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今回紹介いたしますのはこちら。

「オカルト・マキアート」第1巻 長谷川哲也先生 

日本文芸社さんのニチブンコミックスより刊行です。 


長谷川先生は 大学卒業後に劇画村塾に入塾、その後原哲夫先生のアシスタントを経てプロデビューした漫画家さんです。
代表作は03年より連載を開始した「ナポレオン」シリーズ。
タイトル変更などを経て今もなお連載の続く長期シリーズとなっています。

そんな時代物、歴史漫画のイメージの強い長谷川先生が今回描くのは、都市伝説を題材にしたホラー漫画。
ですがその作中で噂されているモノとは若干違う都市伝説の真実の姿を描く、一ひねり効かせたオムニバスホラーとなっているのです!



首の台にある「魔団地」。
そこには妖怪「クエクエ」が現れると言います。
噂話大好きな女子高生三人組、ミサミサ、サオリン、オグは興味全部でその魔団地にやってきました。
魔団地は、潰れてから数年以上たっている廃墟。
ここで当時、とんでもないことがあったと言うのです。
それは、あまりにもいたましいネグレクト。
シングルマザーの女が、幼児を置いたまま一週間も旅行に行ってしまった。
近所の人も気が付かず、その子はそのまま餓死。
あまりの無念さにその子供は幽霊となって彷徨い出て、食い物をくれ、とうめいたのですが、その子はあまりにも幼すぎました。
食い物をくれ、と言いたくても、口から出てくるのは「クエ、クエ」と言う言葉だけ。
その幼児の霊魂、クエクエにつかまってしまうと、死ぬほどの空腹を味わわされる……
そんな噂がささやかれていました。
が、そこでサオリンが声を上げました。
亡くなってません、と。
オグがノリノリで噂話をしている間、サオリンはネットを検索していました。
その事件があったのは、13年前。
当時のニュースを調べてみますと、「餓死寸前の女児を保護」と記されていたのです。
……つまり、幼児が死んだというニュースがないわけで、クエクエと泣く霊魂もいなかった、というわけ。
さ、帰るか、としらばっくれようとしたオグ、たまらずミサミサはここまで引っ張り出しといてそれか!と突っ込むのですが……
そんな時のことでした。
飛び回るカラスの鳴き声に混じって……明らかにそれとは違う、「クエ、クエ」と言う声が聞こえてきたのは……!

慌てて逃げ出す三人組。
そんな三人の姿を、誰もいないはずの団地の中からじっと見ている少女がいました。
三人組の制服と同じ制服をている、メガネにおさげの、見るからにおとなしそうな印象を受けるその少女……
三人組が立ち去ったのを見計らってその少女は、団地の奥へと向かいます。
そして、ひとつの扉を開かないように固定している何やら仰々しい閂を外して、空き家となって久しいその部屋に入っていくと……
そこには、
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一人の女が、鎖で繋がれているではありませんか!!

女は、絞り出すように声を出していました。
「クエ、クエ」、と。
少女は女に話しかけます。
声帯を焼いたのに、のどを使ってしゃべれるようになったのね、すごいわ。
そう言って、今日のご飯だと言って食パンを差し出します。
一日のご飯が、食パンたった一枚だと言うのでしょうか。
ですが少女は、まるで豪華な宝物でも差し出すかのように、でもなんと今日は、野菜ジュースもある!と紙パックのジュースを取り出したのです。
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健康には気を付けないと、と笑う少女。
美味しい?ねえ美味しい?ジュースを吸い、食パンを齧る女を見下ろしながら、少女は思い起こしました。
13年前、この部屋で餓死寸前まで追い詰められた時のひもじさを。
そして……半年前、街でそしらぬ顔をして歩いていたこの女、母親を見つけた時のことを!!
出所したとは聞いていたものの、会えるとは思っていなかった少女は、タイミングを見計らって母親を襲撃。
声帯を焼き切り、この部屋へと閉じ込め、監禁したのです。
少女は、母親に語りかけます。
お母さんはあたしにご飯をくれなかったけど、あたしは過ごしずつあげる、逃げられず、死なないくらいに。
だからもうあたしを一人にしないでね。
また明日来るわ。
そう言い残して立ち去ろうとする少女。
ですがその時、もはや抵抗する体力もないはずの母親が動いたのです!!
建物の劣化のせいか、母親の日々の抵抗のせいか、縛り付けられていた柱が折れていまして、母親は戒めから解放されていました。
そして少女が背中を向けた瞬間、その柱の欠片で後頭部を殴打!!
意識を失わせ、その隙に部屋の外へと出たのです!!
久しぶりに見る外の風景、日の光に歓喜のうめき声を上げる母親!!
少女はそこで意識を取り戻し、逃げる体力なんかないはずなのに、と起き上がろうとするものの……
ギリギリのところで母親は扉を閉め、閂をしたのです!!
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あけろ、と叫ぶ少女。
その言葉を意に介さず、母親は外に飛び出していきました!!
少女は叫び続けます。
出して、開けてお母さん!いい子にするから!!
ですがその声は母親には届きません。
長きにわたる監禁生活で、母親の体力は完全に消耗。
団地の敷地内で倒れてしまったからです。
……少女の叫び声は誰にも届かないでしょう。
捕まったら、死ぬほどのひもじい思いをさせられるという、「クエクエ」は本当にいる、と言う噂は、さらにひろまってしまっているのでしょうから……!!



というわけで、様々な噂の真実を描いていく本作。
面白いのは都市伝説の実態が全て噂されているものとは違うところでしょう。
違うと言うのは細部であったり、そもそもまるで違っていたりといろいろあるのですが、その違い方が様々なのです。
紹介した「クエクエ」はオカルトっぽいお話が実は「本当に怖いのは生きた人間」系だったというこう言った作品のお約束的なあれですが、実際にクエクエにあったものが飢えさせられるということが本当だったというオチまでついていました。
その他のお話もこう言う系統のものが主流ではあるのですが、だからと言ってオカルト要素がないわけではないと言うのがポイント!!
霊的なものなのか、人間の怖さなのか?
全話に用意されていると言っていい、予測不能のどんでん返しのあるストーリーが、どちらの方向でひっくり返してくるのかすらも予想できない面白さがあるのです!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!