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今回紹介いたしますのはこちら

「赤異本と黒異本」 原作・外薗昌也先生 漫画・鯛夢先生 呪みちる先生 

ぶんか社さんのぶんか社コミックスほらーMシリーズより刊行です。


さて、近年ではホラー作品の漫画や原作、小説などで実話系の書籍などで活躍されている外薗先生。
そんな外薗先生が執筆した「黒異本」「赤異本」は、現在連載中の「白異本」とともに、大ベテラン高港先生によってすでに漫画化されているのですが、今回はその2冊の中からエピソードを抜粋して一冊にまとめるという荒業(?)で、装いも新たに漫画化されました。
今回漫画化するのもホラー漫画界のベテラン鯛夢先生と、近年ようやく再評価が進んできた感のある実力派、呪いみちる先生!!
そんな本作、メインとなるのは外薗先生が過去体験した自身の恐怖譚を紡いだ長編「僕の家」となるのですが、今回は本作のトリを飾る呪先生の「地獄腐女子」と言うエピソードを紹介したいと思います!!



とある売れっ子ベテラン漫画家のO先生。
彼女が今手掛けているのはおきれいな男性同士がくんずほぐれついたす、いわゆるBLと言うジャンルの作品。
先生の手腕が生かされたその作品は多くのファンを獲得し、日々忙しく仕事に追われておりました。
そんなO先生の目下の悩み事は、アシスタントの確保が困難なこと。
やってくるアシスタント希望者の多くがすぐやめてしまいまして、ひどい時は失敗してしまった原稿を自分の机に隠したまま逃げ出してしまい、SNSなどは更新しているくせにこちらからの連絡は完全無視、と言う良い根性しているものもいるくらいです。
O先生の忙しさから、確かにスケジュールが過密なのは確か。
ですが仕事に厳しすぎるというわけでもなく、他のアシスタントたちが意地悪をするというわけでもなく……
最近手掛けている作品が特定の趣味を持っている人のみに向けて描かれているせいなのか、アシスタント希望者もなんだかそっち方面に傾倒したマニア系の女性……要するに腐女子的な方が多く、その中にはいろいろな意味で常識はずれな人物もいまして。
そんなアシスタント希望の彼女たちが、実際はなかなかに厳しい漫画の世界を垣間見て、逃げていってしまう……と言うことのようです。
そんなアシスタント希望者ばかり見てきたせいもあるのでしょうか、最近のO先生の希望は「多少絵が下手でもいいから明るい普通の子が増えてほしい」というものになっていました。
毎日閉じこもって仕事をするわけですから、そう言った人物がいたほうが仕事に張りが出るというわけです。
いい子が来ないものかと頭を悩ませていたときに……彼女は、やってきたのです。

なんだかものすごいフリフリの衣装に身を包み、頭には大きなリボンをしているアシスタント希望者の彼女は、姫川マユ子と名乗りました。
なんでも出版社のほうに話をつけたら即この仕事場にやってきたとのことで、その熱意からもわかるようにマユ子はO先生の大ファンでした。
仕事場に入るだけではしゃぎ、生の原稿を見ると頬を染めてうっとりする彼女……
絵の実力のほうはと言いますと……粗さはあるものの及第点、と言ったところ。
人でも足りなかったことですし、早速O先生はマユ子を雇い、チーフアシスタントの原田さんと引き合わせて仕事をさせるのでした。

マユ子は絵の技術はそれほどではないものの、明るくて気が利く性格をしておりまして、その点をO先生は気に入ったようです。
自然と彼女をかわいがるようになっていったO先生ですが、マユ子のちょっと変わった趣味には閉口しておりました。
それは、
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見たこともないようなお札をお守りだと言って渡してくること。
まあそこにさえ目をつぶれば、彼女は全く問題ない……かのように、見えたのです。

しばらくすると、また仕事場に問題が起き始めます。
アシスタントが再び脱走してしまい、仕事場にはO先生と原田さん、そしてマユ子しかいなくなってしまったのです。
マユ子は俄然はり切りますが……原田さんは、O先生にそっとこんなことを言うのです。
最近のスタッフの脱走は、マユ子に原因がある、と。
O先生がマユ子をかわいがり過ぎているせいで、みなO先生が好きで来ているアシスタントたちが不満に思い、やめているのではないか。
もちろんO先生にそんなつもりはなかったのですが、そう思われてしまっているならば問題があると言わざるを得ないでしょう。
O先生はそれから、そこに留意して仕事をしていたのですが……ついには、7年間も働いてくれていた原田さんまでもがスタッフをやめてしまったのです!!
唯一残ったマユ子に、7年もやってくれていたのに、突然やめるなんて人ってわからないものよね、と思わず愚痴ってしまったO先生。
すると、あの明るく朗らかなマユ子がこんなことを言いだすのです。
人間なんて信用できない。
この世界は醜いものと来たないものしかないんだから。
地獄ですよ、地獄地獄地獄地獄地獄地獄……
急に奇妙なことを言いだした彼女の様子を見てぎょっとするO先生ですが、マユ子の奇妙な発がんはなおも続きます。
先生って、男性との経験がないですよね?
わたし、先生の作品の描写を見て、ああこの人は男のこと知らないなって思いました。
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だから、先生はこんな美しい漫画が描けるんです!
先生の汚れ泣き魂と体、それがこの完璧な世界を生み出しているんですよ!!
先生は創造者、神なのです、私は先生を創造者として崇めているのです、その先生のそばにお仕えしてお手伝いさせていただくこの幸せは、何物にも代えがたい無上の喜び……!!
涙をこぼしながら、満面の笑顔でそうまくし立てるマユ子。
……O先生は、ついに彼女が本格的にヤバいヤツだ、と確信するのでした。

あとで原田さんと直接会い、話を聞いてみますと……どうやらマユ子加入後にやめていったアシスタントたちは、彼女も含めてみな直接マユ子に脅されて仕事をやめていったようです。
これ以上先生の世界に入って汚すな、と狂気に満ちた目で詰め寄られれば、誰でも恐怖するところ。
しかも傍から見れば、O先生はマユ子の味方、マユ子に取り込まれてしまったように見えていたわけで……
おまけに原田さんによれば、22歳だと言っていたマユ子は実際もっとずっと上の年齢で、髪の毛はカツラ、手首には傷が無数についていて、さらに妊娠の経験もあるらしいと、思っていた以上に闇の深い人物だったようです。

O先生は考え抜いた結果……いいアイディアが浮かばず、仕事がひと段落付いたところで、彼女にさらっとこういいました。
今日でもう仕事終わるから、もう家に帰ってもらって結構よ。
マユ子は少し驚いた後、にらみつけるような眼で、それってもう来なくていいってことですか?と尋ねてくるのですが……
O先生は、沈黙をもってしてその問いを肯定しました。
するとマユ子は……にこりと笑って、今までありがとうございました、とってもいい経験できました!とあっさりひきさがってくれたのです。

が、問題はそれからでした。
原田さんを筆頭に、呼び戻したスタッフで仕事をしていたのですが、何かにつけて
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マユ子と思われる、おぞましい姿の例が現れるようになったのです!!
まさか自殺でもしたんじゃないかと連絡をしようとしても、彼女が自称していた住所や連絡先はすべてでたらめ……
その後も怪奇現象は「アシスタントの前でだけ」頻発。
マユ子は霊体となってなお、アシスタントも追い出そうとしているのです!!

一同はマユ子がどうやら生霊を飛ばしているらしい、とあたりをつけ、霊験あらたかなお札を入手。
しっかり仕事場に貼ってこれで一安心、と胸をなでおろしたのですが……
ほどなくして、とうとうマユ子の霊はO先生の前にあらわれたのです!!
悔しい、私はいつも先生のためを思っていたのに。
泣きながら姿を現したマユ子の霊ですが……すぐにおぞましい姿に変わって笑い、こう言って姿を消しました。
オフだなんて貼っても無駄ですけど。
ジャンルが違う。
恐怖のあまり、階段から落ちてしまうO先生。
幸い大きなけがはありませんでしたが、その落ちた先で、O先生はとてつもなく悍ましいものを発見してしまったのです!!
そのおぞましいものは、マユ子のもたらす更なる恐怖を加速させることになり……
そして、とうとう!!!



というわけで、ベテラン漫画家に襲い掛かる、生きているものの強い情念を描くエピソードを収録した本作。
外薗先生の原作である作品ながら、呪先生らしい艶やかでありながらもおぞましく、どこかコミカルな要素も感じられる味わいが楽しめる子のエピソード、オチもなかなか気の利いた(?)内容となっている一編です!!
呪先生はもう一編、「ビラビラ」というやはり呪先生の得意な感じの作品を描いておられます。
こちらもまたシンプルながら恐ろしいお話になっておりまして、必見の内容になっております!!

そして紹介こそできませんでしたが、メインとなるのはやはり鯛夢先生の描く「僕の家」シリーズ。
外薗先生の体験したというこのエピソード、ホラー映画かよと言うくらいの恐怖の減少が立て続けに襲い掛かて来る物語となっています!!
突然父が購入し、引っ越した奇妙な作りの豪邸。
そこで若き日の外薗先生が体験した恐怖とは?
そして、両親が徐々に徐々に、得体のしれない誰かへと変わっていってしまうかのような恐怖が……!?
のちの外薗先生がこのエピソードを語ろうとしたたびに怪現象に見舞われたというこの物語も、もともとの恐ろしさにくわえ、鯛夢先生の卓越した「ホラー漫画の魅せ方」で一層増幅!!
読む手の止まらない作品になっておりますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!