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今回紹介いたしますのはこちら。

「山田飯」 伊藤静先生 

日本文芸社さんのニチブンコミックスより刊行です。


伊藤先生は04年にちばてつや賞で入選を果たし、06年に連載デビューした漫画家さんです。
ファンタジー的要素のあるヒューマンドラマを得意とされていた伊藤先生ですが、近年は食事漫画を手掛けられるようになってまいりました。
前作「三十路飯」に引き続いて食事漫画となった本作ですが、もちろん食事をメインにした漫画ではあるものの、少し変わった縛りと、きっちりと定められた軸が一つ用意されているただの食事漫画ではなく……?



スーパーでアルバイトをしている少女、成瀬もね。
そんなもねに、職場の同僚が声をかけていました。
ネズミーランド言ったことないの?今度俺のおごりで行かない?
……そんなわかりやすいアプローチをする同僚の男性でしたが、もねは興味ないですね、月曜から土曜までほぼバイト入れてますし、それに私やることあるんで!ときっぱり断るのです。
そんなもねの、「やること」とは……?

右手に持っているのはお給料の入った封筒。
そして左手はお腹に添えられておりまして、そのお腹は空腹を示す音を奏でております。
今日は給料日のお楽しみ、「やまだの日」。
そんなことを考えながら、もねはある店の前に立つのです。
その名も
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やまだや。
店の入り口のところに、「酒酔い及び泥酔者の入店をお断りいたします。」という貼り紙がされておりまして、その針が身にもねはちょっぴり怖気ついてしまうのですが……
それでも意を決し、扉を開けてのれんをくぐりました!!
中に入ると、普通の家族ずれらしきお客さんの姿も見える、普通のお店でした。
店員のおばさんはモネに気が付くと、あら可愛いお客さん、相席でもいいかしら?とにこやかにも根を案内してくれました。
見知らぬおじさんの向かいの席に座ったもね、居心地のよさそうなお店に安堵しながら、改めて店内を見まわします。
鹿のハンティングトロフィーや、小魚の入った水槽、こまごまと置かれた置物……
ともすれば乱雑な印象も受ける店内ですが、もねはそれを見て、味わい深い「やまだ」だ、と胸をときめかせるのです。
さて、それでは肝心のメニューを見てみましょう。
壁にかけられたメニューに目を移しますと……ずらりと並んだ豊富すぎる品数に目を奪われてしまいます。
かつ丼、海老天ドン、サーモンフライ、親子丼、モツ煮込み定食……
たくさんあり過ぎて全然決められない、と目を回してしまうもねですが、それを見かねた相席のおじさんがこうアドバイスしてくれました。
アジフライ定食、美味しいよ。

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運ばれてきたアジフライ定食は、二つに割った大きなアジが目を惹く魅力的なディナーでした。
もねは鞄からごそごそと、最近あまりみることのない、ごついポラロイドカメラを取り出しました。
店員さんに写真を撮らせてくださいと断りを入れ、撮影を行うもね。
なんでももねはお金がもったいないという理由で携帯電話を持っていないとのことで、こうして「やまだ」の写真を撮っているようです。
撮影が終わると、手を合わせていただきます、そしてアジフライにソースをかけ、早速一口口に運びました。
口の中に拡がる味は、子供のころ家族で食卓を囲んで食べたアジフライの思い出を思い起こさせるものでした。
もねはアジフライにはソース派、お父さんは醤油派。
そんな話をしたことが思い出されます。
衣はサクサク、身はホクホク、ソースが染みて絶品。
後を追って食べるごはんと絶妙にマッチし、付け合わせのマカロニサラダもそれらを引き立ててくれます。
幸せなおかずとご飯のループに舌鼓を打つもねですが、そんなもねに向かいの叔父さんは自分が注文してまだ手をつけていないお刺身を勧めてくれました。
お言葉に甘えて口へと運びますと、確かに脂ののった、口の中でとろけるそのお刺身は絶品!!
ご飯って幸せですねえ、とにこやかに笑うのです。

帰ってきた後、一人もねはアルバムに向かっていました。
飼い猫のクロがモネの下へやってきますと、もねはクロに話しかけます。
今日いいおじさんにあったよ。
今日の山田飯もおいしかったよ。
もう2年になるのか……
もねはアルバムに、先ほど撮影した写真を貼りつけます。
30、成増、やまだや。
そうメモ書きされた写真を見て、記念すべき30店目!と悦に入るもねなのですが……
本棚に飾られた、家族三人の写真を見ながら、こう呟くのです。
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いつか叶うと良いなあ、と。



というわけで、もねが「やまだ」の名を持つお店を廻っていく、「やまだ」縛りの食事漫画となる本作。
食事漫画としてはとても珍しく、本作では「モデルにしたお店」ではなく、そのお店そのものとして作品中にお店が登場し、各話の後にそのお店の住所や営業時間、電話番号と言ったデータが掲載されております!
全お店(と言ってもみんな東京の「やまだや」か「山田屋」なんですけど!)にきちんと許可を取って、子細なデータまで掲載しているのはもしかしたら食事漫画史上でも数えるほどしかないのではないでしょうか……!?
そんな各やまだで様々なご飯を食べては、笑顔と思い出を見せてくれるもねの姿たっぷりたのしむことができるのです!!

そんな本作ですが、やまだ縛りの食事漫画と言うだけではない見どころも用意されています。
そもそももねは「やまだ」じゃないの?という疑問を持った方もいるかもしれませんが、そのあたりも含めて徐々に徐々に物語の全体像が明かされていく、一本の軸をしっかりと持ったストーリー展開もまた魅力となっているのです!!
この後の第2話から登場する宮本君がまたいいやつでして、彼を交えて物語は一話一話、階段を上るように段階的に進んでいきます。
もねのが「やまだ」をめぐるようになったきっかけとなる出来事、もねの家庭事情、そしてもねが探し求めているモノ。
それらがしっかりと全1巻でまとめられています!!
食事漫画としての楽しみ方はもちろんのこと、もねの物語として読み応えのある本作。
今や乱立していると言ってもいい食事漫画ですが、本作はしっかりとしたテーマを描き切った一作となっているのです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!