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今回紹介いたしますのはこちら。

「ネルとヨル」 施川ユウキ先生 

秋田書店さんのヤングチャンピオン・コミックスより刊行です。


さて、デビュー以来隙間なく作品を発表し続けてきている施川先生の最新作である本作。
当初の不条理系4コマと言う方向だけでなく、ほっこりする感動系のお話や、もの悲しさのような後味を残す作品、さらには原作者として頭脳バトル系の作品までも手掛けられている施川先生ですが、本作は主役2人の会話を中心に据えた4コマ漫画となっています。
4コマでありながらもお話に流れもしっかりとある、「オンノジ」に近い感じの構成になっています。
それこそ「オンノジ」のような、大胆な設定も用意されているその内容はこんな感じです!


二人の少年が、あたりの様子をうかがいながら机の上のミルクティーを飲んでいました。
帽子をかぶった気弱そうな少年のネルは、もう一人の少年ネルに、早く代わって、部屋主がそろそろトイレから戻ってきそうだから、と声をかけています。
ヨルはと言いますと、カップの中に入ったミルクティーに文字通り顔を突っ込んで、もうぬるくなってるなこれと言いながらすすっております。
すると突然、ヨルはガバッと液面から顔を出し、でろでろの顔面を見せつけながら顔が溶けた!!と叫んだではありませんか!!
もちろんそれは本当に顔が溶けたわけではありませんで、温めた牛乳などの表面にできるあの膜が顔に張り付いただけ。
ネルをびっくりさせようと、ヨルがひと芝居うったのです。
本当に顔が溶けたわけではないことに安堵したネルが、今度はミルクティーを飲む番です。
取っ手のほうに足をかけ、ヨルと同じようにのぞき込むような体勢から顔を入れようとするネルなのですが……ここで彼は言ってはならない人ことをヨルに言ってしまいます。
絶対押さないでよ、ヨル。
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……その後、全身膜まみれででろっでろになったネルに、ヨルは追いかけまわされることになるのでした!

部屋の主の目を盗み、あれこれとくつろぐうちに夜になりました。

ベッドの下の奥の死角で、手袋を布団代わりに床に就く二人。
あっという間に睡魔は襲い掛かり……目を覚ますと、すでに部屋の主はおきだしてテレビを見ています。
すると流れているテレビのニュースから、気になる言葉が聞こえてきたのです。
政府安全局からのお知らせです。
生体科学研究所から逃げ出した2体のモルモットに関する情報を求めています。
2体は身長約11センチの人型でともにオス。
高病原性ウイルスを保持している可能性があります。
情報をお持ちの方は当局までご提供ください。
……そのニュースが差しうているのは間違いなく、このヨルとネルの二人。
ネルは眉を顰め、何がウイルスだ、めちゃくちゃ言ってるよと苦々しげに吐き捨てました。
ヨルはそんなネルにこう声をかけました。
ここは今夜発つ、それまで寝ておけ。
ヨルの、ニュースなど関係ないとでもいわんばかりの態度。
ネルは何も言わず、その指示を聞いて再び眠りにつきました。
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ヨルとネルは、身長11センチのこびと。
2人は親友で……普通の人間だった過去を持っていて……
彼らは2人、旅を続けているのです。

彼らは側溝の中を歩いていました。
すると側溝にかぶせられたグレーチングから光が差し込んでいる部分が見えてきました。
光が降って、聖なる場所みたいだ!と喜ぶネル、その場にたどり着くと、そこに100円玉が何枚も落ちていることに気が付きました。
聖なる場所だから人々がコインを投げ入れたのかな!?と興奮するネルですが、ヨルは上を見上げてこう言うのです。
上に聖なる自販機があるな。
聖なるマヌケが聖なるドリンクを買おうとして、聖なるドジを……な!
そんな言葉とともに肩をポンとやってきたヨルに、さすがのネルも怒るよ!?とかえすのでした。

側溝から出て歩いていますと、少し離れた場所に神社を見つけました。
さっきの100円玉を賽銭と言う名の宿代にして、神社で今晩を明かすことにしました。
狛犬の立つ台の上に座り、ビスケットを夕食にしてお腹を満たす二人。
お腹を満たした後は、早速宿代を払います。
ヨルが鈴緒しがみつき、ネルが100円玉を賽銭箱に投入。
するとヨルが体をゆすって鈴を鳴らし、なんか願い事!とネルを促しました。
ネルは手を合わせ、何かを願い始めます。
願い事はたくさんありましたが……ネルはこれだけは願わなかったのです。
「普通の人間に戻れますように」。

夜、社殿の前で眠ろうとする二人の耳に、パトカーのサイレンの音が聞こえてきました。
見つかっちゃったのかな?と不安な言葉を投げかけてくるネルに、ヨルは迷いなくこう答えるのです。
大丈夫だ、安心して寝ろ。
ここは聖なる場所だからな。
……ヨルの言葉を聞いて、ネルは心の平静を取り戻し、眠ることができました。
その時、ネルはこんなことを考えました。
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ヨルはいつも正しく、そして頼もしい。
もしかしたら聖なる場所は、ヨルの隣なのかもしれない。


というわけで、ヨルとネルの逃避行を描いていく本作。
基本的には、道中に起きるこびとならではのあんなことやこんなことに対し、ヨルとネルがうまいことを言ったりそうでもないことを言ったりしながら旅を続けていくという構成になっています。
その道中で起きるあれこれは、こびとになったらこんなことがあるかなと考えつくあんなことやこんなことばかり。
ですがそれに対してのリアクションは、施川先生らしいシニカルでアイロニカルな、あるいは限りなくくだらないものばかり!
施川先生らしい、独自の味わいを持つ会話劇が楽しめるのです!

さらに本作は、会話劇だけではない施川先生の持ち味が発揮されています。
基本的には楽しい二人旅の中で不意に顔をのぞかせる、残酷でつらい数々の現実……
こびとの日常生活をコミカルに描くだけではなく、物語の中で時折見せてくる数々の伏線、そして終盤になるとドンと襲ってくるショッキングな展開と演出に、震えること間違いなし!!
いつも通りの芸風でありながらも、また一つ施川先生が新たな一歩を踏み出し始めた実感も感じさせる、怒涛のラストシーンは間違いなく必見の一言ですよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!