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今回紹介いたしますのはこちら。

「双亡亭壊すべし」第12巻 藤田和日郎先生 

小学館さんの少年サンデーコミックスより刊行です。


さて、双亡亭での戦いが激化していく本作。
務たちが暗渠を目指してトンネルを掘ろうとする侵略者たちをどうにか止めようとしている一方で、紅は泥努にとらえられ、彼の絵のモデルをせざるを得ない状況になっていました。
この屋敷の主と言える泥努と二人きりと言うのは非常に危険な状況ですが、それでもこれは双亡亭を壊すためのヒントを得るチャンスかもしれません。
紅は希望を捨てず、チャンスを待つのです。



泥努の言うままに、紅は一糸まとわぬ姿となり、ポーズをとっていきます。
その間に、泥努は自分の目的が全ての鑑賞者の脳を揺らす絵を描いて「奴」のように売れる絵を描く事だという事実を明かし……そして彼の過去と、彼が誰よりも愛した姉、しのぶの話を始めました。
幼い日の泥努……由太郎は、家族からうとまれ、座敷牢に入れようとまで言われたといいます。
それは彼が、音に色がついて見えたり、文章に音楽が聞こえたりする、共感覚の持ち主だったからです。
今でこそ共感覚と言う特異な力が知られていますが、由太郎やしのぶがおさなかった明治の時代では、珍しい……と言うよりも、普通ではない隠すべき存在、のように思われていたのでしょう。
由太郎はそんなことも知らず、自分の感じたままを周囲に話していた為、厄介な病気の持ち主だと誤った判断をされてしまったようです。
しかしそこで由太郎をかばったのがしのぶでした。
実は彼女も共感覚の持ち主。
ですが彼女は持ち前の勘の良さや思慮深さのおかげで自分のそんな能力を周りに知らせない方がいいと早々と悟っていたようで、能力を隠してごく普通の人間としてふるまっていたのです。
同じ能力を持つ自分は全然変じゃないだろう、由太郎もすぐに普通になるから、閉じ込めないでくれ。
涙ながらに忍が父に懇願し、由太郎は座敷牢入りを免れることができたのでした。

幼いころから自分を助けてくれたしのぶ。
彼女もまた、絵を描くのが好きだったといいます。
ですが、泥努はそんな彼女を振り返りながら、おぞましい雰囲気を帯びながら語ります。
姉は帝都の美術学校に行き……そこで、下らん絵描きにボロボロにされた。
私はな、そうやってやっと家に戻ってきた姉をな。
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こうやって、しめころした。
お前は姉に似ている、知る権利があるかもな。
私の胎内にいる「侵略者」どもが、わたしの記憶をお前に見せるだろう。
見て来い、私のあの夜を。
泥努の龍馬からどろどろと流れ落ちる、侵略者。
それは紅の目に注がれ……そして、由太郎が泥努になったきっかけともいえる苦悶の思い出を映し出すのです。


しのぶのことが大好きだった由太郎。
好きだからこそ、姉の絵ばかり描いていた由太郎は、学校でいじめられてしまっていました。
女の絵ばかり描く腰抜けめ、それでも男か。
そういわれて殴られた、とべそをかく由太郎に、しのぶはやさしく勇気づけるのです。
書きたいものを描けばいい、由太郎はいい手筋を持っているんだから、今に家の学校に入って見返してやればいいんだ。
姉ちゃんはどんな時もあんたの見方だ。
そう言って、隣に座ってにこやかに笑うしのぶ……
由太郎にとって、このころが一番幸せな時間だったのでしょう。

その幸せは、しのぶが東京の美術学校に行く事になって壊れてしまいました。
厳格で、当時の父親らしい堅物である父親も渋い顔をしていたものの、やはり絵を描きたいという彼女の気持ちと、その才能を見せられては頭ごなしに却下することもできなかったようです。
由太郎も……本音を言えばしのぶが遠くに行くのが嫌で嫌でたまりません。
ですが、自分も絵を描くのが好きだからこそ、彼女のもっと絵がうまくなりたい、と言う気持ちがわかるのです。
姉ちゃんの為だ、といかないでくれと言う言葉をぐっと飲み込み……なんとかしのぶを見送った由太郎。
絵の修業が終われば帰ってくるんだ、と歯を食いしばって、その日を待つのことにするのです。

が、ある日届いた手紙には衝撃的なことが書いてありました。
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かねてから尊敬し、お慕いしている方と、心弱くも離れがたくなってしまいました。
……好きな男ができて、どうしても離れられない。
予想もしなかったしのぶの手紙に、呆然とする由太郎。
ですが由太郎よりも、父親の方がその手紙が頭に来ていたようで。
連れ戻しに行く、とすぐさま東京に向かったのです。

なんでもしのぶは、月橋詠座という有名画家にモデルを頼まれたのがきっかけで、思いあうようになったようです。
しかし詠座は、妻子ある身。
有名画家だろうがなんだろうが、娘を妾にさせるために絵をやらせたんじゃない、と言う父親の怒りもわからないではないでしょう。
そして残された由太郎は、父と父が連れ帰ってくるであろう姉を待つ間に、遠方の本屋を訪ねてその詠座の画集を見に行っていました。
書店の店主によれば、詠座は貧しい家に生まれ、働きながら独学で絵を学んで31歳でようやく認められて出世した苦労人なのだとの事。
ですが……由太郎から見れば、詠座の絵は「気の抜けたフニャフニャの線で描かれたへたくそな絵」にすぎません。
あれなら姉ちゃんの絵の方が100倍うまい、変な女の絵ばかり描いてキモチワルイ、31歳のじいさんのくせに姉ちゃんと愛し合うなんて間違いに決まってる。
父ちゃんが姉ちゃんを連れ帰ってくれれば目が覚めるはず、そうすればまた一緒に絵が描ける!!
そう思い込んで、駆け足で家に帰りますと……ちょうどそこに、父としのぶが帰ってきていました。
満面の笑顔でしのぶを迎えようとする由太郎。
ですが……
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しのぶは全身に生気のかけらも感じさせない、抜け殻のようになっているではないですか!
あの姉ちゃんが、どうしてこうなってしまったんだ。
あの画家が姉ちゃんから、元気も笑顔もみんな吸い取ってしまったのか。
見たこともない、みんなに大人気の、へたくそなあの画家……
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月橋詠座が!!
地獄の窯のように煮えたぎる、由太郎の怒り。
怒りに怒り、怒り狂って……
この後由太郎は暗黒の坂を音を立てて転がり落ち……
坂巻泥努になるのです。



というわけで、泥努が泥努となる悍ましく、悲しい事件を描いていく本作。
この後、由太郎は痩せ衰えていくしのぶを前に、愛と憎しみを暴走させていくこととなるのです。
はたして由太郎はしのぶをいかにして「しめころした」のか。
月橋詠座への抑えきれない怒りをどう吐き出したのか。
そして、その過去を間近で見た紅は……!?
衝撃的な過去と共に、巻き起こっている衝撃的な現在を描く、見逃せない内容となっています!!

この泥努の過去が、現在まで続く双亡亭の戦いの決着のヒントとなるのかもしれません。
ですが、今まさに地球人類の危機を防がんとしている務たちにとっては、そんな悠長なことを言っている場合ではないのです。
トンネルを掘り進めている侵略者の手ごまたち。
彼らを止めるには、ツトムたちではあまりに多勢に無勢。
一体どうすればトンネル掘りを止められるのか?
一刻の猶予もないこのピンチを切り抜ける、その方法は……!!

そして物語はまたも新たな展開へ!!
戦う中で侵略者の考え方も変わり、そして務たちも対抗するための新たなカギを見つけて……?
めまぐるしく変わっていく戦局、次は人類の攻勢となるのか、それとも!?
まだまだ目の離せない展開が続いていきそうです!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!