wk0
今回紹介いたしますのはこちら。

「笑う吸血鬼」 丸尾末広先生 

エンターブレインさんのビームコミックスより刊行です。



さて、16年現在も「トミノの地獄」を連載し、独自の世界を走り続けている丸尾先生。
本作はそんな丸尾先生が、98年から03年にかけてヤングチャンピオンにて不定期に連載されていた作品です。
そんな本作を今回、先日異紹介させていただいた「風の魔転郎」と同時に復刊!!
内容は、舞台こそ現代日本ではあるものの、丸尾先生のお家芸であるインモラルなムード漂うもので……


その昔、この国にもあった地獄のような時代。
そこでは、力なきものは容赦なく打ちすえられ、奪われ、私刑を受けて命を奪われるものも少なくありません。
彼女はそんな地獄で、死体あさりをして命をつないでいました。
ですがあるとき、その現場を人々に見られてしまいます。
死体の服をはぎ取るなんて、羅生門の鬼婆か。
人々は次々に彼女へ罵る言葉を投げかけ、そして彼女の顔を隠していたほっかむりをはぎ取りました。
すると中から出てきたのは、髪は薄く、目はぎょろりと巨大で、口は大きく避けたかのように大きな……見るも醜い女の顔だったのです!
本物の鬼だ、鬼婆だ、とさらに騒ぎ立てた人々は、不吉だとして彼女を痛めつけ、ついに首をくくって木につってしまったのです!!
彼女の意識は、鬼は本当にいたという声を聞きながら薄れていったのです……

が。
どういうことか彼女の体は一向に腐ることなく、やがて埋葬された土の中から這いだしてきたのです!
彼女の中に沸き上がったのは、強い渇き。
その乾きが求めるのは……人間の血液です!!
自分がなぜそんなものを求めているのかはわかりません。
ですが、そんな中で唯一確信できることがありました。
私はもはや、人間ではない。


そんな昔話を、学生服の少年に語っていたのは、ガード下で売らない屋を営んでいる奇妙な女性、通称駱駝女でした。
少年、毛利はその話をなぜか信じ、どうして死んだ時の姿のままで生き続けられるんだ、と駱駝女に問いかけたのです。
駱駝女は、それをこれから教えよう、と手を伸ばしてきます。
戸惑う毛利が彼女のもとへ顔を寄せていくと、突然彼女は立ち上がり、私の真実をお前の体で知るがいい!と叫びました!!
そしてナイフを取り出したかと思うと、その刃を自らの舌につきたてたではないですか!!
どくどくと流れ落ちる鮮血!!
そして駱駝女はがっしりと毛利の頭をつかみ、そのしたたり落ちる血を口の中に注いできたではありませんか!!
駱駝女は、占い師の仕事をしながら探していたのです。
「素質」のありそうな人物を……!
そして毛利を見初めたのです。
この子はきっと私を助けてくれる。
だからすべてを話し、血を与えた!!
気が付けば毛利は、空中を飛び回るような感覚を覚えます。
それが現実に起きていることなのか、錯覚なのかはわかりません。
ですがこれだけは確かなことです。
ホホホ、と高笑いする駱駝女。
彼女はこう言いました。
何を恐れる、人間どもを眼下に見下ろし、超越して生きられるのに!!


屋久中学校。
毛利の通うこの学校で、宮脇留奈と言う少女は悩んでいました。
一応所属している女子グループがあるのですが、彼女たちの話題は目下お小遣いを手に入れる方法です。
下着を買ってくれるおじさんがいる、あの部分の毛は一万は固い……
そんな彼女たちの誘いは、留奈に取って嫌悪感しか催しません。
なんとかそれを表情に出さず、私は行かないとお茶を濁す留奈。
グループのみんなはみんなお小遣い稼ぎに向かった、かに見えたのですが、知美と言う少女だけは「ボランティア」があるから、と残っていました。
そして、彼女は内申書よくなるし、一緒に逝かないかとルナを誘ってきて……

翌日、留奈はボランティアに同行することにしました。
どうやら独居の要介護のおじいさんのお世話をしてあげる、と言う内容だ、と留奈は思ったのですが、実際はそれだけではないようです。
知美はお風呂の中で、おじいさんの求める「要求」……「「にこたえてあげていたのです!!
留奈はもう、限界を迎えようとしていました。
彼女の中に蘇る、幼い日の心的外傷……
神社の森の中で、欲望をむき出しにした男に迫られ、恐ろしく悍ましい目にあわされ、絶叫して逃げ出したあの日の記憶を……

その忌まわしい記憶は、苛立ちを自身の姉にも向けるきっかけとなってしまいます。
留奈の姉は、18歳にして結婚し、子供を身ごもっていました。
まだ十八歳だというのに子供を作る、と言う行動は、男性や男性との行為に激しい嫌悪感を持つ彼女にとっては到底理解できるものではありません。
お姉ちゃんまだ18でしょ、それなのに……
この吸血鬼!!
そう言って留奈は姉の大きくなった腹を殴りつけ、部屋に引きこもってしまうのです!
ああいやだ、汚い!
みんな吸血鬼よ!!
wk1
留奈の心は、確実にその心を蝕まれていて……


近頃のこの街では、放火事件が相次いでいました。
犯人は……屋久中学校に通う少年、辺見です。
彼は夜な夜な犯行を繰り返してはフラストレーションを晴らしていたのですが……
彼がまたも火を放ったある夜に、事件は起きてしまいました。
夜の街を彼氏とともに歩いていた知美。
彼氏は火事を見に行こうぜ、と駆け出していくのですが、知美にそんな趣味はなく、バカじゃないのか、もう遅いから帰る、と言い残してさっさと立ち去ろうとしていました。
が、そこに上空から毛利が現れ、
wk2
知美の首元をナイフで切り裂き、傷口に食らいついたのです!!
知美は失禁し……絶命。
その奇妙で残忍な行動を働いた毛利の中には、今まで感じたことのない感覚がひらめきます。
wk3
おや、何だろうこの光は?
頭の中で花が咲くような感じ……
その甘美な快楽に浸る毛利を見て、駱駝女は再び高笑い。
切り口が大きすぎるよ、ごらんこんなにこぼして。
それでも、初めてにしちゃ上出来だよ。
……こうして、毛利は踏みだしてしまったのです。
呪われた運命……吸血鬼としての、甘美な絶望の世界へ……


というわけで、丸尾先生の描く吸血鬼譚となる本作。
本作でも、丸尾先生ならではともいえる、あのタブーを冒す快楽の感覚がふんだんに盛り込まれている内容になっております。
とかく物語では、恐ろしいながらも美しい存在として描かれることの多い吸血鬼ですが、本作で主人公をその道へと導く駱駝女は全く正反対の存在として描写されております!
見た目も、そしてその性格もおぞましい駱駝女は、何を求めて毛利を仲間へと引き込んだのでしょうか。
そして毛利は、駱駝女の導くままに吸血鬼としての道を歩んでいくのでしょうか……?
そんな彼の運命のらせんの中に巻き込まれていくのが留奈です。
男性に、そしてそんな男性にすり寄る女性にも強い嫌悪感を抱く彼女は、この後さらに過酷な運命をたどることとなります。
その運命の先に待っているのは、やはり……!
毛利と留奈、二人の暗いくらい道程。
怪しげに美しく描かれるその足跡を見逃す手はありませんよ!!

同時に2巻が刊行されたこの新装版ですが、第1巻、第2巻でそれぞれ一つの章として分かれている攻勢になっております。
どちらか片方ずつでも、やはり合わせて楽しみたいところ!!
丸尾先生の作品の中でもドギツイ表現がやや薄い本作、丸尾先生作品の入門書としてもよろしいかもしれません!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!