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今回紹介いたしますのはこちら。

「リバースエッジ大川端探偵社」第9巻 作・ひじかた憂峰先生 画・たなか亜希夫先生 

日本文芸社さんのニチブンコミックスより刊行です。


さて、川沿いにある小ぢんまりとした探偵事務所の仕事を描いていく本作。
海千山千と言う言葉がふさわしい所長の腕前を象徴するかのように、そこには一風変わった依頼が寄せられます。
果たして今回の依頼は……?



一人の男が、女性の調査を依頼してきました。
その女性は片思いのお相手か何かですか、と尋ねてみれば、なんでもそんなレベルではない「謎の女性」なのだと言います。
10年、20年経ってもその美貌は衰えるどころか冴えていく一方、とその男はどこか薄っぺらい笑顔で説明を始めました。
女優や美人タレントなんかとは違うスケールを感じる、と言うその女性の写真を、男は取り出しました。
差し出した昔はかなり昔、彼女の屋敷に行った誰かが隠し撮りしたものだと言うもので……
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確かにその、並みの美女とはレベルの違うレジェンドだ、と言うのがうなずける顔をしているその女性。
旧財閥系重鎮のお妾さんの娘だとか、IT関連の特許で巨額の資産を得た男の愛人だとか、本人がプロのトレーダーだとか、その噂だけでも枚挙にいとまがないのですが……そのどれだとしてもなぜか納得してしまう、そんな雰囲気をしています。
そんな噂の一つには、彼女の家には深い深いところまで潜水するためのプールがある、とか。
些細な噂でも集めてしまいたくなるほど、ただ単純に彼女のことを知りたい。
男はそう言うのです。

所長と村木は、その依頼人が本当の依頼人ではない、とぴんと来ていました。
おそらく謎の女の近隣に住む資産家の中年女たちが好奇心と嫉妬にかられたか、あるいは暇つぶしにと、代理を立てて依頼したのだろう、と社長は読みます。
依頼人が誰であろうと、依頼されて引き受けたからには全力で当たるのが礼儀と言うもの、
早速張り込みを始めると、二日目の午後に動きがありました。
車でどこかへと出かける女。
村木もプロですから、気付かれないよう慎重に尾行をしているのですが……
もしかしたら、女は俺の尾行に気付いているのではないか、と感じてしまうほどその謎の女の雰囲気は解き済まされていました。
……いや、気が付いてはいないはず。
そう思いなおして、村木は尾行を続けるのですが……目の前に外国人の集団が通りかかり、彼女が視界から外れた一瞬のすきに、彼女の姿は消え失せてしまいました!!
慌てふためき、周囲を探し回る村木!!
まったく姿は見当たらず、村木は思わずため息をついてしまうのです。
が、その直後のことです。
ホールドアップ。
そう女の声が村木にかけられ、背中に銃口のような感触が感ぜられたのは!!
両手を上げ、恐る恐る後ろを振り向くと……そこにはあの謎の女性が。
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尾行は気付いていた。
そう言ったあと、静かに笑い、彼女は人差し指を村木の背中から話、銃は持ってません、とおどけるのでした。

完全に自分の負けを認めた村木は、もう真っ向から全てを明かすことにしました。
何度もこんなことがあってね、世間には私のことを知りたい人々がいる。
自分に向けられる好奇の瞳も理解していた彼女に、村木はあなたから手を引かせていただきます、誓って、と全面的な幸福を表明するのです。
女性はそんな村木の素直な態度が気に入ったようで、私も心を開くわ、と言って……村木にこんな贈り物をしました。
噂は勝手なものね、私は一切関知もコメントする気もありません。
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自分だけの才覚で、女一人が世間との交渉を最小限にして生きていきたい。
それが私の望み。
そう、自分の気持ちを村木に明かし……ついでに、今日外に出た理由、週1回の買い出しに村木を付き合わせ、そしてさっそうと去っていったのでした。
完全に置いてけぼりにされてしまった村木。
惚れた、そして捨てられた。
そんな感想とともに、彼女を見送るしかないのでした。

結局依頼人にはお金をすべて返却し、ギブアップ宣言をして仕事の幕を閉じることとしました。
……実は所長、何となく女性の正体に予想がついているようです。
謎の女をそっとしておいてあげたくて黙っていたというその予想……それはこんなものでした。
アメリカには一晩で数千ドル、日本円で100万円から500万は稼ぐ女がいる。
いかなる組織にも所属していない、単独のセックス・ワーカーだ。
……村木はその所長の言葉を聞いた瞬間、目が覚めるような感覚を覚えます。
「自分だけの才覚で、女一人が……」
村木は、グラスで波立つ酒の中に、彼女の姿を見ました。
まるで、迷走するように、深い水底に下降していく、あの女性の姿を……



というわけで、前巻の不老不死の老人の女性バージョンのようなお話を収録した今巻。
大きな事件が起きるでもなく、難解な謎解きが行われるわけでもない、それどころか依頼に失敗している。
そんな探偵漫画として成り立っているか怪しい成果のエピソードが、ひじかた先生の独特のストーリーテリングと、たなか先生の確かな筆致で、グイグイと読者を引き付けるお話になっているのはさすがとしか言いようがないでしょう!!
まさしく本作ならではのエピソードとなるこの「謎の女」ですが、他のエピソードももちろん負けてはおりません!
まるで演歌の世界のようなお話なだけでも興味がわくと言うのに、メグミが調査をすることになると言う点でも注目の「演歌エレジー」、女性の髪形を完全なお任せでカットする謎の出前カットをする美容師に迫る「料金あと払い」、かつてのクラスのマドンナの持っていた魔性の今に迫る「懲りないリピーター」……
本作ならではの味わいが楽しめる、硬軟織り交ぜた人間ドラマ全8編!
きれいごとでは終わらない、ちょっぴりビターな物語が今巻もたっぷり楽しめます!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!