sm0
今回紹介いたしますのはこちら。

「それでも町は廻っている」第15巻 石黒正数先生 

少年画報社さんのYKコミックスより刊行です。

さて、ちょっぴりあほな女子高生、歩鳥を中心に丸子商店街のにぎやかな日常を描いていく本作。
本作の一つの特徴として、エピソードごとの時系列をバラバラにして描いていくというものがあるのですが、今回はそんな中でもちょっとした(?)転機となるポイントのお話を紹介したいと思います!


とある女子大学では、合格発表が行われていました。
その合格者が記されている掲示板の前に集う多くの受験生の中で、妙な語呂合わせで当選番号を探す女の子が……
やがてその子は自分が読み上げていた番号を、掲示板の中に見つけると、思わず「あった!」と大きな声を上げてしまいました!!
その女の子……ほかならぬ歩鳥ではありませんか。
歩鳥が声を上げますと、見も知らぬ女性が飛んできて祝福してくれました。
歩鳥も彼女の厚意に答え、ギュッと抱き合って喜びを表します。
そんなことをやっておりますと、やっぱり場の空気というものがそうさせるのでしょうか。
彼女以外にも祝福してくれる人たちが続々と歩鳥の周りに集まってきまして、やがてその盛り上がりのままに胴上げにまで発展!!
最初こそ戸惑っていた歩鳥でしたが、みるみるうちのその顔には笑顔があふれていくのでした。

大学の門の外の植え込みの縁に腰かけ、飲み物を口にしているのは、紺先輩です。
そこへ、先ほどのくだりを終えた歩鳥がやってきました。
遅かったなと毒づく紺先輩に、知らない人に胴上げされてて……と素直に理由を説明する歩鳥。
ですがすぐ気を取り直し、受かってました!!と報告したのです。
……紺先輩が!
ところが紺先輩、そう、とまるで他人事のような態度を取るじゃありませんか。
受かると思ってたし、とそっけない態度で、改めて番号を確認することもなく立ち去って行くのでした。

帰りの電車内で、あの大学なら今の下宿から電車で通えますね、と話しかけてみる歩鳥なのですが、なぜだか紺先輩は終始元気のない感じ。
それでもポツリポツリと、第一志望落ちた時はつらかったけど、これでもう受験しなくていいし、でもまた新しい場所で新しいメンツで一からと言うとめんどくさいっつうか……と言ういつものひねくれた台詞をつぶやき始めました。
そして最後につぶやいた大学に行ったからって何になるのかな、と言うボヤキに歩鳥が食いつきます。
そんなの行ってみないとわからない、私も来年受けるから先に行って偵察しておいてくださいよ、とお願いするのですが……意外にも紺先輩から帰ってきたのは、バカ!!と言う叱咤でした。
お前はもっと上の大学を狙えるんだから、人に合わせてランク下げるなんて絶対やめろ!!
そんな紺先輩らしからぬ(?)至極まっとうなお叱りを受けてしまう歩鳥は、目をまん丸くして驚くのですが……

春休みとなりました。
歩鳥はいつものように、バイトのない日でもシーサイドにやってきてだらだらしていたのですが、その日出てきたのはいつもとは違うもの。
常連の八百屋の親父さんには、香水を温めて飲んでるみたいだ、と、歩鳥にはにおいつき消しゴム食ったみたいだ、という評価を受けたのですが、それを聞いたタッツンはうなだれまくり……
彼女のとっておきの逸品を出してみたようだったのですが、それに色よい反応を見せたのはあろうことかクリーニング屋の親父さんだけだったのでした……

そのあと、口直しにとコーヒーを飲み始めた歩鳥。
やはり私はコーヒーが好きだ、などと謎のコメントとともにコーヒーを楽しむ歩鳥ですが、そんな彼女の隣の席に座っているものにタッツンは気付きました。
それは……お米?
それは何だと尋ねてみれば、お母さんの実家から届いたお米を紺先輩にわけて上げに行く途中だった、とのこと。
それを聞いたタッツンから帰ってきたのは、意外なコメントでした。
……あれ?まだあのアパートに住んでるの?
春から両親と暮らすから引っ越すって聞いたけど。
sm1
思わずコーヒーを拭きだしてしまう歩鳥!
確か紺先輩のご両親は、お父さんの仕事の関係でイギリスに暮らしているはず。
ということは……!!
イギリスに行くってこと!?英語できんくせに?大学は!?
慌ててタッツンを問い詰める歩鳥ですが、タッツンも針原さんから聞いただけで細かいことは知らないとのこと。
そんなことよりもいま歩鳥が吐き出したコーヒーのしみのほうが一大事なタッツンはもうか待っていられません。
歩鳥は慌てて米を抱え、紺先輩のアパートへと向かいます。
これはあれだ、今までのパターンからすると、何か勘違いした情報が流れてるやつだ!!
そう自分に言い聞かせるように叫びながら……

紺先輩の部屋は変わり果てていました。
今までそれなりにおいてあった家具は何一つなく、代わりにあったのは……いくつかの大きな段ボール箱。
これはどう見ても、引っ越しの最中、というやつではありませんか。
思わず抱えていた米袋を落としてしまう歩鳥。
その痛みに思わず声を上げると、段ボール箱の向こう側から紺先輩がひょいと顔を出しました。
歩鳥は恐る恐る尋ねます。
引っ越すって、本当……?
紺先輩は、ばつが悪そうに打ち明けました。
お前んちにはあとであいさつ行こうと思ってたんだ。
なんか言うタイミングわかんなくて……
それだけ言うと、二人は何も言うことができず黙ってしまいます。
歩鳥はふと、部屋の片隅に乱雑に積み上げられているガラクタの山に気が付きます。
それがゴミだと聞くと、分別を手伝う、と段ボール越しに背中を向けて腰を下ろしました。
そしてそのまま何も言わず、お互いの作業を始めて……

いつものようにふざけあいもするのですが、やはり作業が進むにつれて別れも近づくわけで……
ずっとここに住んでてもよかったんだけど……もう決めちゃったし……また遊びに来るよ、そんな頻繁には無理になるけど、と胸の内を明かす紺先輩。
歩鳥はその言葉を聞いて胸からこみ上げてくるものを……気合で抑え込もうとします。
駄目だ、紺先輩がずっと悩んで決心したんだ、笑顔で送ってやれ!!
目にぐぐっと力を入れて涙をこらえる歩鳥だったのですが、そのあとの紺先輩の
sm2
お前のおかげで、わりと高校楽しかったよ、ありがとう、と言う言葉を前にしては無力でした。
涙を滝のように流しながらも、それでも、おう!と何でもないようにふるまうのです!

ひとしきり作業が終わった後、ようやく二人は立ち上がってお互いの顔を合わせました。
二人の目は真っ赤。
紺先輩のなに見てんだよ、と言ういつもの斜に構えた言葉に、歩鳥は先輩の顔だよ、と答え……
sm3
じゃあ、また、と、部屋を後にするのでした……

そして紺先輩の部屋の前に張られていた「紺伝助」と言う表札はなくなり……
紺先輩は、それっきりこの部屋に戻っては来なかったのです……
が。


というわけで、紺先輩が引っ越してしまうという衝撃的なエピソードを収録した今巻。
時折ほろりと来るお話も混ぜてくる本作ではありますが、今巻でもやってくれました!
時系列がばらばらの本作ですから、紺先輩とこれでお別れというわけではありませんが……今回の引っ越しの件は、歩鳥の言っていたようないつもの勘違いとは違うもので、まぎれもなく紺先輩はあのアパートから姿を消してしまうわけです!!
とはいえ、そんなしんみりさせるだけで終わる本作ではありません!
この後もまだこのエピソードは少しだけ続きまして……

そんなエピソードの他にも見逃せないエピソードが満載。
とうとう歩鳥たちが修学旅行に行っちゃったお話や、突如紺先輩の目の前に九官鳥が現れてちょっとした事件が起こるお話、ユキコにまさかの恋の兆しが見えるお話……
そして、少し前に登場した絵が趣味の先輩、涼が活躍するエピソードも複数掲載されておりまして、彼女が準レギュラーとして定着する兆しが……!?
そのあたりも注目の一冊となっているのです!


今回はこんなところで!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!