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今回紹介いたしますのはこちら。

「しずまれ!ヴィンセント」第1巻 かいれめく先生 

講談社さんのシリウスKCより刊行です。


かいれ先生は14年にシリウスの新人賞で奨励賞を受賞し、その後18年よりマガジンポケットにて本作の連載を開始、そのまま初単行本刊行となった新人の漫画家さんです。

そんなかいれ先生の初連載、初単行本化作品となる本作、とんでもない人物(?)に翻弄されるギャグマンガとなっております。
ですが、単なるギャグマンガではないようで……!?



鏡の向こう側に存在する、「エターニュイ」。
太古の昔に「夜獣」と言う災獣に太陽を喰われ、永遠に朝を迎えることのなくなった王都です。
そこからはるか遠く離れた塔に、彼らはいたのです。
国威に身を包んだ一組の男女……
そして彼女たちは、不届きな狼藉者に鉄槌を下します。
聖地を踏み荒らす愚かな罪びとよ、楽園の花々による制裁を受けよ!
「執行せよ(エグゼクトル)!!」

……と、言うお話だったとさ。
これは、今春より高校生に進学する、秋良キミエが中学生時代までに描いてきた、妄想ノートのさわりです。
キミエは中学生活三年間、ほとんど一人で過ごしてきました。
が、彼女の中では一人ぼっちで貼はありません。
彼女のそばには常に、「ヴィンセント」と言う鏡の世界の薔薇の騎士が(脳内で)つき従っていたのですから!!
ちなみに鏡の世界でのキミエは、呪われし姫「キミュエル」。
クラスに今一つ溶け込めないのも、自分が呪われし姫だからだと考えると……特別苦にもならなかったわけです!
が、そんな彼女を変える事件が起きてしまうのです。
ある日教師から頼まれた、卒業文集の表紙イラスト。
生徒よりも上の立場(だとキミエが思っていた)から頼みごとを、それも大好きなイラストの作業を頼まれた。
もしかしたらこのイラストをきっかけに、みんなにも認めてもらえるかもしれない!
キミエはうかれながら、おなじみのエターニュイでヴィンセントなイラストを仕上げるのでした。

……当然、
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みんなの反応は最悪。
ひどすぎる、とクラスの皆にささやかれ、先生には秋良が一生懸命書いてくれたんだからそんなことを言うなとフォローされると、今度は「なるほどね」と……腫れ物に触るかのような態度を取られ……
そこでようやくキミエは悟ったのです。
自分がかっこいいと思って描いていたものは、みんなにとって「意味不明なもの」にすぎず……
自分のせいで、学年全員の思い出をすべて台無しにしてしまったことを!!

自分の描いていた妄想ノートの全てを燃やし尽くし、黒歴史と決別。
そして長かった紙をばっさり切って明るい色に染め、可愛いリボンなんかをしてガラッとイメチェン。
いわゆる一つの高校デビューをもくろんだのです!!
呱呱には中学時代の自分を知っている人はいません。
大丈夫、新しいスタートを切れるはず。
元気な挨拶とともに高校生活の最初の一歩、友達作りに励もうとするのですが……
なんということでしょう。
誰にも見られたくないから遠い街のゴミ捨て場に捨てようとしていた卒業文集が……寝ぼけまなこでいじっていたせいか、鞄からはみ出ていたのです!!
慌ててそれを隠して、中学時代が懐かしくてつい持ってきちゃった、とごまかすキミエ。
するとクラスメイトは、わかる、あたしも彼氏と別の高校になっちゃって、いっしょだったころが懐かしいんだよね、とキミエには全然わからない同意の仕方をしてくるのです。
とりあえず合わせておこう、と適当な返事を返すキミエ。
すると、クラスメイトは意外なほど食いついてきまして……キミエは嘘だよともいえず、カレとは休み時間はずっと一緒だったし、よくお菓子を作ってあげていた、と答えておくことにするのです。
まあこれは100%嘘と言うわけでもなく、ヴィンセントとはいつも一緒でしたし、彼氏に供物を捧げる、とおどろおどろしいお菓子を作ったりもしていましたから。
と、その時でした。
サッと文集を奪い、表紙も凝ってるね、ちょっとサイケデリックだけど、と悪戯そうに語りかけてくるクラスメイト、紺野めぐみが現れたのは!!
表紙をチラ見されるだけならまだしも、そのイラストを描いたのが自分で、さらに自分のページにはもっとすさまじいものがあることを知られてはもうすべてが終わりです。
慌てて取り返そうとするキミエですが、そこでいち早く文集を取り返してくれるクラスメイトも現れました。
飯田のあ、という可愛らしいクラスメイトです。
ただちょっと独特の世界観を持っている子のようで、わすれんボンバー!と謎の呪本を唱えながら文集を閉じ、人のもの勝手に見ちゃダメだよ、とみんなを一喝。
そして、いまのわすれんボンバーでみんなの記憶は全部消えたから安心して!と言い残して去って行く……優しい嵐のような少女だったのでした!!

のあのおかげで難は逃れたものの、まだまだ油断はできません。
一日文集を何とか守り抜き、放課後にあとは捨てに行くだけ……と思ったその時、事件は起こってしまいました。
なんと文集が、なんだかおしゃれな女の子向け雑誌にすり替わっていたのです!!
何食わぬ顔で、やっぱりキミエが持ってたのかと文集を持って現れためぐみ。
ついうっかり取り違えた、と言う風を装っているようですが……もちろんそれは策略!!
もうすっかり見られたくなかった中味を見尽くされてしまってるようで……
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中味の写真を貼るスペースに描かれたヴィンセントとキミュエルの漫画も、思い出や将来の夢を書く欄に記された謎の創作小説も、楽しかったことベスト3の欄にはしょんぼりな出来の3コマ漫画が描かれていることも……キャラになり切って、自分への寄せ書きを描いていることも、全て見られてしまっていたのです!!
崩れ落ちるキミエに、めぐみはいいます。
頑張ってイメチェンしたんだね、彼氏がいるって嘘までついて、そこまでして人気者になりたかった?
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そんなことしたって、人に好かれるわけないじゃん。
……そんなめぐみの残酷な言葉が、キミエにはすべて真実に聞こえます。
その通りだ。
私は3年間ほとんど一人で過ごしてきた。
本当はずっと寂しくてたまらなかった。
それなのに傷つくのが怖くて、自分の世界から踏み出すこともできずに、何もかも終わってしまった……
本当はみんなと仲良くしたかったし、いっしょに思いでだって作りたかった。
だから変わろうと思ったのに、
頑張ったのに、結局無駄だったんだ。
……ところがどうしたことでしょう。
そんなキミエに語り掛けてくるものが現れたではないですか!
そうだ、おまえは永遠に変われやしない。
だがそのままで良い。
変わる必要なんてない、お前はお前だ!!
お前はそのままが一番美しい。
そう言っておらわれたその人物は……何と言う事でしょうか。
いるはずのない、現れるはずのないあの人物……
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ヴィンセント(原画ママ)だったのです!!!



と言うわけで、まさかすぎるヴィンセントの登場で物語は幕を開ける本作。
このヴィンセントはとりあえず今のところキミエにしか見えないのですが、妄想が行き過ぎて幻覚を見るようになった、と言うわけではございません!!
この自分の生み出してかつての理想だった彼は、いまとなってはツッコミどころの塊。
そんな彼にぐったりさせられながらも、その彼なりの暖かな言葉に励まされ、勇気づけられ、友達一杯の高校生活へ向けて進んでいく……
と、言うお話なのはとりあえず間違いありません。
ありませんが、本作はここにまさかのちょっとしたバトル要素が盛り込まれてきます!!
当然ヴィンセントがキミュエルとともにエターニュイで戦ってきたような激闘が繰り広げられるわけもなく、その戦う相手は……また別の「過去の亡霊」の様なもので!?

お話的には意外に(?)シリアスな題材も取り扱っていたりするのですが、ヴィンセントの圧倒的な存在感のおかげでコメディとして楽しく読める本作。
キミエは過去と決別して楽しい青春を送れるのか?
それとも過去を受け入れたうえで新たな一歩を進むのか?
そんなキミエの青春とともに、バトル展開も楽しみなお話となっているわけです!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!