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今回紹介いたしますのはこちら。

「暗黒神話 完全版」 諸星大二郎先生 

集英社さんより刊行です。


さて、76年に諸星先生の初連載作品として週刊少年ジャンプに掲載された本作。
コミックスは77年に発売され、ジャンプスーパーエースと言う大判のコミックスが88年に刊行、96年には文庫本化、それぞれ重版を重ねてきた諸星先生の原点にして代表作です。
89年にはファミコンでゲーム化(アドベンチャー+ボス戦はアクションと言う謎ジャンル)、90年にはOVA化と、本作らしい時代を超えたメディア展開が行われてきた本作ですが、連載から38年がたった14年に「完全版」として再始動、15年に完全版の単行本化が行われました。
ですがその単行本は完全受注生産の上、告知があまりされない&期間も短かったため、発売に気付かないまま買い逃してしまった方も多くいました。
……俺も含めて……
そんな本作が、17年になってついに一般販売されたのがこの単行本です!!
諸星先生ファンならば説明も不要な本作ですが、ファンではない方はなぜこの微妙な絵(失礼!)の作品が人気があるのか分からない、とおっしゃられるかもしれませんし……さわりを少し紹介したいと思います!!



長野県茅野市、尖石考古館。
国宝の展示などでも有名なここに、わざわざ東京から一人でやってきている少年がいました。
少年が真剣なまなざしで怒気を見ていますと、そこに禿頭に立派なひげを蓄えた老人がやってきて、話しかけてきました。
竹内と名乗るその老人は、その土器の蛇のような模様の取っ手にまつわる話をしてくれました。
この地方は蛇の伝説が多く残っていて、紀元前5~6000年前の住民は、蛇を神聖視して祀っていたとか、その子孫には体に鱗があったり、蛇の神紋を授かるという話もあった、とか。
そんな話を聞いていますと、少年は謎の眩暈に襲われたようです。
つまらん話を聞かせてしまったようじゃの、じゃあな武くん。
そう言って竹内は去っていったのです。
……名乗りもしなかった少年、武の名を呼んで。

武蔵野にある自宅へと帰った武。
すると家から、見知らぬ男性が出ていくところでした。
その男を横目で見ながら家に入ると、母親は武を見るなり何時だと思ってるんだ、日帰りであんな遠くに行って持つならないだろう、諏訪に行くのはおやめなさい、としかりつけるのです。
あの男は誰なんだと聞いてみれば、何でもない、とはぐらかすばかり。
そこで、竹内と言う変な爺さんにあった、と話題を変えますと、母親は明らかに動揺したようで、手にしていた食器を割ってしまいました。
とにかくもう諏訪には行かないで、行くなら他にしなさい。
母親はただそう言うばかりなのです。

翌日、昨日の男が武を待ち伏せしていました。
男の名は小泉。
武の父の古い友人だと言う小泉は、君のお父さんは殺されたんだ、知ってるかね?と突然とんでもないことを告げてきます。
お父さんの遺品が何か手掛かりになるかもしれない、一緒に探ってみよう、お母さんには内緒でね。
……小泉の話を聞いて、一人家路につく武。
そう言えば、武にはおぼろげな幼少期の記憶が残っています。
泣いている自分の前に男が倒れていて、背中から血が流れている、そして自分の方からも血が流れている、と言う記憶が。
さらに記憶を手繰ると、傍にもう一人誰かいたような気も……
その記憶が偽りではない証拠に、武の右肩にはまだ傷跡が残っていまして。
交通事故でできたものだと言われてはいましたが、その時の傷跡だと考える方が自然な気もします。
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その傷跡は……まるで、蛇の頭のような……

冬休みになりました。
武は、父の遺品で気になるものと言えばこれくらいだ、と小泉に「信濃秘志」と言う江戸時代の本を渡しました。
その中には
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三つの頭に八匹の蛇が付いた男という奇妙な絵の描かれた紙がはさまれていましたが、小泉はそれよりもその中の「甲賀三郎諏訪ノ秘宝ガ事」と言う章に目が行ったようです。
簡単に言えば、甲賀三郎と言う人物が、地底で財宝を見つけたが持ち出せず死に、蛇となって宝の番をした、というようなことが書いてあるというその章の記述を見るや、小泉はすぐに出発。
武とともに父の死んだ現場だという山へ向かったのでした。

父は宝探しの末、横取りしようとした誰かに殺されたのではないかと言う小泉。
ですが、いくら何でも年端もいかない子供を連れて宝探しなどするでしょうか?
小泉のことも信用できませんし、武は自分なりの記憶を頼りに、小泉を無視して山を探り始めました。
ほどなくして、石仏の前にたどり着きます。
するとそこにまたも竹内が現れ、「何を迷っておる、そこでいいんじゃよ」と、武を導くような言葉をかけるのです。
竹内と小泉は知り合いのようですが……仲間と言うわけでもなさそう。
それでも、石仏を動かせば入口があるというヒントを与えてくれましたので、3人一緒にその先に進むことにしたのでした。
入口の先は、思ったよりも広い洞窟が拡がっています。
そして開けた場所に出たと思えば、そこは一面人骨で覆われていて……!!
戦争でもあったのか、あるいは病気か、と戸惑いながら先に進んでいきますと、その一番奥に、医師の椅子に座るような形の白骨が見つかります。
それはおそらく、甲賀三郎の骨だろう、と竹内。
その白骨は、頭が何者かに齧り取られたようにかけていて……ここで何があったのか、恐ろしい想像を掻きたてます。
すると、甲賀三郎の白骨はひとりでに立ち上がる……かのように倒れ込み、ばらばらになってしまいました。
どうやら、甲賀三郎がもたれかかっていた部分が石の扉になっていて、何らかの原因によって開いたために動いたようです。
この扉の先に財宝があるに違いない、と真っ先に入っていく小泉。
ですが中は真っ暗で何も見えません。
明かりを求める彼に、竹内は慌てるなとライトを渡しました。
ですが武は嫌な予感を感じています。
幽かに聞こえる、何かの音。
この奥の闇に何かがいる……!
そんな武の不安などお構いなしに、奥をてらす小泉!
するとそこに照らし出されたのは
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見たこともない、首が長く両腕がない化け物だったのです!!
化け物はその首を伸ばし、武を襲おうとしてきました!!
とっさに避けた武ですが、右肩にかすり、服を食い破られてしまいます!!
とたんにうずきだす古傷!
小泉は恐怖のあまりすくみ、ライトを取り落としてしまい……!
一体この怪物は何なのでしょうか!?
財宝を守る怪物なのか、それとも……!?
この奇妙な怪物との出会いが、この後武が体験する奇妙などと言う言葉では及びもつかない果てしなき旅の始まりとなるとは、誰が予想していたでしょうか……!!



というわけで、武の過去と未来を駆ける探求の旅が行われる本作。
右肩の古傷、諏訪の伝説、武の宿命。
それらが、この後登場する菊池一族の企みと絡み合い、気が遠くなるほど規模の大きい物語が展開していくことになるのです!!
最近の漫画は良くも悪くもわかりやすく、読みやすいものが主流となっています。
諸星先生作品自体もそんな感じになってきていると言っていいかもしれませんが……この「暗黒神話」は40年前の作品ですし、そして初連載時に構想から完成まで1年半をかけたということで、じっくり、しっかりと腰を据えて読まなければならない超重厚なストーリーです!
実際の伝説や考古学に、諸星先生の解釈や架空の伝説などを加え、読めば読むほど味が出る物語となっておりまして、仏教、インドの宗教、日本神道などの様々な宗教が密接に絡み合う壮大なストーリーが展開するだけでなく、父を殺した犯人の正体や、その犯人に憎しみを抱く武と言う等身大のドラマも描かれた読み応え十分の内容なのです!!

と、そこまでは完全版でないバージョンを読んでいるファンの方も知っている通り。
この壮大なストーリーを楽しみたいだけの方は、結構ゴイスなお値段の本巻ではなく、お求めやすい文庫版でも十分でしょうし、諸星先生ならではの筆致の雰囲気が楽しみたいなら大判のスーパーエースのほうがいいかもしれません。(完全版はちょっと縦長で小さめに印刷してある印象です)
ではこの完全版の何が違うかと言いますと……序盤はほとんど変わりません。
スーパーエース版では「10年後」だったのがなぜか「十三年後」と三年延びていたり、登場する遺跡が変わっていたり、説明が仔細になっていたりとわずかな違いしかないのです。
が、そんな中で大きく違うのが「慈空阿闍梨」の出番が大幅に減り、代わりに慈海と言う名前の新キャラのおじさん和尚が役割の大変を担っているという部分。
慈空阿闍梨が中盤大技を使いますから、大物感を出すための配役チェンジなのでしょうか……?
でも違いはその程度かな、と読み進めていきますと、第3章の「餓鬼の章」から大幅に手が加えられているのです!
とある登場人物の入浴(?)シーンがボリュームアップしていると思った傍から、その大幅な変更は開始!
もちろん大筋は変わりませんが、菊池一族側の物語に厚みが付けられていまして、餓鬼の章は「国東編」「飛鳥編」に二分割、そしてその後の地獄の章もドンと増量、読みごたえがさらに増しているのです!!

そんな描き下ろしに加え、ところどころが銀色のインクで印刷され、黒インクとの対比によって神性が上がっている感じの演出がなされているのも特徴の一つ。
さらにラスト近辺のあの独自の空気を表すかのように、紙も銀色のものを使うなど、印刷や素材自体にもこだわった作りになっているのです!!

値段ははると言わざるを得ませんが、それを補って余りあるパワーを感じるこの一冊。
ファンは必携、そうでない方にはちょっとお勧めしづらいですが……そう言う方は文庫版で出も読んでいただきたいところ!
あなたも本作を手に諏訪観光や、飛鳥に日が昇るのを眺めてみてはいかがでしょうか!!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!