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今回紹介いたしますのはこちら。

「くにはちぶ-国八分-」第1巻 各務浩章先生 

講談社さんのマガジンエッジコミックスより刊行です。



各務先生は10年代前半から活躍されている漫画家さんです。
連載デビューは14年、少年ライバルの受け皿として発足したウェブマンガサイト新雑誌研究所で開始された「葬屋」ですが、残念ながら単行本刊行はされず。
ですが17年、マガジンエッジにて本作の連載を開始し、ついに待望の単行本刊行となったのです!!

そんな各務先生の最新作となる本作は、いじめを題材にした作品です。
が、本作におけるそれは友達とか家族とか学校とかと言った、普通の規模のいじめではありません。
規模の大小がいじめの深刻さと直接かかわるわけではありませんが……衝撃のその内容とは……!?



ねえ、私はここにいるよ、こっちを見て!!
そう言って叫び続ける一人の少女。
彼女の必死の呼びかけにもかかわらず、周囲の人々は一向にそちらを向こうともせず、無視、を続けます。
人と人とがひしめき合う駅のホームで、誰一人として。
誰か、私を見て。
私を、見て。
彼女はそうつぶやきながらフラフラと後ずさりをして……そして、電車が通過するホームへと身を投げたのでした。


道端たんぽぽ、中学2年生。
彼女は今晩の夕食に舌鼓を打っておりました。
ママの料理は世界一、と満面の笑顔で料理を頬張っている彼女を見て、自然と家族も笑顔になってしまいます。
お母さんも、本当においしく食べてくれてうれしい、明日もあなたの好きなカルボナーラにしようかしら、とにこにこしながら言いますと、たんぽぽははじけるような笑顔となって言うのです。
私はきっと世界で一番しあわせなんだわ!

翌朝、たんぽぽはお母さんと妹のつづみに見送られ、学校へと向かいます。
学校でも仲良しのしろつめやあざみと楽しく過ごし、彼女は幸せな時間を堪能していました。
お昼休みになりますと、大好きなお母さんのお弁当を食べながら、ちょっと真面目に進路の話などしてみます。
もう少しで3年生になるけど、そのなったら受験生。
やっぱり進路は華高がいい、制服がかわいいし。
ちょっと頑張って勉強しないと入れないけど、絶対入るよ華高!
みんな一緒に行こうね!
そう、明るい未来の点棒を語り合っていますと……乱暴に教室の扉が開けられました。
入ってきたのは、スーツ姿の男と、SPらしき数名の黒服でした。
スーツの男は迷いなく教壇に立ち、そして黒板に文字を書き始めます。
ざわつきの収まらない教室の中で、男は「無作為選出対象者無視法」と描き終えると……おもむろに話し始めます。
皆さん、初めまして、私、踏と申します。
ごらんの法律、「無作為選出対象者無視法」の監督官をしております。
厳正なる無作為抽選の結果、本日2月10日より、
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道端たんぽぽさんを、1年間日本中で無視することになりました。
……すぐには理解できないその言葉ですが……徐々に、その言葉の意味することがわかってくるクラスメイト達。
無作為選出対象者無視法、通称国八分。
その説明通り、国中で対象者を1年間無視し続けるという悪夢のような法律です。
いじめ被害者の気持ちをわからせ、人を思いやる心を待たせるための法律だと総理は言うのですが……
あまりの苛烈さに、前回の対象者は……自殺というあまりにも悲しい結末を迎えてしまいました。
そして……新たにタンポポが選ばれた、と言うことのようなのですが……
騒然となる教室ですが、踏はそのざわめきの一切を無視。
もしこの法律に違反するようなものがいれば、干渉の程度によらず一律一年間の禁固刑に処される、中学生は1年間の少年院への送致となる、と淡々と説明。
そして、昼休み終了のチャイムが鳴ると同時に、無視の開始を宣言したのです!!
……チャイムとともに、教室は重苦しい空気に包まれます。
たんぽぽ本人はもちろん、しろつめも、あざみも、そしてクラスの誰もが何も言葉を発することができない……
そんな状況の中で……吹き出してしまうものが現れます。
それは一人ではなく、たんぽぽと特別親しいものを除いた大半のクラスメイトでした。
無理無理、無視って何だよ、笑っちゃう、怖い顔して無視してくださいって何なんだよ、踏さん面白いわ……と、一気にその空気は壊れます。
そして男子の一人が、無視だってよ、どーするよこれから、困ったな!とたんぽぽpのカタをパンパンと叩きながら笑いかけてきました。
何ともいえない表情になって笑うたんぽぽですが……直後、
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その男子がSPによって取り押さえられてしまいます!!
無視法違反現行犯で逮捕する!
そう言われて抑え込まれてしまう男子……!
その男子を見下ろしながら、踏は告げました。
皆さん勘違いしていませんか。
ちょっとくらいならいいだろうとか、関係ないから笑って茶化していればいいやとか、法とはそんな甘いものではありません。
これは冗談でも遊びでもないんです。
罰せられるのは「悪い者」ではなく、「法を犯した者」です。

その後、たんぽぽのせいで男子生徒が捕まったと食ってかかった女子生徒も一人、違反者として連行されてしまいました。
注意して無視してください、と言い残し、二人を連れて去っていった踏……
嫌と言うほど「国八分」の恐ろしさを思い知らされてクラスメイト達は、完全にたんぽぽを「いないもの」とした扱い始めます。
今までの幸せがすべて瓦解し、代わりに襲い掛かって来た絶望にへたり込んでしまうたんぽぽ。
ですがそんな中でも、救いの手を伸ばそうとするものはいるのです。
しばらくの間辛いと思うけど何とかするから、すこし我慢して待っててくれ、という書置きをこっそりと渡してくれたあざみ。
そして、ごめん、無視するふりをするけど、3人で絶対華高行こうね、としろつめも励ましの書置きをくれました。
それに縋って、たんぽぽは頑張ろうとするのですが……

2時間ほどで、たんぽぽは限界を迎えようとしていました。
自分を点呼で飛ばされ、うなだれるたんぽぽ……
見かねてとうとう、しろつめが声を上げてしまいました。
こんなのダメです、たんぽぽちゃん、無視してごめん。
でも、こんな風に無視を1年続けるなんて、私には耐えられない。
無視なんてしないわ、たんぽぽちゃん。
来年、一緒に華高行こうね。
たんぽぽのその言葉は……おそらく、この次に自分に起こることを想定していったものだったのでしょう。
背後にいつの間にか現れた踏が、彼女を連行していくことを……!!

たんぽぽは打ちのめされ、ふらつきながら放課後の帰途についていました。
国八分の件は学校中に知れ渡ったらしく、自転車がまるで自分などいないかのように走り、足首を踏みしめて進んでいくという仕打ちを受けてなお、誰もたんぽぽに声をかけるものはいないのです。
痛む足を引きずりながら、ようやく家につくたんぽぽ……
するとちょうど夕食時で、食卓にはたんぽぽの大好きなカルボナーラが並んでいました。
カルボナーラ!
ママ、私の好きなもの作ってくれたんだ!
ありがとう!
大好きママ!!
そう言って笑顔を浮かべるたんぽぽですが……すぐに、その瞳には大粒の涙があふれ、零れ落ちてしまうのです。
でも、なんで
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わたしの分、無いの?
ねえ、ママ……
パパ、つづみちゃん……無視、しないで……!!
誰もたんぽぽには応えません。
お母さんもまた涙をはらはらとしたたらせるのですが……それでも、応えてはくれないのです。
その時、テレビのニュースの声が聞こえてきました。
無作為抽出対象者無視法の新たな対象者が決まり、マスコミは周知のために対象者の報道が許されます。
本日早くも、無視違反で3名が逮捕されました。
そのニュースに映し出されているのは、たんぽぽの顔。
そして、対象者自身の自覚不足も嘆かわしい、深く考えず軽率な行動をとった結果がこんな事態を招くのです、としたり顔で語る専門家様も映り……
わたし?
わたしのせい?
……とうとう、たんぽぽは意識を失い、倒れてしまうのでした……



というわけで、とんでもない物語が始まってしまう本作。
友達や教師だけではなく、親兄弟ですら無視をしなければならない。
あまりにもひどすぎるその方の対象者になってしまったたんぽぽの地獄はこうして幕を開けてしまいます。
彼女の味方になりたいものは少なくないのですが、そこには常に監視の目が付きまとっていまして。
何をどうしても、その監視の目を完全に振り切ることはできず……
恐ろしい、国八分は本当に逃れるすべなく襲い掛かるのです!

この物語の恐ろしいところは、無視されるたんぽぽの寄る辺ない絶望です。
ですが、それだけに終わらないことも忘れてはいけません。
彼女に意図して触れてしまったり、何か声をかけたりしたら、その時点でそうしたものも1年間の刑に処されてしまうという事実もまた恐ろしいのです!!
彼女を助けようとしたもの、そうではないのに思いもよらない形でかかわってしまったもの。
そこに、踏が迫る恐ろしさは何とも言い難い壮絶なものなのです!!

そんな恐ろしさが目立つ本作ですが、物語の筋のほうも気になります。
おためごかしを並べる総理におそらく存在するであろう、本当の目的は何なのか。
一年間無視をされ続ける人物を作ることによって、何を生み出そうとしているのか?
その目的は謎だらけです。
設定のほうも気になるものだらけ。
けがや病気の場合はどうするのか、無視されることを逆手にとっての犯罪などはどうするのか?
その気になる要素の数々もおそらくこの後徐々に明かされていくはず!
たんぽぽは1年間耐えられるのか、それとも別の手段で助かるのか、はたまた「途中離脱」してしまうのか。
これからの展開が気になってなりませんね!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!