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今回紹介いたしますのはこちら。

「うしおととら 完全版」第20巻 藤田和日郎先生 

小学館さんの少年サンデーコミックススペシャルより刊行です。

さて、見事に白面の者を打ち倒し、大団円を迎えた本作。
この第20巻では「外伝」をベースに、連載中や連載終了後に発表された、読み切りを収録した一冊になっています。
様々な人物の様々なドラマを描く短編が7編収録されているのですが、今回はそんな中から本編と非常にかかわりの強い一遍、「永夜黎明」を紹介したいと思います!


時は室町。
妖たちが夜の闇に跋扈し、人間たちが戦を繰り返し都が荒れ果てるその時代でも、とらは思うがままに力を振るっていました。
ただこの牙で人間どもの血肉をすすり、この爪で喧嘩を売ってくる化け物どもを引きちぎる。
そして一人で闇を歩く、それが当たり前、それが当然。
とらはそう考えていました。
この男……
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草太郎と出会うまでは!!

とらと草太郎は、激しい戦いを繰り広げています。
とらは、いままで様々な妖を相手にして、そして叩きのめしてきました。
しかし無敵を誇っていたとらが、この草太郎を相手に苦戦を強いられていたのです。
草太郎の持っている槍……それは、あの獣の槍!!
すさまじい力を持つ獣の槍で、高速の攻撃を放つ草太郎は、妖力も技術も、今までとらが戦ってきた人間の中では間違いなく最強です。
ですが、その最強の力を持つ草太郎はと言いますと、戦っている間ずっと

怖いよ、早く終わらせたいよ、と泣き叫びながら戦いを挑んでくる始末……
その態度を見れば、さすがのとらもやる気がわいてこないというもの。
草太郎にとって、とらはべらぼうに強くて戦いたくない対象ではあるのですが、かといって音に聞こえる大妖を、獣の槍を持つものとして放っておくこともできませんで……
逆にとらとしては、草太郎が持っている槍が、妖の間で有名な獣の槍だと聞けば……血が騒ぎます!!
そんな名のあるやつと戦いたかったんだ、とようやくとらも本気になり、ついて来い!!と跳躍するのですが……草太郎、ついてきません。
逃げるつもりか、とつっこみますと……草太郎は、山に一列になって続いている赤い提灯の列を見ているようです。
山童の人身御供だ、と草太郎は言います。
山に住む妖怪が、人里に生贄を求める。
この時代ではそれほど珍しいことではなかったのかもしれませんが……その人身御供に差し出される女性を見て、草太郎の血相が変わったのです。
ああ、みさを!!
そう言ってかけだす草太郎!
とらはそれを追いかけ、わしをコケにしやがってと草太郎の頭をどついたりもするのですが、草太郎はすっかりあのみさをのことしか頭にないようで。
みさをとは、草太郎の村の名主の娘だといい……なにより、草太郎と縁深い存在だったのです。

草太郎は子供のころからこんな性格で、同年代の子供たちから馬鹿にされ、独りぼっちの日々を過ごしていました。
が、そんな草太郎にわけへだてなく声をかけてきてくれたのが、みさをだというのです。
名主の一人娘で村一番の器量よしだというのに、何かと草太郎を気にかけてくれた彼女。
あるとき彼女は、村のみんなが誰でもできるような度胸試しもできない自分など死んだ方がいいのかもしれない、と悩む草太郎にこんな言葉をかけてくれました。
草太郎は草笛がうまい。
お前が草笛を吹いて、おらがそれを聞いてよろこんで、それだけでもう生きててええってことだ。
……そんな言葉をかけてくれるみさをに、草太郎が思いを寄せないはずもなく。
草笛がうまくたって、戦で手柄はとれない。
みんな侍になりたがってる、わしも侍になりゃあ……
そうつぶやかれた草太郎の言葉を聞いたみさをは、寂しそうな顔で、草太郎は侍になりてえのか、とうつむきます。
そして、俺は草笛を吹いている草太郎のほうが好きじゃ、と言い残して走り去り……
……草太郎は結局、侍になれば、の後に心の中で続けていた、侍になれればみさをと、と言う思いを口に出すことはできなかったのです。

村一番のみさをに釣り合う男になるため、侍になった草太郎。
ですがやはり戦向きではない草太郎、戦の恐ろしさにおびえる日々が続きます。
そんな日々の中で、偶然か必然かであったのが、獣の槍だったというわけです!!

獣の槍のおかげもあって戦を生き延び、そして妖怪退治と言う生業も得た草太郎。
ですが気の弱い草太郎、妖怪退治など本来はやりたくないはず。
それでも、恐怖と戦いながら、自分の魂を削りながら、妖怪退治を続ける理由があるのです。
一人になるよりはましだ。
みさをが言ってくれた、草笛を吹いて、それを聞いて喜ぶ、それだけで生きていていいんだという言葉。
それを聞いて、草太郎は泣きたくなるほどうれしかったと言います。
人は一人ぼっちでは生きていけない、でもみさをと一緒なら生きていける。
そう思った草太郎ですが、侍になってもみさをのもとに帰らないのは……
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もう、獣の槍を使いすぎて魂が削られ、草太郎は人ではないものになりつつあったから、なのです……

みさをのもとにたどり着くと、今まさに彼女が妖の餌食になろうと言うところでした。
一発で蹴散らしてしまいたいところですが、その妖怪、みさををがっちりととらえていたため、手が出せません!
怒りに震えたとらがさっさとやっちまえと怒声を飛ばしても、みさをが死んでしまう、今までどんなにつらくても生きてこれたのは、このよのどこかにみさをが生きていると思っていたからだ、みさをが死ぬなんて嫌だ、独りぼっちは嫌だ、と泣きじゃくるばかり。
たまりかねたとらが妖を殴りつけると、妖はたまらずみさをを離します。
一人が何でえ、わしはずっ一匹たっだぞ!
思わずそう叫んだとらですが、その瞬間……脳裏に、二人の顔がよぎったのです。
褐色の肌の若い女と、純真な瞳で笑顔を向けてくる少年……
あまりに昔すぎる記憶に、とらはそれが何なのか、思いだしきることができません。
ただその顔を見た瞬間、とらの胸は締め付けられるように痛んで……!!
その隙をつき、妖が襲い掛かってきます!!
さしものとらもこの攻撃をかわすことはできない、と思われたその瞬間!
とらの背中を
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草太郎が守ったのです!!

二人の協力のおかげで、みさをの命は守られました。
が、獣となりつつある自分がみさをとともに生きていくことはできない。
そう考えた草太郎は、半ばやけになってとらとの決着をつけるための戦いを始めるのです!!
果たして草太郎の、みさをの、とらの運命はいかに……!?



というわけで、とらと獣の槍の出会いを描いた本作。
とらを張りつけにしたあの侍の正体が明かされ、そして潮と出会うまでとらはどんなことを考えていたのか?
様々な出来事が描かれることになるのです!
このほかに収録されている読み切りも読みごたえあるものばかり。
とらが一舞台装置としての役割しか持たず、一人の侍と姫の物語を描く「妖今昔物語」。
ヒョウがいかにしてあの力を得るに至ったかを描く「桃影抄」。
紫暮と須磨子の出会いを描く「里に降る雨」。
巴御前を主役に据えた「雷の舞」。
クリスマスに巻き起こった騒動を描く「プレゼント」。
完結後の原画集に収録されたファンサービス色の強い読み切り「ECLIPSE」……
どれをとっても、完成度の高い読み切りが楽しめます。
15巻についていた栞が再びつけられていることに、発表された作品の形態ゆえカラー扉の再現が多いことや、文庫版や原画集に手を出していなかった方は未読であろう「ECLIPSE」の収録、うしおととら風雲録で読める藤田先生の「からくりサーカス」に関してのQ&Aあたりはファンとしては見逃せないところ!!
ぜいたくを言えばもう数百円高くしても、「ヒーローズ・カムバック」収録の短編、単行本のおまけあたりを収録していただければ完璧でしたが……
ともかくこれにて名作「うしおととら」完全版の刊行は終了!!
アニメ化決定の報から、17年1月発売の「双亡亭壊すべし」第3巻も合わせて、藤田先生作品祭りに浸ることができましたね!!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!