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今回紹介いたしますのはこちら。

「白異本」 原作・外薗昌也先生 作画・高港基資先生 

日本文芸社さんのニチブン・コミックスより刊行です。


さて、外薗先生と高港先生の最恐タッグによる「異本」コミックシリーズの最終巻となる本作。
今までも背筋の凍るような恐怖の物語を紡いできた本シリーズですが、今作もその恐怖は健在。
その上に、ひとつの軸のような気になる要素も盛り込まれていて……!!



その男は、メガネの男性に向かけて語り始めました。
最初は、本を書くためだったんです。
あっちこっち一手、「怖い話」を聞いて回りました。
何年もそんなことをしてたんで、怖い話はたくさん集まりましたよ。
「他のもの」も集まっちゃいましたけどね。
そんなことを言う男は、メガネの男性にそうして集めた怖い話の一つを語り始めたのです。
これは僕が姪っ子のユウから聞いた話です……


ユウは、車やバイクが大好きな女の子です。
趣味が高じて、国家試験も通って自動車整備士になった筋金入り。
そんなユウはある日、高校時代の同級生である女子……Q、としておきましょう、そのQに呼び出されていました。
高校卒業して以来、数年ぶりに出会うQは……身体は成長こそしていたものの、その「目」はそのままでした。
何を見ているかわからない、何を考えているか全くわからない、虚ろ、とでも形容すべきその目。
うすら寒さのようなものを感じつつも、ユウはそれを億尾にもださず、旧交を温めるべく挨拶を始めます。
しかしQは、そんな社交辞令をしようともせず、呼び出した本題に入りました。
こう言うところも変わっていない。
ユウは、逆に感心していました。
学生時代から「人でなし子」などと陰で噂されていた彼女、今に至るまで一切変わらずその自分勝手さ、人のことの考えなさはそのまま。
今回も急にユウに電話をしてきて、良い中古車があったら持ってきて、とだけ告げて一方的に電話を切ってしまう……そんなぶれないイヤな女ぶりを見せつけたのですから。

ユウは見積もり表をQに渡すのですが、意外なことにQは二つ返事で買うと答えました。
確かに上々の車ではあるのですが、Qに良い感情を持っていなかったこともあり、正直言ってユウは吹っ掛けていたのにもかかわらず、です。
驚きながらも契約書にサインを求めるユウですが、そのとき彼女に右手首についている黒い数珠が目につきました。
見ているだけで不安な気分になってくるその真っ黒い数珠に目を奪われているうちに、Qは契約書にサインを終えています。
そして、Qはもう一つやってほしいことがある、と頼みごとをしてきました。
それは……今まで彼女が乗っていた車の処分です。
見てみればその車は廃車にするににしてはだいぶ新しそう。
左側面には、ガードレールにこすったかのような大きな傷がありますが、直せばまだまだ乗れそうです。
Qは、いつもの表情で「潰して」といって、去っていってしまいます。
あいかわらずの態度に閉口するユウなのですが……何か、企んだようです!

ユウはその車を勝手に修理し、売りに出してしまいました。
売りに出すと半日もしないうちに早速買い手が付き、ユウはイヤなQを出しに一儲けできたことに、すこし後ろめたさはあるもののほくそ笑むのでした。
が、どの車は数日後に戻ってくることになってしまいます。
車を買った男性が、ブレーキを見てくれと言って車を持ってきたのです。
売りに出す前に点検した時は何もなかったはずですが……
とにかく車を見てみると……何か、赤いものがしたたっているような。
リフトで持ち上げてシャーシを見てみると……そこには
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ぐしゃぐしゃに潰された人間がつまっているではありませんか!!
尻もちをついて悲鳴を上げるユウですが、改めてみるとそこにはなにもいません。
……幽霊。
そこで、ユウはピンときます。
Qの言った、「潰して」の意味。
Qはこの車で……人を、轢いたんだ!!

聞いてみれば、車を買った男性が車に乗っていると、最初はブレーキに何か引っかかっているんじゃないか?と言うような感覚を覚えたのだと言います。
そして修理に持っていく前夜……ハンドルの下から、血まみれに男女三人が這い出てきて、
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あいつはどこだとうめいたというではありませんか!!

Qはその車で、女子高生の巻き込み死亡事故を起こしていたと言います。
女子高生はガードレールに挟まれ、口から内臓を飛び出させる無残な死に方をしていたとか。
彼女の両親はショックで後追い自殺。
そして当のQは、有力者である両親の力で、その惨たらしい事故を書類送検だけで済ませてしまっていたのでした。

その件について問い詰めてみると、Qはいつもの調子でこう言います。
私が人を死なせるのは仕方がないのよ。
Y先生が、「それはあなたの業だから気にしなくていい」って。
でね、その先生が作ったこの数珠をつけてるの。
これがどんな恨みや呪も跳ね返してくれるんだ。
ちょっと引くほど高いんだけど、効果は絶大よ。
でもいっぱいいっぱいになると切れるみたい。
何年か一度切れて、キレるとよくないことが起こるのよね。
この前切れたときは近所の大きな病院で、看護師が変になって入院患者を何人も窓から突き落とした。
その前はやっぱり近所で主婦が自分の子供三人を理由もなく殺した。
たぶん、数珠が切れる時何かが飛び散るんだね。
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そう言って……Qは、笑顔を見せました。
あまりにも恐ろしいことを言っているにもかかわらず。
その笑顔は、見ているものに恐怖以外の感情を感じさせない、不気味な笑顔で……
ユウは、その顔を見て大人しく退散することにしました。
こいつとは一切かかわらない方がいい、こいつは別の世界の人間だ……

後日偶然街でQの一かを見かけたユウ。
彼らの手首には、やはりあの黒い数珠が鈍く輝いていました。
……いまでも、Qとその一族は、栄えているそうです……


そんな話を終えた、その男。
どうです、怖かったですか?
こんなのがまだたくさんありますよ。
もっと聞きますか?聞きますよね。
笑うその男……「外園」の体に……不気味な変化が起こっていることに、メガネの男性はまだ気が付かなかったのです……



というわけで、新たな恐怖が描かれる本作。
この後も、外園の口から続々と恐怖譚が紡がれていくことになります。
人気のない新興住宅地に「いる」恐怖を描く「うらがえし」。
奇怪な貼り紙のしてある団地の一室に住まうもの正体を探る「ヒダリウデ」。
校庭の片隅にある木造トイレに現れる少年の霊の伝えたいものに迫る「伝言」。
職場の配置換えでもたらされた、高給と怪異が語られる「不浄」。
そして、前後編で繰り広げられる、見てはいけないそれにまつわる戦慄のエピソード「スナッフビデオ」……!
今回は、人間の持つどす黒さと、それにかかわっていく異常な人々の物語が中心となっているようです。
見るものの背筋を凍らせる人間の悪い所と、その悪い所をさらに凝縮したかのような人間の業、そしてその業に引き寄せられ現れる亡霊たち。
そんな恐怖が、高港先生の丁寧でいておぞましい筆でありありと描かれているのです!
グロテスクな描写、怖気を感じる狂気、そして高港先生の代名詞(と個人的に思っている)ワハハ顔がたっぷりと披露されますよ!!

そんな高港先生が描く恐怖を作り上げる、外薗先生の原作力も忘れてはいけません。
今回はその恐怖の物語を作り上げただけでなく、自身の分身ともいえる外園を語り部として書くエピソードの狂言回しとしています。
そしてその外園の体に起きていくある変化が、本作の書く物語とは別の一本の軸になっていまして……それが、最終回で完成することに!!
その驚愕のラストと、おまけとして巻末に載せられている両先生の体験談。
最後の最後まで見逃すことは許されないのです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!