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今回紹介いたしますのはこちら。

「あげくの果てのカノン」第1巻 米代恭先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。

米代先生は12年に四季賞の佳作を受賞してデビューした新人の漫画家さんです。
その後アフタヌーンで読み切りを発表したり、ウェブ雑誌で連載するなど活躍されています。
そんな米代先生、今までの連載作では少し変わった形の愛情を描いてきたわけですが、今回もそれは変わらない様子。
ですがそこ以外で大きく違う部分があるようで……?


雨の降りしきる町の一角。
そこで、一人の男性に数名の女性が声をかけていました。
境宗介さんですか?
私たちファンなんです、握手してもらっていいですか?
そう語りかけてくる女性たちに、境はにこやかに応対します。
よく来るんですか?本部すぐそこですもんね、でも地下の人に地上(こっち)で会えるなんて意外です!
矢継ぎ早に投げかけられる言葉にも、笑顔を崩さず答える……のですがその最中、堺は顔を上げ、何かに気が付いたかのようににこりと笑うのです。
微笑んだ方向には、一人の女性がいました。
が、女性はそれに気が付くとそそくさと立ち去っていってしまい……

翌日。
その女性は、いつものようにカフェの仕事をしていました。
仕事先でも、話題はあの堺さんのことばかり。
雑誌でも丸々2ページ特集されている、と話を持ちかけてくる仕事仲間に対し、女性はあの常連さん、有名な人だったんだ、とまるで知らない「ふり」をします。
そんなやり取りをしていますと、店のドアが開き……堺本人が現れ、いきなりこう言いだすのです。
機能、無視したでしょ。
ひどいじゃん、傷ついちゃうな。
女性は慌てて視線をそらし、気が付かなくて、とごまかすのです。
そして仕事仲間が境さんだと盛り上がって声をかけ始めたすきに、そそくさと離れていってしまいます。
……彼女、高月は境を嫌っていたり、興味がなかったりするわけではありません。
むしろ……その逆。
部屋に戻れば彼女は、様々な雑誌などで取り上げられる彼の写真を切り抜き、スクラップブックに保存し、それを眺めてにやにやとする……
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そんな日常を過ごすほど、境に思いを寄せているのです。
しかも彼女の好意はそれだけでとどまりはしません。
先ほどのカフェでの、無視したでしょ、ひどいじゃん、という会話。
実は彼女、それをひそかに録音していました。
そしてそれを繰り返し聞き、かっこいい、かわいい、素敵、などとひたすら悶えているではありませんか!!
先輩、本当に素敵!
高月と、境が「再会」したのは、3か月前のことでした。
8年ぶりに、偶然店員と客、として再会したのですが……まあ偶然ではありません。
境の職場からカフェまでは徒歩数分、そして境が大の甘党であることを高月はよく知っていたのです。
本来「地下の人」が地上の店に来ることはあまりありません。
ですがそう言う差別をしない境ならば、と一抹の希望とともに仕事を続けていたところ……8年ぶりの、卒業式以来の再会となったのです。

8年前、高月は境に振られました。
ですが再会した彼はそんな気まずさを感じさせないほど明るく、気さくに話しかけてくれました。
そんな境に、高月はどうしようもない胸の高鳴りを感じてしまい……
どうかこの気持ちがばれませんように。
そう祈りながら、かつてあこがれ、愛を告白した境の近くにいられる幸せをかみしめるのでした。

境相手の接客中、あることに気が付きました、
今までさんざん見つめ続けてきていたのに、気が付かなかった……右耳のほくろ。
その新鮮な発見にぼーっとしていたところを境に指摘されてしまい、会われた彼女は思わず境の誕生日が間もなくであることを口走ってしまいます。
またまた慌てて、弟の誕生日に近かったから何となく覚えてて……としどろもどろに言い訳を並べますと、境はおもむろにこんなことを言うのです。
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じゃあ祝ってよ。
いつもの微笑みをたたえながら、さらりとそう言って、そして帰っていく境。
しばらく固まっていた高槻ですが、実は彼の姿が見えなくなった後、倒れこむほど動揺してしまいました。
私が?祝える?先輩を?
あまりの感動に涙さえ流してしまう高月。
8年前に振られてしまって以降も、一途に傾け続けた想い。
境はその思いに、まさか応えてくれるのでしょうか……?

その日はやってきました。
高鳴る鼓動を精いっぱい抑えながら、席についた境のもとに向かう高月。
そして注文のケーキや紅茶と一緒に……顔を真っ赤にしながら、小さな小包を手渡したのです!
これ、あげます!
精一杯の高月の勇気とともに差し出されたプレゼントを受け取りはした境でしたが、境は今日は誕生日じゃないよ、と言うではありませんか。
彼の誕生日は確かに4日後。
ストーカーまがいの行為をしている高月が間違えるはずもないのですが、あえてこの日に渡したのにはもちろん理由があるわけで。
だって先輩、当日お忙しいでしょうからお店にも来ないだろうと思って、と顔を真っ赤にしながら高月はそう言うのですが、境はあの笑顔でこんなことを言いだしました。
高月さんを誘うつもりだったんだ。
だから当日、おめでとうって言って。
そのうれしくてたまらないはずの言葉を聞いた高月の口からついて出た言葉は、
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いや、だって、奥さん、と……
一緒に、過ごされるの、では……?
……結局、先輩はその問いには答えないまま、また連絡するからと去っていってしまいました。
天にも昇りそうなほどうれしいのは間違いないでしょう。
ですが、なぜ境が奥さんのことを話題にも出さずに、高月を誘ったのか?
その理由がわからず、高月の脳内はいっぱいになってしまうのです。
きっと奥さんと過ごせない理由があるんだろう、暇そうな私に声をかけただけ、たまたま私をかまってくれているだけなんだから思いあがるなんて恥ずかしい。
当たり前だよ、本命は奥さんで、自分はその代用、それだって十分ありがたいじゃないか。
そうですよね、先輩。
……混乱する頭の整理も終わらないまま、境を見送る高月。
……その境の右耳には、先日見つけたほくろが、跡形もなくなっていて……?


というわけで、高月と境の奇妙な関係を描いていく本作。
一見普通の、ちょっと変わったイケメンと、そのイケメンに恋い焦がれ続けてちょっと変わった女性の不倫もの……のようにも見えてしまうないようなのですが、実際はそんな簡単な(?)お話ではありません!!
紹介した部分からも、いくつかの奇妙な要素があることがわかるのではないでしょうか。
雨が降り続く街、地下の人、そして境の消えたほくろ。
この後この世界の異常な実態が明かされ、物語がとんでもない謎を含んでいることがわかるのです!!
境はなぜ有名になっているのか?
地下の人の意味は?
雨が降り続いている理由とは……
物語が進むにつれ、高月と境をめぐる境遇の複雑さが明かされていきます。
ですがその異常な世界の中でも、あくまで中心になっているのは高月の気持ちの動きと、境の不可解な行動と私生活。
この後一体二人はどうなっていくのか、世界を取り巻く環境は?
ショッキングで予測できない展開が連続する本作ですが、この先からも目が離せないことだけは間違いなさそうです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!