと言うのも、こうして覚えてしまうほど父親に読まされてきたからです。
ですが、こうも考えるのです。
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累の最後の演目としては、上等だ、と。

野菊と顔を入れ替え、稽古に向かった累。
その日の稽古は、マクベスが亡霊を見ておびえるシーンでした。
宴の席で、自分が手にかけた男の亡霊を見て、震える。
そんな時、累のもとにも……現れたのです。
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自分のせいで命を失った彼女の幻が……!!
これが厄日没頭しすぎるということなのでしょうか。
ですが、累は演技を続けます。
ほかの者には見えない亡霊を指さしおびえる夫に、それはあなたの恐怖が生んだ絵だ、本当の恐怖はそんなものではない、恥ずかしいと思いなさい、と叱咤するマクベス夫人。
自らの口から発せられるそのマクベス夫人の言葉が、累自身を勇気づけてくれていたのです。
大丈夫、母と同じ道はたどるまい。
累は亡霊を振り切り、演技を続けるのですが……
その時、母とも一緒に仕事をしたことのある演出家、富士原がこう呟いていたのです。
彼女に似ているのは、容姿だけではないらしい、と。

稽古は、夢遊病を患うマクベス夫人の場面に来ていました。
抜群の演技力を誇る累、この場面でもいかんなくその力を発揮する、と思われたのですが……
何度も手を洗いながら、「消えてしまえ呪われたシミ」と言うマクベス夫人の演技が始まると、すぐに演出家の富士原からもう一回やり直せという指示が飛ぶのです。
それも一回ではなく、何度も、何度も……
やがて富士原はため息とともにこう言ったのです。
「マクベス夫人」というよりも、まるで「マクベス」だな。
何を恐れてるんだ君は。
もっと役に入りこめ。
なんだかは知らんが、
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たとえ見たくないものを見ることになってもな。


というわけで、母の遺作となったマクベスに挑む今巻。
野菊の容姿を手に入れ、卓越した演技力ばかりか、その見た目までもが生き写しの咲朱という新たな道を歩み始めた累。
かつて心を通わせた雨野にも感づかれることなく咲朱を作り上げ、母と同じ頂点に立つのも時間の問題かと思われていたときの「マクベス」出演……
そこで累は母と同じように、躓きを感じることになってしまうわけです。
累は母と同じこの状況を脱することができるのでしょうか……?

そして不安はまだまだ潜んでいます。
野菊の口ぶりからすると、彼女はおそらくこのマクベスの舞台で累との決着をつけようとしている様子。
どんなことをしようとしているのかはわかりません。
ですが野菊の中に渦巻くどす黒い感情のように、累の運命をめちゃくちゃにかき回すものであることは間違いないはず。
その決着の方法とは……?
さらに、予想外のところから降りかかる意外な危機も襲来。
累の心、野菊の思惑、思いもよらぬ影。
それらが集結する「マクベス」の舞台は、どんなものになるのか。
何かが起きないはずのないその時が待ち遠しいですね!!


今回はこんなところで!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!