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今回紹介いたしますのはこちら。

「銀河の死なない子供たちへ」上巻 施川ユウキ先生 

KADOKAWAさんの電撃コミックスNEXTより刊行です。



さて、シュールなギャグマンガから死生観をテーマにした物語、そして原作業まで幅広い活動をされている施川先生。
今回の作品は、その中の一つ、死生観をテーマにした作品となっています。
「オンノジ」「ヨルとネル」に続くこのシリーズですが、今回はとりわけ目を惹く要素が盛り込まれていまして……?



少女が夜空を見上げています。
一万年前、少女はこの星空を見ていました。
そして、一万年後もきっと。
そんなことを考えながら、少女は何やらつぶやき始めました。
周り廻る星々、に語りかけるもしもし、と耳に届くささやき、は何もなくてガン無視。
そんな自作のラップを口ずさむ彼女、その出来栄えにご満悦。
鼻歌混じりで歩いていますと、その道のりの間で良い感じの棒を発見しました。
さんてんいちよんいちごーきゅーにーろくごーさんごーはちきゅーななきゅー……
そうやって、浜辺に棒で延々と円周率を書き出す彼女。
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何十桁、いや何百桁描いたでしょうか。
浜辺が数字で埋め尽くされる頃、ようやく彼女はその行動に飽きたようです。
今度はその場に撃ち捨てられていたボロボロの車を棒で殴りつけたかと思うと、今度はその下に芽を出していた若葉を見つけ、微笑む彼女。
今度はあおむけに寝転がり、空に向かって手をかざすと……朝がやってきました。
朝日を見つめていた少女は、そのまま空を見つめ続け……やがて夜を迎えます。
巡りゆく星々に手を伸ばし、おーいと呼びかける少女……
雨が降っても、雪が降っても、火山が噴火しても、大型動物に踏みつけられても、少女はその場を動きません。
何日も、何か月も、何年も時は過ぎ……気が付けば、棒をたたきつけた車は、大木の上へと移動していました。
車が動いたわけではありません。
車の下に出ていた若葉が成長し、大木となり、車を持ち上げていたのです!

少女は鼻歌を歌いながらどこへともなく歩き始めました。
行く先にカニがひょっこり現れると、少女はいきなり棒で一撃!!
死んだ!とそのてごたえに驚いておりますと、同じ種類のカニが群れを成してわらわらとその場にやってきました。
そしてそのカニを片っ端からたたきつぶしていく少女……
しばらくそうしているうちに疲れてしまい、一休みしていますと……今度は地面が大きく揺れ出し始めました!!
動物たちは一目散に逃げだしますが、少女はそんな中でも楽しいと大笑い。
するとそこへ、大きな大きな波が押し寄せ、少女を飲み込んだのです!!
海の中へと引き摺り込まれた少女は、ちょうどその場に居合わせた飢えたクジラに稀うのみにされてしまうのでした。

どれだけの月日が経ったでしょうか。
少女を飲み込んだクジラは丘へ打ち上げられ、物言わぬ躯となっていました。
クジラの腹は裂け、内臓がはみ出し……そして、少女もクジラの外に放り出されています。
やがて少女は、ゆっくりと目を開け……
大きな瞳に数多の星を映し込みながら、少女は歌います。
星めぐりの歌を。

彼女は、長い長いお出かけから家に戻ってきました。
洞窟の中にある家には、姉弟のマッキがいつもの様に本を読んでいました。
そして、その先にある部屋には、ママがソファに腰かけています。
ママ、ただいま。
そう笑顔で語りかける少女ですが……ママの首には、天井から伸びてきている鍾乳石が突き刺さっているではありませんか!
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ですがママは、平然と返事をするのです。
おかえり、π(パイ)、と。

鍾乳石が伸びてくるのをぼーっと見ていたら、折れてきてさ去ってしまい、そのままにしていたら天井とつながってしまったというママ。
すごく痛い、無限地獄だった、と言うママですが……意味ありげな瞳でこうも言いました。
痛いのだけは、飽きることができない。
πはよく意味がわかっていないようですが、そんなπにママは優しく何をして遊んでいたのかを尋ねてきました。
ママは、πにそうやっていつも優しくしてくれ、そしていろんな話をしてくれます。
この星の事、死んでしまった生き物のこと、死ぬと言う事、死なないと言う事。
お話の中で、ママは言いました。
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「はじめに言葉ありき。」
「宇宙が終わる最後の瞬間、そこにあるのも言葉だけなの。」



と言うわけで、死なない姉弟、πとマッキの物語を描く本作。
この星の中で今唯一かもしれない、人間の形をした生物であるπたち。
ですが、どんな出来事が起きたとしても決して死ぬことはない彼女たちは、人間ではないのでしょう。
一体彼女たちは何者なのでしょうか。
そして、この星に住んでいたはずの大勢の人間たちはどこへ行ってしまったのでしょうか?
数々の謎が秘められた本作ですが、その謎を不思議に思うのは読者だけではないのです。
πとマッキは、その謎の答えを求めて行動をすることになるのですが……
その行動は、思いもよらない形で実を結ぶことになり……!?

施川先生の持ち味である、不思議な世界観は本作でも健在。
抒情的な雰囲気と、退廃的なムード、そこに加えられたユーモア。
「オンノジ」「ヨルとネル」でも見られた、ショッキングな展開も見られ、ゆったりと進みながらも情勢が目まぐるしくかわっていく、引き込まれる物語となっています!
謎がすべて明かされるのか、それとも全く予想の出来ない展開となるのか!?
施川先生節がたっぷりと堪能できる本作、下巻でも驚きのフィナーレが待っているはず!!
これから先も楽しみですね!!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!