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今回紹介いたしますのはこちら。

「不死の稜線」第1巻 八十八良先生 

エンターブレインさんのハルタコミックスより刊行です。


さて、死んでも何事もなかったかのように蘇る人間が暮らす世界の物語を描く本作。
前巻までは「不死の猟犬」のタイトルで、この世界に迷い込んだ普通の人間「ベクター」と、そのベクターと愛し合うことで不死の人間が死ぬ人間になってしまう「RDS」を廻り、戦いが繰り広げられる物語となっていました。
ですが今巻からタイトルを改め再スタート。
気になるその内容はと言いますと……?



三人組の少年が、一人の少年をトイレに連れ込み、いたぶっていました。
どうやら金をせびっているようですが……この世界では、やり過ぎて死んでしまったところですぐに生き返ります。
つまり、教師などにばれないように、服を破ったりしないようにさえ気を付ければ、どれだけひどい暴力を振るっても問題なし。
思いきり顔面を蹴りつけられたいじめを受けている少年は、顔から血をぼたぼたと垂らしながら、もうどうしてもお金は払えないと涙も流しながら懇願するのですが……
いじめをするような性根の腐った者達が、それで勘弁するわけがありません。
だったら金は明日で良い、そのツラで教室にも乗ったら問題になるだろ、死んですっきり復活しようぜ。
そう言って、一本のひもを取り出し……少年の首を思い切り締め上げたのです!!
他の二人は、殺せ殺せのコールを連続。
みるみるいじめられている少年の顔色はどす黒く変色していき……やがてがくりと力が抜けて崩れ落ちてしまいました。
そしてほどなくすると……傷どころか、流れ出ていた血まで綺麗になくなっていじめられている少年は復活します。
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あんだけボコられてもきれいに元通りだもんな。
人間に「復活」があってよかったな。
そう言っていじめっ子のリーダー格は嫌らしく笑うのです。
……そこに、たまたま一人の少年が通りかかりました。
若林、といういじめっ子たちの顔見知りらしいその少年、明らかにいじめをしているその現場に居合わせてどうするかと思えば、いじめに加担するでも助けるでもなく、興味ない、僕は何も見なかった、これで良い?と、「無視」をはっきりと表明して去って行ったのです。
その態度に、いじめっ子の中には不快感を示し、次のターゲットに使用かと囁く者もいたのですが……若林の兄は警察官。
流石に手を出すのはリスクがデカい、とリーダー格の男は冷静に判断するのでした。

そんな若林、そのいじめ……「復活ごっこ」のことを考えていました。
首をひもで絞め殺して、復活で生き返ったらまた殺す、というとんでもないいじめ。
まさしく死なないこの世界ならではの、死の苦しみを何度も味わうと言う恐ろしいいじめです。
ですが、そんな復活ありきのいじめが生まれるほど当たり前の「復活」なのですが、何故生き返るのかということは全く分かっておらず。
そう言うものだ、で済ませているのです。
しかし人間以外の生き物には復活はありません。
鳥についばまれ、食われてしまった魚。
その魚を見て、あのいじめられっ子も、魚だったら一回で済んだのにな、と思うのでした。

若林がやって来たのは、図書館でした。
もともと読書家の方ではあるらしい若林ですが、最近の目的は目下、よく来ているショートカットの女性でした。
いわゆるひとめぼれと言うやつでしょうか。
若林は本を読むふりをしながら、ちらちらとその女性の様子をうかがっていたのですが……
その女性、突然つかつかと若林の方にやってきて、声をかけてきたのです。
なんねキミ、ウチになんか用ね?
怒っている様子の彼女ですが……どうやら事情を聞いてみると、若林のことをストーカーか何かだと思たそうで。
誤解は解くことができたのですが、いざ話してみると方言バリバリで距離間の近いその女性、最初に思い描いていた人物とは違う性格であるらしいことがわかりました。
ちょっとがっかりしてしまった若林なのですが、話題が彼女の読んでいた本に移った後、その印象がまた変わるのです。
すでに読み終わっていたその本、若林は主人公の絶望と渇望が胸に刺さる、という印象を抱いていまして、大絶賛しています。
ところがその女性は、言うことがいちいち薄っぺらい、と言いだすのです。
あれが理解できないとはセンスもダメだ、と最初は内心毒づくのですが、何故そう感じたのかということまで聞くと、若林は思わず感心してしまいました。
主人公が生きてない気がする。
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多分復活のせいだけど、死んでも生き返る人には本当の絶望も渇きも書けないんじゃないだろうか。
少なくとも復活なんかしたくないと心底願ってからじゃない?
今まで考えたこともなかったその感想を聞いて、若林はハッとします。
その考えは面白い、絶望や乾きを描くのに復活が邪魔になる、その視点はなかった、これは自分には凄い発見かもしれない!!
その視点に気付いた若林はもう一度その本を読んでみよう、違う感想が出るかもしれないというのですが……するとその女性、後ろから若林をいきなり抱きしめ、可愛いなーもう、と頭を輪しゃわ者となでてきたではないですか!
弟みたい、という彼女の言葉に、ちょっとがっかりする若林。
彼氏みたい、のほうが良かった?とからかってきた彼女は、冗談上段と笑い、これからは友達ね、と微笑みました。
そして……彼女……久我カオリは、ここで思わぬことを切り出してきたのです。
そんなお友達にお願いがあるんだけど、いいだろうか。
死にたい人って周りにいない?
言い方が悪かったかな……
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死んだままになりたい人、「復活」したくない人、近くにいない?


というわけで、主人公を変えての仕切り直しとなる本作。
今回はこの若林とカオリを主人公として、「復活」をめぐるドラマが描かれることになります。
カオリはなぜ復活を望まない人物を探しているのか?
彼女に惹かれている若林は、彼女の語るそれらしい理由を聞いて、彼女の気を引くためにも動き始めていきます。
その結果にもたらされるものは、若林にとって驚くべきものとなるのです。
復活を持っているものが住む世界、そしてその世界にいる復活の無い人間、ベクター。
その二つの存在と、二つの存在が交わったときにおこる「RDS」、そこに生まれる物語をじっくりと描いていくお話になるようです!!

若林とカオリが主人公となる本作ではありますが、「猟犬」から完全に仕切り直しと言うことはない様子。
早くも「猟犬」のキャラが出てきますし、それを口火としてきな臭い雰囲気も漂い始めます。
おそらくゆくゆくは「猟犬」キャラも登場し、物語は融合していくのでしょう。
バトル多めだった「猟犬」に比べてこの「稜線」はどうしても絵面は地味になってしまいますが、だからこそこの「復活」「ベクター」「RDS」の謎を探るにはふさわしいストーリーになりそう!
本作の最大の謎であるこの世界の構造、そこに迫っていくことになるのでしょうか?
その中で、若林やカオリの迎える運命は……?
雰囲気は変わっても、先の展開の楽しみさは変わりません!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!