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今回紹介いたしますのはこちら。

「忘却のサチコ」第11巻 阿部潤先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。


さて、徐々に俊吾さんの呪縛から逃れつつあるサチコさん。
毎日の仕事とおいしい食事のおかげで何とか立ち直りながらも、心のどこかには常に俊吾さんの影がちらついてしまいます。
果たして今巻ではどのような事件が巻き起こってしまうのでしょうか……?



サチコさんの元に手紙が届いていました。
蝋で封じられているこの手紙……結婚式の招待状でしょうか。
差出人は、三重県の山本春棋なる見慣れない名前、と思いきや、連名で友人のジョゼの名も記されているのです。
ジョゼが結婚、しかも三重で?
いろいろな疑問が浮かぶサチコさんですが、とりあえず中身を見てみることにしました。
そこには以前飛騨高山でお世話になったお礼と、突然結婚の報告をすることへの謝罪、そして結婚式に出席してほしいと言った旨が記されていたのですが……
ジョゼからの手紙に目を走らせているその最中に、そのジョゼから電話がかかってきたのです。
ジョゼの結婚の報告を聞き、スムーズに受け答えができたサチコさん、自らの成長を実感するのです。
ところがその後伝えられた、ジョゼからのお願いを聞いて流石のサチコさんも硬直してしまいました!
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サチコに、友人代表のスピーチをお願いできないでしょうか?
……嫌が応にも思い出される結婚式のトラウマ。
呆然としてしまうサチコさんに、ジョゼも申し訳なさそうに続けます。
やはり難しいですよね、サチコが大変な体験をしたと聞いたのに、親友と言ったらまずサチコが思い浮かんでしまいまして……
ジョゼを親友と思っているのはサチコさんも同じ。
自分への思いをしっかりと感じ取ったサチコさん、その想いをむげにするわけにもいかず。
結局友人代表のスピーチを受けることにしてしまうのでした。

そこからサチコさんの戦いは始まりました。
もろもろの事情を知っている編集部の面々は、彼女が結婚式のスピーチをすると聞いて戦々恐々。
一人新人の小林だけは、サチコさんならスピーチも完璧なんでしょうね、会場でびしっと決める姿が目に浮かびますよ、と笑うのですが……
先輩にそっと事情を教えられ、さしもの小林も驚くのでした。

スピーチの原稿の執筆自体は滞りなく進み、あとは二人の馴れ初めを詳しく聞いてそのエピソードを入れ込むだけとなりました。
問題はやはり、これをしっかりと読めるかどうか、です。
少しでも慣れるため、あの日の写真を引っ張りだして自分の周りに配置し、その中で原稿を読み上げるという儀式めいた訓練から始めるサチコさん。
そして
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事件直後常用していた、俊吾さんへの思いを断ち切るための「心の仏像」まで復活させ、俊吾さんに少しの間成仏してくれ、とりんを叩きまくるのでした……

涙ぐましい努力をしているうちに、早くも結婚式前日になってしまいます。
少しでも時間を稼ごうと、かなり早めに現地へ向かったサチコさんですが、やはり余裕は全くありません。
そんな時電車がたどり着いた駅が、松阪でした。
そう言えば以前こんなことがあった、と思い起こすサチコさん。
その記憶は、俊吾さんと同棲していたころ、彼が旅行のお誘いをしてくれた時のモノでした。
今度一緒に伊勢の方に行かないか、すこし奮発して松阪牛のお店とかどうかな。
今月はサチコさん担当の単行本発売が5冊も重なって忙しいみたいだし、ひと段落したときに気を緩めてさ。
そんなお誘いに、サチコさんはこれから結婚するんだから、高級なお肉を食べに行く旅行のお金を貯蓄して、結婚式などに備えるべきだ、ときっぱり断ってしまったのです。
確かにその意見ももっともではあるのですが……今思い返せば、冷たすぎる物言いだったのではないでしょうか。
さらに気持ちは暗く沈み、このままではスピーチもできなさそう……
なのですが、これが逆にチャンスではないか、とサチコさんは考えました。
ここで忘却できれば、きっと乗り越えられる。
サチコさんは予定を変更し、松阪で電車を下車したのです!!

来てみたお店は、ちょっと変わった焼き肉店でした。
そこは普通のお座敷もあるのですが、主に一人客様に「回転焼肉」席があるお店なのです!!
回転ずしのようにお肉が流れているそのお店、肉の流れるレーンはきちんと扉がしめられていて冷房も完備。
さらにお皿を取る時のみ開閉すると言う、回転ずしにありがちな長時間廻りっぱなしのものが流れ続けている哀しい風景対策もばっちりです。
お値段も比較的お手頃で、楽しくお財布にも優しいシステムなのです。
後は味ですが……もちろんこちらも心配ご無用。
サチコさんはセオリー通りまず牛タンから食します。
こりこりの触感に絶妙な塩味、ネギとの相性も抜群で言う事なし。
次に口に運ぶカルビは、口に入れた途端すっととろけるような口当たりの良い味わい。
そして厚めのランプ肉は、噛むたびに上質で濃厚な甘みがこもった肉汁が溢れ出てきて……
これが松阪牛の実力、口に運ぶたびにお肉と一緒に身も心も溶けていくよう……
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思い出の地での忘却によって、ようやくしっかりした手ごたえをつかんだサチコさん。
これでスピーチもイケそうだ、と待ち合わせ場所の伊勢神宮へと向かいました。
そこではジョゼがもうお待ちかね。
二人で深々と礼をして挨拶をかわしまして……本題の二人の馴れ初めを聞くことにしたのです、が。
そこで思いもよらなかった事実を知ることとなってしまうのです。
ジョゼの結婚相手、春棋。
その字のまま、「ハルキ」だと思っていたサチコさんだったのですが、ジョゼがよく間違えられるけど読み方が違うよ、と教えてくれたのです。
その読み方は……まさかの
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「シュンゴ」!!
ただでさえ薄氷の上に立っているかのような状態だったサチコさんに襲い掛かる、まさかの最後の関門……!!
はたしてサチコさんは、ジョゼと「シュンゴ」さんの結婚を祝福するスピーチを読むことができるのでしょうか!?




と言うわけで、実に1年9か月ぶりの単行本刊行となった本作。
阿部先生の体調不良によって長い間休載していた本作ですが、18年より連載が再開され、この度めでたく新刊の刊行と相成りました!!
連載再開後第1話となるエピソードはこのジョゼの結婚話の後に収録されているのですが、復活を待ち望んでいたのは読者だけではなかったようでして。
明らかに気合の入った作画が、阿部先生の意気込みをひしひしと感じさせてくれることでしょう!!

そして今回紹介したエピソードや、その復活後のエピソード以外にも見どころは満載!
肉吸いと言ったローカルフードから、メジャーな鎌倉のしらす丼、前中後編で描かれる百人一首にまつわるスポット巡り編と盛りだくさん!!
おいしそうな食事はもちろんの事、時折見せるサチコさんのコスプレ、ゲストキャラとサチコさんの絡みなどなど、様々な要素が楽しめるのです!!

さらに今巻に収録されている最後のエピソードでは、お話が大きく動きそうなあるイベントが勃発!
ひょっとしたらひょっとするかもしれない今後のドラマにも注目せざるを得ませんよ!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!