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今回紹介いたしますのはこちら。

「正義の殺人鬼」第1巻 鈴木優太先生 

秋田書店さんの少年チャンピオン・コミックスより刊行です。

鈴木先生は14年に週刊少年チャンピオンの漫画賞で佳作を受賞してデビューした新人の漫画家さんです。
デビュー後読み切りを連続して発表したのち、16年より本作の連載を開始。
無事単行本発売となりました。

本作はサスペンス色の強い作品です。
人死にや血しぶきが飛び散るような描写が多くあるものの、それよりも印象的なのは独特の世界観でしょう。
その内容はと言いますと……


梅美がふと正気を取り戻しますと、見慣れない場所にいました。
ぼーっとしていたせいなのか、何か白日夢を見ていたせいなのか、記憶がはっきりしませんが、どうやら梅美は友人の竹、サァコ、きゅーの4人で学校のすぐ近くにある廃工場に来ていたようです。
この廃工場は危険とのことで、くそ真面目な委員長キャラであるはずの、普段の梅美ならば絶対に来ることはないはずないのですが、友人の話によれば乗り気でここまで来たのだと言います。
正気に戻った梅美はやはり帰るべきだというのですが、竹から「友達だから言うけど、そんなにまじめすぎると友達をなくすよ」と言われて思いなおすことに。
今回だけだから、と同行することにしたのでした。

ほどなくして、この廃工場探索に梅美たちを誘ってきた人物が現れます。
面白いものを見せてやるから、と一同を誘った工藤田と、梅美の幼馴染でもあるまるおです。
早速きゅーが面白いものって何ですかと工藤田に尋ねるのですが、実は工藤田も別の人物に誘われただけで、詳しくは知らない様子。
そしてそのあとすぐ、その工藤田を誘った男が現れるのでした。
その人物は、工藤田の中学の先輩だという、見るからに不良だという外見の寺田と、その仲間らしいわっさんとポンさん。
当然こう言ったメンツと梅美の相性は最悪で、煙草をふかそうとする寺田を注意して一触即発の状況になってしまいました。
が、そこはまるおが止めてくれて何とか収まり……ようやくこの廃工場で何が見られるのかが明かされるのです。
寺田は一言、こう言います。
「下だ」。
寺田の話によりますと、この廃工場のエレベーターは地下深く、いわゆる地下世界につながっているのだ、とか。
ですがこんな今にも崩れそうな廃工場の、古ぼけたエレベーターが地下世界に通じている、と言われても全くピンときません。
そもそも動くのかすら怪しいほどのボロボロさなのですが……まるおは気が付くのです。
エレベーターの中から、かすかに駆動音が響いているのに!
本当に動いているさまを見ると、寺田の話も現実味を帯びてきた、ような気もします。
彼らは月に一度この時間に誰かがエレベーターを使っている、と言う噂をもとにこの場所にやってきたようで……
地下世界が本当かどうかはわかりませんが、とにかくこのエレベーターに乗っている人物に尋ねれば何かがわかることは間違いないでしょう。
しかし梅美はなぜかそのエレベーターに不安を感じてしまいます。
友人たちには、ここは入ってはいけない場所なんだし、見つかったら怒られるだろうから帰ろう、と促すのですが、今度はきゅーがどうしてもどんな人が下からくるのか気になる、と動かなくなってしまいました。
興味を持ってしまうと、それが解消されるまでてこでも動かなくなってしまう彼女。
ああなっては、もう梅美たちも付き合うしかなさそうです。

さんざん舞った挙句、ようやくエレベーターは到着しました。
ゆっくりと扉が開き、出てきたのは黒いスーツに、メガネをかけた、真面目な恰好とは裏腹にチャラそうな髪形をした男でした。
彼は梅美を見た後わずかに表情を変えた気がしますが……すぐに君たちは誰だ?と尋ねてきます。
逆にお兄さんは誰ですか、と竹が尋ね返しますと、男は地質調査会社の者で、この辺の土を調べている、と教えてくれました。
さらにエレベーターの噂についても聞いてみるのですが、実にあっさりそうだと認めました。
上から言われて来ているだけでなぜこんなところにこんなものがあるのかなどは詳しく知らない、とも。
そして、地下に興味津々なきゅーや工藤田たちに対し、
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じゃあ行ってみるかい?と誘ってきたではありませんか!!
願ってもないチャンスだとよろこぶわっさんやポンさん、一同はぞろぞろとエレベーターに乗り込むのですが、梅美はどうしても不安がぬぐいきれません。
何が起きるかわからないから帰ろう、と必死にみんなを誘うのですが、スーツの男はしょっちゅう行き来してるけど危険なことなんてなんもないよ、と笑います。
梅美はそれを聞いた瞬間、得体のしれない頭痛に襲われ……さらに不安を募らせるのですが……まるおはお調子者や好奇心旺盛な友人たちをほっとけない、とか言い出すくそ真面目な女を知ってるから行かざるを得ない、と答えるのです。
……たしかに友人たちを放って帰れるような性格はしていない梅美。
しぶしぶ中に入ると、すぐに出発……しようと言う瞬間に、また新たな女生徒が現れ、自分の連れてってくださいと言ってきたのです。
断る理由もなく、同乗を許すと、扉は締まり、エレベーターは動きだしました。
扉が閉まる瞬間、どこからともなく「いっちゃだめだ」と言う声が聞こえたような気もしましたが……
もう、すべては手遅れだったのです……

エレベーターが動きだした後、スーツの男の奇妙な点に気が付いた竹。
片道30分かかるというエレベーターにわざわざ乗ってきたスーツの男は、なぜ何もしないですぐみんなを誘って地下に戻ってくれたんだ?と。
素直にその件を尋ねてみますと……スーツの男は答えに詰まり、懐から何か紙を取り出して、荷物を取りに戻ったというのか、ミスった、でもまだごまかせるか?などとつぶやき始めます。
その紙……「マニュアル」だと言います。
そこには、誰かと聞かれたら民間の調査会社だと答える、下の状況を問われたら自分たちで確かめるよう誘導する、などと書かれていました。
そのマニュアルの内容を知った梅美たちは、あぜんとするばかり。
そこでスーツの男は口を開きます。
オレ、嘘ついてた。
この中に一人、殺人鬼が乗ってるから。
……突然の衝撃の告白に、一同の頭の中は疑問符だらけ。
ひとりひとり指し、お前は違う、お前は違う……と疑いのあるものを残していき、最後に残ったのは何と、サァコでした。
が、スーツの男はそいつも違う、と言うのです。
全員違うじゃないか、と思わず突っ込みますと、そこで男はカミングアウトするのです。
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オレオレ、オレオレオレ。
オレが殺人鬼。
いやらしい顔でニヤニヤ笑いながらそう言う男に、突然寺田が突っかかっていきました。
弟の話は本当なんだろうな、誰でもいいから5人以上ここに連れてくれば弟の居場所を教える約束だろう!!
そう言って男に食い下がっていく寺田。
男は、寺田の話を受け流しながらおもむろに荷物を探り始め……ボクシンググローブを取り出して右腕にはめました。
俺はこいつにロビンって名前をつけてる、と男が笑ったところで、寺田はとうとうぶち切れてしまいました。
いい加減にしろよてめえ!と男にとびかかった瞬間
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ロビンが寺田の顔面をふっとばしたのです!!!
寺田の顔面はもう「どこかに行ってしまった」と言うくらいぐちゃぐちゃになっており……到底生きているとは思えません。
男は本当に、殺人鬼のようです。
一同は戦慄します。
男の狂気に、友の死に、そして……途中で止まることはないというこのエレベーターの中で、残り30分近く殺人鬼と一緒にいなければならないという事実に!!
果たして梅美たちはこの絶望の状況の中、生きのびることはできるのでしょうか?
そしてこの殺人鬼が招き入れた「下」とは一体……!?


というわけで、幕を開けた奇妙な物語。
導入部分から不可解な場面が続く本作、全く予測のできない展開がこの後も続いていきます!!
エレベーターの中での殺人鬼とのやり取りはまだ本作の本の始まりにしかすぎません。
廃工場のエレベーターから続いているのは、悪夢がそのまま形を成したような世界。
そこで待ち構えているのもまた、悪夢のような存在なのです!

奇妙な物語、と言うほかない本作、何が現実で何が現実でないのか、まだ一切わかりません。
この地下が何なのか、殺人鬼を自称する男の正体は何なのか、梅美の感じた奇妙な感覚は何なのか?
様々な事象は、一つの結論に行きつくのか、はたまたはまる部分のない思わせぶりなパズルのピースにすぎないのか?
そしてそれが明かされるのがまだまだ先なのか、すがなのかすら!!
ただ「死」がすぐそこに存在するということだけは確実。
この死の悪夢から解放されるときはやってくるのか?
これから先も目が離せません!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!