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今回紹介いたしますのはこちら。

「ひとりぼっちで恋をしてみた」第1巻 田川とまた先生 

講談社さんのヤンマガKCより刊行です。


田川先生は14年にスピリッツの漫画賞で準入選を果たし、デビューした漫画家さんです。
その後コミックゼノンでの読み切り発表などを経て、18年に月刊ヤングマガジンで本作を連載開始。
初連載作でめでたく初の単行本刊行となりました。

そんな田川先生の描く本作は、一人の少女の奮闘を描いていくお話となります。
普通の女子高生に見える彼女が悩み、恋した末に、ある行動をとることになるのですが……



野田有紗は、いわゆる「天然」です。
朝ご飯では寝ぼけてねこまんまにソースをかけてしまったり、登校中には足を滑らせて雪の中で派手に転んでしまったり。
友達にはそんな彼女のとるリアクションが大うけで、変な味のキャラメルを食べさせて笑ったりと、弄られキャラにもなっておりました。
ですが有紗はそんな現状を嫌っています。
自分がいじられキャラだから、などと言ったことにではありません。
「天然がかわいい」と言われていることに、です。
自分は馬鹿で、どんくさくて、不器用で、騙されやすいトンチンカン。
いつ誰に迷惑をかけるかもしれない自分を、「かわいい」なんて言えない……

有紗がうとうとしている間に、教室からクラスメイトのほとんどが出払ってしまっていました。
友達によると、現国の先生がおやすみで次の授業が倫理になったため、移動教室になったのだとのこと。
チャイムが鳴る前に移動教室の移動先にたどり着きますと、そこでは倫理の先生である豊崎先生が、机に突っ伏して眠っておりました。
顧問を務める演劇部の活動が忙しいのでしょうか。
有紗は休み時間が終わるまで寝かせてあげようとするのですが、友達二人は先生の近くで大声を張り上げ、おはようございます!と起こしにかかったのです!
びっくりして起きる豊崎先生。
その時すでに友達二人はかがみこんで豊崎先生の死角にいたため、自分を起こしたのが有紗だと勘違いしたようです。
見かけによらずに乱暴な起こし方するのな、次からは肩ポンポンでたのむな、と有紗に語り掛けてきまして……
私、起こしません!と思わず誤解を招きそうな答えを返す有紗ですが、そこで豊崎先生は有紗が今朝転んだ時にできた傷に気が付き、絆創膏を渡してくれました。
そこで友達たちが飛び出してきまして、大成功、と囃したてて……
先生と友達たちの会話が始まると、そそくさと席に向かう有紗。
そしてもらった絆創膏を筆箱の中にそっとしまい、心の中でこう決めるのです。
お部屋に飾ろう、そうしよう。

放課後、誰もいない美術館にこもり、鍵をかけて有紗はキャンパスに筆を走らせます。
描くのは、豊崎先生の肖像。
本物はもっとかっこいい、などと言いながらとりあえず納得のところまで描き上げますと、自分で描いた先生の絵を使って寸劇を始めました。
先生、写真を撮らせてくれませんか?
実は私、今日誕生日なんです!
おお、おめでとう!
でも写真なんかで良いのか?もっと欲しいものがあるんじゃないのか?
じゃあ先生の……く……
そこまで演じたところで、なんちゃって、なんちゃってなー!と演技を中断。
飲み物を買おうと美術室を出るのですが……美術室を出た廊下の隅に、豊崎先生が座り込んで眠っているではありませんか!!
例の寸劇が効かれていたと言う事はないでしょうが、思わず隠れてしまう有紗。
ですがすぐに意を決して外に出て、眠っている先生の写真を撮影しようか、と携帯を取り出しました。
写真最手に入ればデッサンがはかどるし、いつでも先生を手元に召喚できる!
ですが、撮影のタップをする手がどうしても動きません。
撮影の際のシャッター音で先生が起きたら、なんで写真を撮ったか聞かれてしまい、パニクって変なことをしてしまいかねない。
すごすご引き下がろうとした有紗ですが、その時先生の膝の上に乗っていたPCが落ちそうになってしまいました。
とっさに抑えた際、ディスプレイに表示されている者が見えてしまったのですが、そこにはこんな一文が躍っていたのです。
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16年間、ずっと僕は君に恋をしている。
思いがけない文に驚いた有紗、バランスを崩して先生に圧し掛かる形で転んでしまいました。
流石に目を覚ます先生。
結局パニクった有紗は、ありがとうございます、ごめんなさい、と謎の順序で口走り、立ち上がったかと思うと今度はバッと右手の平をつきだしてこう言いました。
先生!!じゃあね!!
……敬語使え、と心の中でセルフツッコミする有紗。
ですが豊崎先生はフッと笑い、うん、じゃあな、と言ってくれたのです。
嬉しさと安心が入り混じった感情を抱きながら、帰ろうとする有紗なのですが……そこで今度は、なんで絆創膏を張っていないのか、と質問されてしまいました。
大事にとっておきたいから、と言うわけにはいきません。
何か言い訳を考えなければ。
必死に頭を回転させた有紗の中で閃いたのは、絆創膏を貼ったところから独特のにおいがするあれでした。
そこでとっさに有紗はこんなことを行ってしまうのです。
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変な匂いがするので……

先生からもらったものは変な匂いがする、と言う風にとらえられてしまうその言葉。
ですが有紗はそのまま逃げるように帰ってしまったのです。
誤解を解くなんて無理、逃げるしかなかった。
余計傷つけそうだったし。
そうやって有紗はずっと後悔しながら、家に帰っていました。
そんな時に彼女の耳元で囁くのは、想像上の友達、マロンです。
本当にゴミね、そうやって人とまともに向き合わないから、誰も誕生日祝ってくれないのよ。
そもそもあなた誰かの誕生日祝ったことある?
プレゼント用に描きかけた似顔絵完成させたことある?
衝突を恐れて周囲を避けてきたから、誰もあなたを必要としなくなっちゃったのよ。
まぁ、思う存分楽しなさい。
人ってしんどいものね。
それにあんたが天然で馬鹿やらかすと、
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みんなもしんどいもの。
……自分自身の心の声に耐えきれなくなった有紗、うるさいってば、とマロンを振り払おうとするものの、当然そこには誰もいないわけで。
バランスを崩して転んでしまう有紗……
ですが体を覆う冷たい雪の感覚は、むしろ有紗を心地よい気分にさせるのです。
一人の夜道も心地いい。
心の化け物が暴れ出しても、誰も傷つけずに済むから。

数分後、有紗は……豊崎先生の車の助手席に乗っていました。
よからぬ目的を持っていたと思われる男が有紗に声をかけ、だまして連れ去ろうとしていたのですが、そこに通りがかった豊崎先生が助けてくれたのです。
今の時間は、23時。
豊崎先生は有紗を家に送りがてら、こんな時間まで外にいることを怒ろうとしているのでしょう。
有紗は、詳しく聞かれる前から言い訳を始めます。
実はさっきまで駅の待合室にいた、今日誕生日だなぁと思って、まるごとバナナ買って……
そこまで言いかけると、豊崎先生はまっすぐ有紗を見つめてきました。
そして車を動かしながら、誕生日について聞いてきたのです。
お前の誕生日って20日じゃなかったのか?
友達がどんなサプライズにしよう、って張り切ってたぞ、と。
どうやら有紗、持ち前の天然で「8日」を「ようか」ではなく、「はつか」と読んでいたようで……
誰にも祝ってもらえない誕生日、と言うのがそもそも彼女自身の勘違いによるものだったことのようです!
お祝いをしなきゃな、と言う先生に、有紗は……勇気を出して、先生の恋バナが聞きたい、と切り出してみました。
人の恋バナを聞くのが趣味なんだと良いわけをつけたして。
先生は、嫌がらず話を始めてくれました。
誕生日を絶対教えてくれない先輩がいた。
誕生日を祝われると恥ずかしすぎて死にたくなる、と言っていたその先輩に、誕生日って祝われる人のモノじゃなくて祝う人のものでしょ、とくいさがった。
でも本音は、ただ恥ずかしがってる先輩の顔を見たかっただけで。
それが故意だと認識できた時にはもう先輩には彼氏がいて、それが今の彼女の夫で……
そこまで話した先生は、ごめんな、つまらんだろ32歳のおっさんの恋バナなんて、と謝って来ます。
ですがそこで、有紗ははっきりとこう言いました。
つまりません。
つまりません、と。

その言葉の裏にある彼女の意思は豊崎先生に伝わったでしょうか。
先生は、きいてくれてありがとう、と言ったあと、また出来ていた彼女の傷に気が付き、今度は絆創膏を貼ってくれました。
そして、こんな言葉もかけてくれたのです。
野田は人と会話してるとき、いつも心配になるほど全力じゃない?
他人の気持ちをちゃんと理解しようと一生懸命で。
野田の素敵なところよ?
でもたまには、自分自身のこと優先して、気付変えるようになってほしいのよ。
なあ野田、

おめでとうな、誕生日。
先生の言葉は、有紗に力を与えてくれたのでしょうか。
彼女は勇気を出して、もう一つのお祝いをねだったのです。
それは……

降りしきる雪の中、消えて行く先生の車のテールランプ。
そして、その光が消えた後も、有紗の掌の中には豊崎先生の姿があったのです。
もう一つのお祝い、それは先生の写真。
やった、ついに手に入れた!!
豊崎先生だこれは、豊崎先生がここにいる!!
ここに。
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自然と溢れてくる涙。
今日は1月8日。
1年で一番特別な日。
有紗はそんな日に、嬉しさで涙を流したのでした。



と言うわけで、天然の少女、有紗の恋を描く本作。
この第1話だけ見ると、非常に心の温まる、読み切りとして完成度の高いお話になっています。
ですが本作は、この第1話の路線で進んでは行きません。
人のことを考えすぎてしまい、自分の事が好きになれない有紗が、先生に対して恋をしても、行動に移すことができないのは予想出来ることでしょう。
彼女自身、このまま密かに思いを寄せ続けるだけでもいいと思っていたかもしれません。
ですが、そんな時に起きてしまうある出来事。
天然を自覚しながら、そんな自分を嫌う有紗が、周りの人の気持ちを考えすぎ、そしてその出来事に直面した彼女。
それが物語を、片思いの切なさを描くだけではない、有紗の「冒険」を描く物語へと変えて行くのです!!

描き下ろしの跡が気によりますと、連載開始当初はこの展開にする予定はなかったらしい、第1巻後半の展開。
叶わない恋の物語とはがらりと毛色の違う後半の展開ですが、だからと言って本作の面白さが薄れるわけではありません!
有紗がこの展開でどのように変わっていくのか?
そして変わった後、自らを見直し、どう行動するのか?
有紗の意地らしい行動をはじめとした、胸を打つ様々な展開が満載の本作、これからの展開も見逃せません!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!