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今回紹介いたしますのはこちら。

「ロストフード 絶対味覚探偵モズの事件譚」第1巻 赤名修先生 

講談社さんのイブニングKCより刊行です。


赤名先生は「勇午」シリーズで知られるベテランの漫画家さんです。
アニメ化された「勇午」だけに限らず、様々な雑誌でオリジナル作品に原作付き作品にと活躍を続けておられます。

そんな赤名先生の最新作となる本作。
お話のジャンルとしては現代社会での事件解決ものとなっているのですが、取り上げている内容は単なる「事件」ではなく……?



目隠しした状態で、「7番目」のラーメンを食べる男、百武推理。
彼はアルバイトのアシスタント、メエちゃんとちょっとした賭けをしています。
それはインスタントラーメンの味と香りのみでの見分け、いうなれば「利きラーメン」。
何度となくやっているこの賭け、今回は難易度を上げるために醤油ラーメンのみに絞ったのですが……
この百武と言う男、ただものではないなんてものではないようです。
全ラーメンを難なく当てるだけでは終わらず、三番目のラーメンに調味油が入れ忘れられていたこと、そしてメエちゃんが仕掛けた、2番目と3番目、5番目と7番目のラーメンの麺のみを入れ替える、というズルまで見破ってしまうのですから!!

賭けに負けたメエちゃんですが、ラーメンに罪はありません。
7つのラーメンを残さず食べる為、百武とともに箸を取りました。
そんな中、メエちゃんはふとこんなことを疑問に思い、百武に尋ねます。
日清のチキンラーメンってなんであんなに有名になったのか、と。
百武はその理由を、こともなげに説明し始めました。

チキンラーメンは面を油で揚げてスープに浸して味付けした即席麺として開発された。
家庭で手軽に作れるこのラーメンは商業的に大成功を収めて、インスタントラーメン第一号となった。
ただ、発売された1958年当初、値段は35円。
その値段だと当時は店で中華そばが食べられた。
売れるわけがないと思われていたが、そこで日清は即席めんで初めて新聞広告を出した。
「お湯をかけて2分間」。
そのキャッチコピーのおかげで「魔法のラーメン」としてチキンラーメンは飛ぶように売れた……

そうやって幕を開けたインスタントラーメンの歴史。
チキンラーメン以降、四条に出たラーメンの数は1000を超えています。
ですがそのほとんどが消えて行き、今も残る定番と言えるのは、66年のサッポロ一番、チャルメラ、68年の出前一丁……そのあたりの、文字通り数えるほどの数しかありません。
それを聞いたメエちゃんは、まるで売れないアイドルみたい、誰からも望まれてないんだよ、とうなだれてしまいました。
ですが百武は言うのです。
それはどうかな、一部に熱狂的なファンがいても消える、惜しまれつつも消える、その時代の味覚に合わなかったり、一度は評判になっても手に取ってもらえなくなったり、もする。
目新しいところでは「カール」がいい例だ。
……寂しいことですが、それが現実です。
でも、いつか復刻されると、「懐かしい」「この味好きだった」ってなるよね、きっと。
そう呟くメエちゃんに、百武はうなずきました。
サブカルチャーなんだよ。
その味に触れると食べていた記憶まで蘇る。
それが
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「ロストフード」の魅力だ。
メエちゃんは本業の方に向かいました。
駅前アイドルグループのゲリラライブに。
私が消えないためだよ、と嘯いて去って行く、そんな彼女と入れ替わるかのように二人の男が百武のいる探偵事務所に入ってきます。
二人の男のうちの一人は、百武に「ペー」と呼ばれておりまして、頻繁に彼に探偵の仕事を頼む顔見知りのようです。
そしてもう一人の男は、なんと外務省アジア大洋州局の事務官の大森と言う男です。
一体そんな大物が、正直を言ってあまり繁盛しているとは言えない百武の探偵事務所に何の用なのでしょうか。
それは、百武の本業である探偵……ではなく、彼の持つもう一つの顔、「百舌(モズ)」への依頼なのでした。

アレクセイ・ドランスキー。
K国の総書記の長男で……16年前、日本に偽造パスポートで入国し、拘束。
国内で立件すべきか、K国に引き渡すべきか、当時の日本では大激論が巻き起こりました。
結局は即時送還が決まり、アレクセイはK国の飢餓や国民の生活向上に尽力しているからと言う事で「支援物資」までつけることになったのです。
結果として翌年、日K首脳会議が実現し、甘すぎると言われたこの処置も間違いではなかったと言えましょう。
ですがアレクセイ自身はこの件で父の怒りを買って後継者候補から外され、父なき今は三男が後継者に。
アレクセイは三男による粛清を恐れて亡命生活をしている……
と、そんなアレクセイがこの度、アメリカ政府の要請で1日だけ来日することになりました。
このチャンスを逃さず、16年前の屈辱を晴らし、供述を引き出す!
日本政府はそう意気込み、アレクセイの出してきた要求をできうる限り叶えてきたのです。
……が、ひとつだけ検討すらつかないものがありました。
それが……「ターザン」。
ターザンが食べたい、と要求されたものの、八方手を尽くしてもそんな料理も店も見つかりませんでした。
百武は飼い犬と戯れながらその話を聞いていたのですが……やがてその口を開きました。
前回の来日は2001年5月だよな?
気になるところはあるが、おそらく
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レトルトカレーだ。
あったんだ、「ビーフカレーターザン ビーフ&ビーフ」。
……当時の支援物資の中にレトルトカレーが入っていてもおかしくはありません。
十分あり得るその解答ですが……そのターザンとやらは他のものと何が違うのでしょうか。
レトルトカレーは牛肉が3%以上入っていれば「ビーフカレー」を名乗れます。
ターザンはそんな中で牛肉をたっぷり使用し、肉の塊がごろごろ入っているというビーフをさらに前面に押し出したもので。
製造メーカーは、「小さな島をたくさん作る」と言う商品開発戦略を敷く、とがった商品開発で常に新価値の創造を目指す企業……「永谷園」!
その商品名は雑誌の「ターザン」とのコラボでつけられたもので、若者に訴求しようと考えた結果のようです。
……そして問題は今どうなっているか、と言うところでしょう。
生産は当然終わっています。
手に入れるのはほぼ不可能でしょう。
……そこで、いよいよ「百舌」への依頼と言うわけです。
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そのカレーターザンを、再現していただきたい。
あなたがロストフードをよみがえらせる男と言う情報を得たからこそ、私はここへ来たんです。
アレクセイとの交渉をコントロールする対話の鍵なんです!
真剣なまなざしで語る大森。
……百武は、少し時間が欲しい、と背を向けたままつぶやきました。
来日は三日後。
それじゃ無理か?と尋ねてくるぺーに……百武は、玄関の扉を開けて外を指し、さっさと帰ってくれ!と言い放ちました!
やはり時間が足りないから不可能だと言う事なのでしょうか?
顔から血の気を引かせる二人に、百武はさらに言うのです。
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欲しがるねぇ。
だから仕込むんだよ、今すぐ。



と言うわけで、失われた食品、「ロストフード」にまつわる依頼を解決していく本作。
この第1回の永谷園「ビーフカレーTarzan」と言う大材からもお分かりかと思いますが、こう言った消えて行ったレトルト食品やお菓子、ファミレスのメニューのような、復刻でもされない限り二度と食べることのできない、一時だけ存在したものを取り上げていくことになります。
今回のターザンの他、第1巻にはデニーズの「ジャンバラヤ」、そしてロッテのチューインガム「イヴ」が登場。
ジャンバラヤって何度も復刻してるじゃないかと思う方もいるでしょうが、その復刻についてのあれこれもしっかり描かれておりまして、当時を懐かしむだけではない、蘊蓄を楽しむ要素も含まれているのです!!

そんなロストフードの復刻にからめた事件の解決も本作の目玉。
K国総書記の息子との交渉、というなかなか大仕事で始まる本作ですが、「ジャンバラヤ」ではかつて人気だったバンドの再結成に関しての仕事と言ったちょっとした事件も。
「イヴ」の回では事件ですらない内容になっていきそうですが……どれもロストフードと切っても切れない関連性のある唸らされるものばかり!
ロストフードも事件解決も、どちらも楽しめる作品になっているのです!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!