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今回紹介いたしますのはこちら。

「こども・おとな」 福島鉄平先生 

集英社さんのヤングジャンプコミックスより刊行です。

さて、前作「アマリリス」「スイミング」で再び注目を浴び始めた福島先生。
本作は短編集だった前2作とは違い、全6話の連載作品となっています。
ですが主人公や舞台こそ変わらないものの、物語的には主人公の少年の日常の一コマを切り取った、各話独立したお話となっているのですが……


子供たちが土曜日、午前中だけ学校に行っていた少し昔のお話です。
1年3組の教室で、一人の男の子が、クラスメイトの女の子にこう言いました。
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「バカ」。
女の子はしばらく固まった後……ぽろぽろと涙を流して泣き始めました。
クラス中の注目がそこに集まるものの、男の子は何で泣いているのか分からないという感じの表情できょとんとしているばかり。
そこに、色黒で大柄な子のクラスの担任の先生が姿を現し……この男の子を最初に印象深く思った当時のことを思いだしていました。

入学式があった日のこと。
男の子は、一人トイレでおしっこをしていました。
おもらししなくてよかった、と安堵しながら、教室にかけ戻り、自分の席へと戻った男の子。
ですがそこへ先生がずいと近寄ってきまして、こう言ったのです。
入学式の日だから大目に見るけどな、授業の時にトイレに行きたくなったら手を上げて「先生トイレに言っていいですか?」って聞くんだぞ。
「ションベンションベン!」って叫びながら、いきなり出ていくもんじゃねえ。
そう言われた男の子は、ふーんと気のない返事を漏らしました。
ですがそれは不満だったり、納得できなかったりという気持ちから出るものではなく、「知らなかった」という理解を意味するものだったのです。

そんなことを思い出しながら、先生は今なんでバカって言った?と男の子に問いかけました。
男の子は、こともなげに「どかないから」、と答えます。
そこでどかないとバカって言っていいのか、と先生がさらに尋ねますと、男の子はまた、こんな答えを返してくるのです。
「ダメなの?」。
出席番号一番、相田サトル、だな。
先生は、サトルの受け答えを聞いて……何かを考えたようですが……?

家に帰ったサトルは、テレビの前に腰かけながらお母さんにお弁当をお願いしていました。
明日は土曜日で午前中で学校が終わるはずですが、なんでも作文の書き直しをさせられるからお弁当がいる、のだそうです。
いきなり言われるとおかずが困るわね、などとお母さんが漏らしている反面、サトルはそんな苦労もしらず、テレビを見つめたままピーマンいれないで、と指定する始末……
そんなサトルに、突然ぶしつけに
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オイ、そこどけ、バカ、と言い放って、悟を押しのける男が現れました。
サトルのお兄さんです。
お兄さんはサトルを押しのけてテレビの前に座るのですが、そこでサトルは先生の言葉を思い出します。
どかなかったらバカって言っていいの?
そう先生に言われたままのことを尋ねるのですが、お兄さんはそっけなく、いいに決まってるだろバカ、と言い捨てるのです。
思いもよらない返答が返ってきたサトルは……お母さんにいいました。
おかず、ハンバーグがいい。

土曜日。
みんなさようならと先生にあいさつして帰っていく中、待ってろと言われてないからやめにしたんだろう、と判断したサトルはしれっと帰ろうとします。
が、先生にお前はまださよならじゃねえ、とやっぱりストップをかけられてしまいました。
誰もいない教室で、一人お弁当を食べるサトル。
ピーマンの肉詰めの中身の肉だけ食べてよしと頷いたりしているうちに食事は終わり、そのあと作文の書き直しが始まります。
作文の直しをしつつ、お弁当の話なんかを交えて少し空気を軽くした後、先生はいよいよ本題に入りました。
なんでおめえだけ居残りかわかるか?
突然尋ねられたその質問に、サトルは作文、と答えます。
確かにそれはその通り、でもそれは何でだ?と先生はさらに突っ込んで質問をしてきまして……
サトルは腕組みをして考え始めます。
なんで?
……わかんない。
じっとうつむいて考えるサトル。
先生はいったん外に出て花壇の様子なんかを見て彼の考えがまとまるのを待っています。
やがてサトルははっと気が付き、こう答えました。
バカ、って言ったから?
先生はそうじゃない、と答えます。
ですがそれはおそらく、サトルがその答えに自分でたどり着いたからこそ、そう答えたのでしょう。
先生はそのあと、こう続けたのです。
サトル、おめえはな。
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これからこのクラスのリーダーになるんだ。
おめえがみんなを引っ張ってくんだから、勉強とかあいさつとか、きちんとできねえとだめなんだぞ?
思ってもみなかった言葉を聞き、サトルの頬は紅潮します。
リーダー、みんなを引っ張る……ふーん……
カッコいい。


というわけで、サトルの成長を描いていく本作。
成長と言っても、一般的な漫画なんかで描かれる目覚ましい成長ではなく、日常生活の中で様々な人や場面と遭遇し、そこで生まれた気付き、を細やかな描写で表現。
お兄さんとのあれこれ、お父さんと過ごした一日、ちょっぴり変わったお友達とのやりとり、そしてお母さんの思い出……
それらが福島先生ならではの、味わい深い抒情的な筆で紡がれていくわけです!!
あとがきによれば先生自身の思い出を虚実取り混ぜて描いたという本作なのですが、そんな福島先生の様々な感情がつまっているさまを、ありありと感じ取れることでしょう!!
起伏ある感動的なドラマではなく、大きな起承転結も本作にはありません。
ですが最終話の情感たっぷりな締めもあり、読者の皆様の胸の中に大きな何かが残ること間違いなし!
思い出に浸りながら、穏やかな気持ちで楽しめる、必見の一冊に仕上がっていますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!