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今回紹介いたしますのはこちら。

「ホラーアンソロジーcomic 死角」

ぶんか社さんのぶんか社コミックスより刊行です。




さて、本作はかつて「ホラーM」と言うホラー専門誌を刊行していた、ぶんか社さんが刊行するホラーアンソロジーです。
そのホラー畑に強いという特徴を生かし、本作では実に様々なホラー漫画家さんの作品を集めておられます。
そのラインナップは実に豪華そのもの!
現役ホラー漫画家でトップと言ってもいいであろう伊藤潤二先生と筆頭に、大御所の高橋葉介先生、一時代を築いた大ベテランの犬木加奈子先生、残酷でおどろおどろしくそれでいて物悲しい漫画を長年描き続けている大物の日野日出志先生、確かな画力と独創的なアイディアで活躍を続ける呪みちる先生、独特の世界観が魅力的な長田ノオト先生、とどれをとっても超一流!!
そんな中で今回紹介したいのは、成年向け漫画でも(現在は原作の方とのタッグによる別名義メインで)活躍されている、雨がっぱ少女群先生が描く「文学青年」。
雨先生の美しい筆致で描かれる恐怖とは……!?


片田舎に立つ、小さな図書館。
その図書館に、直美は勤務していました。
その日は平日と言うこともあり、利用者はゼロ。
もう一人の担当者であるおばちゃんとたまに会話する以外は取り立ててやることもなく、穏やかな時間が流れていました。
平日の昼間の利用者は少なく、この時間に来館者がいないという状態は珍しくありません。
そして、その時に決まって現れる「もの」がいるのです。
本棚と本棚の合間にいつの間にか立っている、男。

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誰かが入ってきたということはあり得ないのにいつの間にか本棚の向こうに立っているそれを、図書館の人たちは「文学青年」と呼んでいます。
前任者のころから現れるらしいそれは、もう50年以上この図書館に存在しているようで。
何も言葉を発することなく、ずっと本をめくっているだけで害はないから、とおばちゃんは気にしないことにしています。
ですがまだここに努めてからそれほど長いわけではない直美にとっては、文学青年がどうしても気になる存在で。
背格好からすると高校生か?どこの制服だろう?
そんなことを考えながら、本棚の隙間から見えるそれの本のページを丁寧にめくる手を眺めるのです。
色白でほっそりとした指先は、病弱で繊細そうな印象をうけて……
それを見ているうちに、怖いという感情よりも、その存在に惹かれる感情が勝ってしまう直美。
どうしても彼の顔が見たい、とそーっと近寄って彼の顔を覗き込もうとしました。
が、いざ本棚の向こう側に回り込みますと、


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その瞬間彼の姿は消えてしまいます。
残っているのは、その場に落ちて残った彼の読んでいた本だけ。

そんな彼女の行動を見ていたおばちゃんは、笑ってこう言うのです。

無理無理、あたしも顔を見てやろうと何度も試したけど、棚の向こうに回るとあっという間に消えちゃうんだわ。

まあ本好きの青年なんて押しなべて地味で内気だからね。

きっと眼鏡でニキビ面の冴えない子だよ。

言いたいことだけ言って、おばちゃんは奥に引っ込んで別の仕事を始めてしまいます。

残されたのは直美と……文学青年の残していった一冊の本だけでした。


家に帰れば、母親からお見合いなどを勧められる直美。

ですが、どうにも食指が動きません。

いくら職業や経歴なんかが優れていても、そう言う人はたいてい直美の沖にはめさない顔をしております。

何より気になってしまうのが、その男性の「手」です。

年を重ねた男性特有のどっしりとした、毛まで生えている手……

それを見ると、どうしても脳裏によぎってしまうのが、文学青年のたおやかで美しい手です。

彼の残していった本を、直美は持って帰ってきていました。

この本、好きなのよね。

そんなことを考え、彼女はその本を枕元においてまどろむのでした。


翌日。

またおばちゃんが奥に引っ込んでしまい、一人きりになった直美。

すると、またいつの間にか文学青年の姿が現れました。

彼女は思い切って、彼に話しかけてみることにします。

いつも来てますね、本、お好きなんですか?

……文学青年からの反応はありません。

ほんの一メートルほどしか離れていないというのに、全く反応を見せない彼が、直美はどうしても気になってしまっていました。

今だ顔の見えない、美しい手を持った文学青年に、憧れか、あるいは思慕の思いを抱き始めていたのかもしれません。

中原中也、萩原朔太郎、中勘助……繊細な顔立ちの作家ばかりが彼女の脳裏によぎります。

棚の向こう側に回れば、彼はたちどころにその姿を消してしまう。

それならば、向こう側に回らなければいいのではないか?

そう考えた直美は、文学青年の顔のを隠しているあたりの本を次々と手に取り、遮るものを無くすという作戦に出たのでした!!

文学青年の顔が、この先に!

期待に胸を躍らせた直美の目の前に、待ち望んだ彼の顔が現れます。

ですが目の前に現れた顔は、直美の思い描いていたものとはあまりにもかけ離れすぎているものだったのです!!

彼には

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目も、鼻も存在しませんでした。

あるのは、いくつも空いた不気味な穴の列と、乱杭歯が並ぶぽっかりと開いた口……!!

思わず絶叫してしまう直美ですが、その叫び声が誰かに届くことはありません。

文学青年は、開いた棚の隙間からにゅっと手を伸ばし、そして……!!



というわけで、静かな立ち上がりから、驚愕のインパクトが襲い掛かってくるエピソードを収録した本作。

この驚愕の正体が明かされた後、さらにもう一回恐ろしい驚きで物語は終わりを迎えます!!

雨先生の本領ともいえる美形の女性で油断させておいて(?)、文学青年が牙を剥くこの作品の破壊力は、オチも含めて抜群!!

恐怖も萌えも一気に楽しめる出色の作品となっております!!


もちろんその他の作品も見逃せません。

白雪姫をモチーフにした、タイトルもズバリの伊藤潤二先生の「白雪姫」は、白雪姫の大筋に沿いながらも伊藤先生ならではのおぞましさと美しさ、そしてユーモアがちりばめられた作品です。

高橋葉介先生の「プロローグで終わる物語」は、ホラー風味ではあるものの一発ネタのコメディ作品で、もう一本の「”むじな”はじめました」は古典的作品を下敷きにした見た目のインパクト重視のホラー作品。

呪みちる先生は先生らしい奇妙なアイテムから恐怖が広がっていく安心の恐怖を体験できる内容に。

犬木加奈子先生の作品は奇妙な世界観に引き込まれて行くうちに迎えるオチにうならされること間違いなしですし、日野日出志先生の作品はおどろおどろしく血なまぐさいながらも「親の愛」をテーマにした複雑な読後感が楽しめることでしょう。

そんな数々の形の違う恐怖がお腹いっぱい楽しめる、ホラーファン必携の一冊になっているのです!!



今回はこんなところで!

さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!